20話「カフェにて」
――11時に、駅前のカフェ集合
そのLimeを再確認しながら俺は、一緒に送られてきたURLにあったカフェの前に来ていた。
腕時計を見ると、まだ時間は午前10時。
今日は、これから三枝さんと遊びに出掛けるんだという緊張のせいか、無駄に早起きしてしまった俺は予定よりかなり早く駅前に来てしまったのだ。
まぁ、カフェの中でゆっくり待ってようと扉を開けると、まだ早い時間のため中のお客さんは疎らだったのだが、一人だけ放つオーラが全然違う人物が一人、優雅にコーヒーを飲んでいる姿が目に入った。
――案の定それは、三枝さんだった。
今日の三枝さんは、この前のライブの時と同じ丸形の大きいサングラスをかけ、ベージュのノースリーブワンピースの上に薄い茶色のカーディガンを羽織り、あとはカーディガンと同色系のバッグとパンプスという、とても高校一年生とは思えないような大人なオシャレを完璧に着こなしていた。
本人は変装してるつもりなんだろうけど、なんていうか一つ一つの物の品がとても良く、オシャレ過ぎて完全に芸能人のオフ感満載だった。
え?俺今からあんな完璧女子と遊びに行くんですか?と、合流する前から早速緊張で変な汗が流れ落ちるのを感じた。
そんな三枝さんも、Tシャツにデニムという至って普通の服装で来た俺に気が付いた様子で、左手でコーヒーのマグカップを持ったまま、空いた右手を小さく挙げてこちらに振ってくれた。
俺もそれに手を挙げて応えたのだが、三枝さんの浮かべる笑みは若干ぎこちなく、マグカップを持つ左手はガタガタと震え、今にもコーヒーが溢れそうになっているのが俺は気になって仕方なかった――。
◇
「ごめん、待たせちゃったかな?」
「い、いいいや、さ、さっき来たところだからっ!」
「そ、そう?なら良かった」
俺は待たせてしまった三枝さんに謝りつつ、向かいの席へと腰をかけた。
やっぱりガチガチの三枝さんだが、もしこれで時間通り来てたらこれから一時間待たせてしまう事になっていたから、早く来て良かったなと俺は胸を撫で下ろした。
向かいに座ってみると、今日の三枝さんはうっすらとお化粧をしている事に気が付いた。
その元々ぷっくりとした可愛らしい唇にはピンクのリップが塗られており、艶やかに潤っていた。
今日の三枝さんは全く抜け目が無い感じで、なんていうか本気さが感じられた。
大きいサングラスで顔を隠しているから、彼女がエンジェルガールズのしおりんだという事はそう簡単にはバレないだろうけど、今目の前にいる彼女がSSS級美女だという事は一目で伝わってくる程だった。
「い、いい一条くん!きょ、今日の私ど、どうかな?」
そんな完璧美少女は、顔を赤らめながらそんな事を聞いてきた。
今日の私どうかなって?そりゃもう……
「とっても素敵だよ。正直これからこんな可愛い子と遊びに出掛けるんだって思うだけでも、ヤバイぐらい緊張してるよ」
俺は恥ずかしさを誤魔化すように頬をかきながら、そう素直に答えた。
すると、三枝さんは更に顔を赤くしながら恥ずかしそうに下を俯いてしまった。
そして、
「……も……いいよ」
「え?なんか言った?」
「う、ううん!あ、ま、まだ時間早いしもうちょっとここでゆっくりしよっか!」
三枝さんは何かボソボソと呟いていたけど、何を言ったのかしっかりと聞き取れなかった。
もう少しここでゆっくりしようとの事なので、俺も店員さんにコーヒーを注文した。
しかし、こんな美少女を前にして改めて何を話したら良いのか分からなくなってしまい、無言の時間が流れる。
ちょっと気まずくて下を向いていた俺は、これじゃいけないと思い勇気を出して前を向くと、そこには同じく緊張した様子の三枝さんが……居なかった。
そこには、両手で頬杖をつきながら、少し緩んだ表情で嬉しそうに俺の顔をガン見している三枝さんの姿があった。
「さ、三枝さん?」
「あ、ご、ごめんなさい!つい!」
ん?つい?
ついで、俺の顔なんかをガン見するもんだろうか……。
そんな事を考える俺の事なんてお構いなしに、三枝さんは何かを思い出したように「ウヘヘ」とちょっと気持ち悪い笑い声を漏らしながら、鞄からゴソゴソと何かを取り出していた。
鞄から取り出したのは、黒のブレスレットだった。
「こ、これ、一条くんにあげる!」
「え?い、いいの?」
「うん!その代わり、今日一日それ付けててくれる?」
「あ、あぁ、いいけど」
そう返事をすると、三枝さんに貰ったブレスレットを俺は黙って右腕に巻いた。
これ、作りしっかりしてるし決して安くないよな……と思いながらも、三枝さんからまさかのプレゼントを貰えた事が俺はめちゃくちゃ嬉しかった。
――でも、早起きした俺は知っていた。
今日の朝の番組でやっていた、占いの結果を――。
『今日のてんびん座のラッキーアイテムは、黒のブレスレット!これをしていると異性との素敵な出会いがあるかも!?』
――うん、10月生まれの俺はてんびん座なんだよね。
前を向くとそこには、サングラス越しにも目をキラキラさせており、そして何かを期待するような感じで嬉しそうに微笑みながら小さくガッツポーズをする三枝さんの姿があった。
こうして今日も三枝さんは、いつもとは違うベクトルで挙動不審全開なのであった――。
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