第119話 情報集め

「それじゃあ、今後の事を話そうか」

「六竜を探すのよね?」

「うん、天竜と水竜の加護はもう持っているからそれ以外の竜を探すよ」

「どこに居るのよ?」

「それなんだよね……」


 かつて師匠が辿った道である六竜の加護を得るんだけど、手掛かりが何一つ無い。


「こんな時は……エドさん!」

「何だよ?」

「ズバリ、六竜の居場所は?」

「俺が知っている訳ねぇだろうが……」

「やれやれ、役立たずなのは相変わらずですか」

「テメェは……じゃあお前は知ってるのかよ?」

「知らないから聞いているんですよ? そんな事も分からないんですか?」

「結局知らないんじゃないか。役立たずめ」

「あー、ダメですよ。役立たずはエドさんの代名詞なんですから」

「ぶっ飛ばすぞ?」


 だけど、竜の住処なんてどこをどう探したら良いのかねぇ?


「あのー」

「ミシェルどうしたの?」

「天竜はともかく水竜は海の底に居たんですよね?」

「うん、そうだね」

「それなら他の竜もそれぞれの属性に合った場所に居るんじゃないでしょうか?」

「おお、流石ミシェル。どこかの役立たずのエドさんとは全然違う建設的な意見だね」

「どこかの、とか言いながら名前を言うんじゃねぇ!」

「細かい事にこだわらないで下さい。さて、それじゃあ火竜から行きますかね」

「火と言えば……」

「火山だよね!」

「安直な考えだな」

「あー、あれ美味しいですよね。パスタなんかに良く入れていますよ」

「アンチョビじゃねぇ! 安直だって言ってんだよ!」

「エドさん……もしかして情緒不安定なんですか?」

「ああそうだな。全部お前の所為だけどな!」

「何でも人の所為にしないでちゃんと自分と向き合って下さいね?」

「黙れ!」


 この世界で火山と言えば有名どころは、氷鏡の活火山なんだけど、本当にそこに火竜が居るのかと言う問題がある。


「闇雲に行動しても時間の無駄だから、竜の情報を集めてから目的地を決めた方が良いと思うわ」

「そうだね。じゃあみんなで手分けして竜の情報を集めよう!」

「あ、ハルトは私と一緒ね。目を離す訳にはいかないから」


 やれやれ、すっかり危険人物扱いですか……


 レヴィの心配性にも困った物だね。だけどそれで本人が安心出来るならそれで良いか。


 相談の結果、パーティーを二つに分けて行動する事になった。


 まずは僕とレヴィ。そこへ更にしっかり物のミシェルと何故だか知らないが漆黒がおまけについて来る。


「何ですかその顔は?」

「いや? 別に漆黒かー、なんて思ってないよ?」

「絶対思っているじゃないですか。私のどこが不満なんですか!」

「残乳」

「うっ……」

「後は、戦いでは何の役にも立たない」

「ううっ……」

「借金もまだ返して貰って無いし」

「レヴィさーん。ハルトさんが私の事をいじめるんですよー」

「ああ、うん。まぁ事実だしねぇ」

「突然の裏切り! レヴィさんだけは私の味方だと思っていたのに……ミシェルさんは?」


 漆黒に見つめられたミシェルはさっと目を逸らしている。


「あからさまに避けられてる!?」

「まぁなんだ。漆黒、ドンマイ」


 若干落ち込んでいる漆黒は放置して、残りのメンバーは風香とシャルにお目付役のエドさんで決定した。


「しっかり頼みますよ?」

「お前に言われたく無いんだがな。それよりも活動資金は貰えないのか?」

「年下にお金を集る中年オヤジか……」

「俺はまだ28だ! 誰が中年だ誰が!」


 この顔で28とか……なんて可哀想な人なんだろう。もう少しだけ優しくしてあげよう。


「何だよその顔は?」

「いいえ。何でもありません。これで美味しい物でも食べて下さいね」

「ハルト」

「何ですか?」

「その台詞を言う時はな、ナイフとフォークじゃ無くてお金を渡すものだと思うぞ?」

「へー、そうですか。ジェネレーションギャップって奴ですかね?」

「年齢なんてほとんど変わらないだろうが!」


 いつでも、どんな時でも僕達のパーティーはこんな感じで過ごしている。例え後三年で世界が滅ぶと知ってもなお、悲観する事無く前を向いて進む。


「さて、レヴィ。どこに行けば情報か集まるかな?」

「お金を掛けないなら当然ハンターギルドね。それか酒場に行ってみるとか。多少お金が掛かっても良いなら情報屋を雇うのアリね」

「よし、ギルドに行こう」

「お金使いたく無いのね……」


 レヴィ、良く考えて。お金は大事だよ?


