7話「DDG」

 いよいよ、DDGのライブ当日。


 俺はこれまでのバイトで貯めたお金で買った新しい洋服を着こんで、孝之との待ち合わせ場所に向かった。


 それなりなブランドの新作でトータルコーデしてきた今の俺は、高校生にしてはきっと恥ずかしくないはずだ。

 なにより、こういう時全力で楽しむために、俺はこれまでバイトを頑張ってきたのだ。

 人生メリハリ大事!



 遅れて待ち合わせ場所へやってきた孝之も、いつもよりお洒落をしてきていた。


「おう!卓也お待たせ!気合い入ってんな!」

「それは孝之もだろ」


 お互い余所行きのお洒落をしてきた事を笑い合うと、俺達は早速ライブ会場へ向かった。



 ◇



 ライブ会場へ着くと、既に多くの人で溢れていた。

 男性ファンは勿論、DDGは女性ファンも多い事から大体男女比は半々といったところだった。


 俺達はエントランスでチケットを差し出すと、腕にリストバンドを巻かれて無事入場できた。



 人で溢れる会場の雰囲気が、いよいよ本当にライブへ来てしまったんだなという事を実感させる。


 孝之は、会場に設置されたグッズ販売ブースへ向かい、色々とライブグッズを物色していた。

 この会場の雰囲気に後押しされた俺も、きっと暑くなりそうだしDDGのロゴがプリントされたタオルを購入して首にかけた。



 こうして、早々にグッズ購入を済ませた俺達は、ライブ会場の前の方へと早めに移動した。


 この会場は、スタンディングなら最大収容人数1800人とあるだけあって、中はかなり広かった。


「いよいよだな!」

「そうだな、俺こういうライブ初めてだから、ちょっと緊張してきたよ」


 そう、俺はこういう音楽のライブに来るのなんて人生で初めてだから、内心かなりワクワクしていた。


 ステージの上からは、音の調整だろうか時折楽器の音が鳴り響き、これからライブが始まるんだという雰囲気が俺のワクワクを更に加速させる。


 正直、自分という人間は人より冷めてる人間だと自覚しながらこれまで生きてきたけれど、本質的には俺もみんなと同じだったんだなって思った。


 別に斜に構えて生きてくつもりもないから、それならそれで良かったし、今の俺ならみんなでカラオケ行くのも別に悪くないのかもなって思える程、気持ちが上がっていた。



 ◇



 突然、会場の明かりが全て消える。


 それに合わせて、沸き立つ会場。

 俺にも分かる、いよいよライブが始まるのだ!



 暫くすると、多方面から一斉にステージに向かって照明が向けられた。


 そして、照らし出されたそこには、楽器を持って既にスタンバイしたDDGの五人がいた。



 その瞬間、一気にどよめく会場。


 俺も、目の前に現れたDDGに興奮が押さえられなかった。

 孝之に紹介されて以降、通学時や家で一人の時何度も聞いたDDGが、今目の前にいるんだからそれはもう仕方のない事だった。


 そして早速、演奏が始まる。

 イヤホンや家のスピーカーを通して聞く音と違い、大音量で重低音が身体に響く程の迫力、そして――




「今日は来てくれてありがとうー!最高に盛り上がって行くぞぉ!!」



 生のYUIちゃんの一言で、一気に会場のボルテージは最高潮にまで達したのであった。



 ◇



 それからは、本当に圧巻だった。

 あれで本当に同い年かと思える程、DDGのステージは素晴らしい以外の何物でもなかった。


「卓也……俺ちょっと泣きそうだわ……」

「おう……分かるわ……マジで凄いな……」


 俺達だけではない、今ここにいる全員がDDGの作り出す空気に包まれていた。


 当初は、俺も孝之も今日は生でYUIちゃんが見れるなんて軽い気持ちだった。

 けれど、今はステージの上で最高のパフォーマンスをするYUIちゃん、そしてDDGのメンバー五人全員の虜になってしまっていた。





「ふぅ、皆盛り上がってるぅ?ちょっと休憩させてね!」


 ぶっ続けで五曲演奏したところで、ちょっと休憩と彼女達のフリートークが始まった。


「YUI、今日はなんでここに来たんだっけ?」

「ん?そりゃ私達の新しいアルバムが出るから、今色んなところでライブ巡回してるんでしょ?」

「それはそうだけど、今日はみんなにもう一つあるんじゃなかったっけ?」


 ベースのMEGちゃん、続いてドラムのSARAちゃんがYUIちゃんに話を振る。

 なんだなんだと、会場もそんなDDGのトークに耳を傾ける。


「あーそうだった。そうなんだよ、他のライブじゃない、今日この会場だけのとっておきのサプライズがあるんだった!」


 予定調和なのだろう、ニヤリと笑ったYUIちゃんが会場に向けて語りかける。





「みんな!ここでスペシャルゲストの登場だよ!準備はいいかぁー!?」


 その声に合わせて、他のメンバーが演奏を開始する。


 そして俺は、その曲に聞き覚えがあった。


 だがこれは、DDGの曲ではなく――そう、これはエンジェルガールズの代表曲『start』のイントロだ!!



「なんと私達のライブに、今日だけ特別にエンジェルガールズの皆が駆けつけてくれたよー!!」



 そんなYUIちゃんの一言に合わせて、なんと国民的アイドルグループ『エンジェルガールズ』の皆が一斉にステージ上に現れたのであった。



 ―――なにこれ!どうなってるの!?


 突然のナンバーワンアイドルの登場に、会場は困惑と興奮に包まれる。





 そんな盛り上がる会場の中、俺は突然背中をポンと叩かれた――。


 驚いて後ろを振り返るとそこには、丸縁の大きなサングラスをかけた三枝さんの姿があった。


「良かった会えたね!」


 そう言って、サングラスを外しながらニッコリと微笑む三枝さん。


 こうして、何故か俺はこれから始まるエンジェルガールズのライブを、エンジェルガールズでセンターを務めていた、しおりんこと三枝さんと一緒に見ることになった。




 ―――え?なんだこの状況!?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る