「ハルトさんはお金をたくさん持っているのに全然使わないんですよねー」

「お金なんて使おうと思ったらすぐに無くなってしまいますから、散財する人よりも堅実的で良いと思います」

「ミシェル、甘いわね。ハルトはね、突然変な事にお金を注ぎ込むのよ? この間だってさ……」


 うんうん。ウチのパーティーはみんな仲が良いねぇ。三分の二が僕の批判なのは気が付かなかった事にしておこう。


 お昼過ぎに到着したからなのか、ハンターギルド内は閑散として、ほとんど人が居なかった。


「誰かに聞くのは諦めた方が良いみたいだね」

「でも、何か知っている人が居るかも知れないから私達は聞き込みをして来るね」

「はーい、いってらー」


 一人残った僕はギルドライセンスを使用して依頼の検索をしてみる。


 内容はもちろん、竜についてだ。


 何件かヒットしたものの、その内容は竜の素材を探して欲しいという物で居場所を特定出来る内容では無かった。


 検索は諦めてギルド職員に聞いてみるかね。


 ここしばらくの間、依頼をこなしていない事もあり、ついでに簡単な納品依頼を受注して、バックの中に仕舞い込んである物を持って納品受付へと向かう。


「こんにちは。依頼品を持ってきました」

「ハルトきゅ……君じゃないの。お久しぶりね」


 受付に居たのはなんとジニア帝国のギルドで受付をしていたファニーさんだった。


「ファニーさん。ここで何をしているんですか?」

「何ってここのギルドに移動になったのよ」

「ジニアからオウバイへ移動ですか? そんな事もあるんですね」

「そ、そうよ。良くある話だから。自分から望んで来たなんてことは無いからね。(ハルトきゅんを見ていたかったからなんて絶対に言えないわ)」

「何か言いました?」

「何も言ってないわ!」


 挙動不審なファニーさんだが、結構いつもの事なのでスルーしておこう。


「ファニーさん。少し聞きたい事があるんですが、今、時間ありますか?」

「ある! 何でも聞いて。ちなみに恋人は募集中よ?」

「そうですか。実は今、竜についての情報を集めているんですけど、何か知っていますか?」


 ファニーさん、やけに前のめりになって上目遣いをして来るんだけど、どうしたのかね?


「竜ね! ちょっと待ってて。すぐに調べるから(ここで有能な女だという事をハルトきゅんにアピールしておかなくっちゃね!)」


 ファニーさんは何故か、かなり急いで奥に引っ込んでしまった。受付が無人になったんだけどいいのかね?


「おいおい、納品受付に誰も居ないぞ?」

「何だよ、さっさと納品して飲みに行こうと思ってたのによ」

「これはギルドの怠慢だな。苦情を入れておくか……」


 あらら、これファニーさん後でこっ酷く怒られるヤツだよね?


 なんか悪い事したな。でもまぁ、ファニーさんだし別に良いか。


「お待たせハルトきゅん!」

「あの……その呼び方は辞めてもらえませんか?」 

「えっ? 何の事かしら、ハルト君」


 これでごまかせていると思っているんだ。ハートが強い人なんだな。


「それよりも竜の事なんだけどね」

「何か分かりましたか?」

「目撃証言はいくつかあるんだけど、確証があるのは一つだけね」


 へぇ、一つでも情報があったんだ。へっぽこファニーさんにしては中々やるじゃないか。


「場所は何処です?」

「ユングリッド山って言ってね。王都の北にある氷に閉ざされた山よ」

「ユングリッド山……」

「その山の山頂付近で赤い竜を見た人が居るの」


 赤い竜ね。この間みたいなドラゴン違いだけは避けたいんだけど、今のところ僕が得た情報はこれだけだ。みんなと一度合流してみるしか無いか……


「ありがとう、ファニーさん。早速行ってみます」

「あ、ハルト君。私、今日の夜は暇なのよ……って、もう居ないじゃない!」


 ギルドの休憩スペースで休んでいると三人は揃って僕の方へと歩いてくる。


「どうだった?」

「ダメね。空振りもいいところよ。何の情報も無かったわ。ハルトは?」

「僕の方は中々良い情報が得られたよ。赤い竜がユングリッド山の山頂で目撃されているらしい」

「ユングリッド山って確か北にある山よね?」

「うん、レヴィは行ったことあるの?」

「ううん、聞いたことがあるだけ」

「そうか。今はそれしか情報がないからそこへ行ってみようと思う」

「フウカ達と合流してみましょう。あっちでも何か良い情報があるかもしれないし」

「そうだね、そうしよう」


 ギルドを出て自宅に向かうんだけど、ギルドを出る時にファニーさんが、恐らく上司と思われる人にガッツリ怒られている所を目撃してしまった。


 かなりキツく怒られているらしく、しおらしくしているファニーさんが少し可哀想になってしまった。怒られている原因は多分、僕が情報を欲しいって頼んだからなんだよなぁ。


「ねぇハルト。あれファニーよね?」

「うん、なんかジニアからこっちに移動になったんだって言ってたよ」

「へぇ、あれだけ言っておいたのにまだ諦めてなかったのね。これは一度釘を刺しておかないといけないみたいねぇ」


 レヴィはそう言って腰の後ろに着けている短刀を抜き放ちながらファニーさんへ向かって歩いて行こうとしている。


「レヴィ待って。それ釘じゃなくて刃物だから。そんな物を刺したら駄目だよ!」

「これくらいしておかなくちゃ理解出来ないみたいなのよ。止めないで!」


 ギルド内での武器の使用は原則禁止されている。幸い人が少ないせいか、誰にも見咎められることは無かったようで、騒ぎにはならなかった。


 怒りに身を震わせるレヴィをなんとか宥めて自宅へ戻る。


 でも、何であんなに怒っているのか分からないんだよねえ。理由を聞いてもただ一言、ハルトは知らなくて良いの、としか言ってくれないし。


 その後、あのアバズレがとかブツブツ言ってるし。


 ファニーさんは一体何をしたんだろうね?


 プリプリしているレヴィを引っ張りながら自宅に戻ると風香達は既に戻って来ていた。


「どう? 何か良い情報あった?」

「なーんにも無いわ! この風香様が情報一つ集められないなんて、竜は手強いわね」


 風香は脳筋だからねぇ。元々、情報収集なんて向いていない。


「それで、そっちはどうだったんだ?」

「ユングリッド山で目的証言がありました」

「選りに選ってあそこかよ……」

「エドさんは行った事あるんですか?」

「ああ、一度だけ採取依頼で行ったんだが、ずっと雪が降っている山でな。天候が悪くなって吹雪いてきたんですぐに戻る羽目になったんだ。精々、中腹までしか行けなかったな」


 雪かぁ。寒いんだろうな。

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