第100話 ノーモニスの動乱

 翌朝、ノーモニスへと向かい、丁度朝の門が開く時間に街に到着した。


 大勢の人が行き交う門を通り抜けノーモニスの中央通りを歩く。


「レヴィ、宿を探しておいて。僕はギルドへ昨日の事を報告に行ってくる」

「分かった、任せて」


 女性陣は全員で宿探し、僕とエドさんの二人でギルドへと向かった。


 ギルドは中央通りの突き当たりにあり、割りかし簡単に見つかった。


 キイキイと鳴る扉を押し開けて中に入る。


 早朝の依頼ラッシュはもう終わっている様で、中に居る人はそこまで多く無かった。


 暇そうな受付に声を掛けると、しばらく待たされた後に奥の部屋へと案内された。


「何なんですかね?」

「さあな、だが面倒な話なのは間違い無いだろうな」

「僕はお金を稼ぎたいだけなんですけどね……」


 その後、さんざん待たされたあげく、部屋に入って来たギルド関係者に報告をする。


「それで、その馬車に他の人は居なかったのかね?」

「さっきから何度も言っていますけど?」


 何度も念を押して同じ事を聞かれて、辟易している僕の態度が悪くなるのは当然だろう。


「本当に他には誰も居なかったんだね?」

「居ませんでしたよ。それより、そろそろ帰りたいんですけど?」

「もう少し待ってくれ。周囲に誰か倒れていたりとかは確認していないのか?」

「またそれですか……夜なので危険があるから、そこまで調べて無いと言いましたよ。もう勘弁して下さいよ」

「あと二人、女性が居たはずなんだけど、見なかったか?」

「居ないと言っているでしょう!」


 あと二人……グレイスさんの他に誰かが居た。そしてギルドがここまでしつこく聞いてくるって事は、結構な重要人物なんだな。一体誰だろう?


 長い尋問が終わり、解放された頃にはもう、お昼近くなっていた。


「うう……長かったですね」

「俺は腹が減ったぜ。飲み物すら出そうとしないんだからな……」


「ハルト、こっちこっち!」


 レヴィが、ニコニコしながら手を振っている。


「やぁ、レヴィ。宿は取れた?」

「うん、それなんだけど……」


 宿の話をすると、途端にレヴィの顔が曇る。


「一泊金貨十枚? 何でそんなに高いのさ?」

「ごめんなさい……」


 稼ぎに来た筈なのに、滞在するだけでそんなに使っていてはなんの意味も無い。


「キャンセルは出来ないの?」

「うん……」

「分かった。今日は仕方ないからそこへ泊まろう。案内してくれる?」

「はい……」


 レヴィに元気が無い。やはり流石に使い過ぎだと思っているのだろうな。


 足取りの重いレヴィに案内してもらった宿は、値段が高いだけあって部屋も広く、サービスも充実している良い宿だった。


「なんでこんなに高い宿を取ったの?」

「「なんとなく!」」


 風香とシャルが元気良く答える。


 そうですか……


 二人の楽しそうな顔を見ると何も言えなかった。


 これはもっと安い宿に泊まる事を考えるよりも、稼ぎにシフトした方が良さそうだな。


「僕達はお金を稼ぐ為ここに居る。それは分かっているよね?」

「もちろんよ!」

「それなら今日からガンガン働いて貰うから、覚悟しておいてね」

「「「はーい!」」」


 みんな返事だけは良いんだよなぁ……


 宿を出ると、そこら中に鎧を着て駆けずり回っている兵士が目につく。嫌な予感……


「おい! お前!」


 あーあ、来ちゃったよ。


「名前は?」

「そう言う貴方は誰なんですか?」

「さっさと答えんか!」


 こんな態度の人なんて相手にしてられないや。


「みんな行くよ!」

「待て!」

「僕は自分が誰なのか名乗らない人とは会話をしない様に師匠から言われています。もう一度だけ聞きます。貴方は誰なんです?」

「見たら分かるだろうが!」


 ダメだこりゃ。


 恐らくはここノーモニスの兵士だろうけど、そんな事は僕には関係無い。無視してギルドへと向かい始める。


「貴様ぁ! 逃げ出すとは怪しい奴め!」


 三人の兵士はいきなり剣を抜いて僕達を取り囲み始めた。


 うん、この人達はただの暴漢だな。そういう事にしておこう。


 腹パン×3!


 兵士が着込んでいる革鎧の上から腹パンをお見舞いして、気絶させる。


「ハルト……」

「何だいレヴィ?」

「いいの?」

「僕は襲われたから自分の身を守っただけだよ。こんな街中で剣を抜くなんて、この街は治安が良くないみたいだねー」


 三人の暴漢をロープで縛り上げ、私達は市民に剣を向けて襲った暴漢ですと張り紙をしていると、僕以外のメンバーは、何故か引き攣った笑いを浮かべている。


「さて、ギルドに行くよー」


 誰も返事をしなかったが、ちゃんとついて来ているので気にせずにギルドへと向かった。


 中に入り、ライセンスで依頼を物色していると、十人位の集団が駆け込んで来てギルド内が騒がしくなる。


「副団長、アイツです!」


 うん? あれはさっきの暴漢だな。


「そこの君。済まないが、少し話を聞かせて貰いたい」


 暴漢に副団長と呼ばれていた人が僕に話しかけて来た。全身を金属の鎧で固めていて腰には剣を下げている。


「どなたですか?」

「私はノーモニスの第二騎士団の副団長のアート = ケアリーだ」


 ふむふむ、副団長さんね。


「どんな御用ですか?」

「実は我が部隊の兵士を犯罪者扱いした者がいてな。その調査をしている」

「それで?」

「その兵士の話だと、君がやったと言うんだが?」

「身に覚えは無いですね」

「貴様! よくもぬけぬけと……」


 うーん、このままだと犯罪者になってしまうな。


「ついさっき、いきなり剣を抜いて襲って来た暴漢を叩きのめした事は覚えていますけど、その事ですかね?」

「ほう? 私が聞いた話とは違うな」

「街中で剣を抜いて囲まれたんです。自分の身を守る為に戦うのは当然じゃ無いですか?」

「事実か?」


 副団長のアートが背後に向かって問いかけると、兵士達はなにやらもごもごと言っていたが、剣を抜いた事を渋々認めた。


「どうやらこちらに非があった様だな。おい、お前たち、この人に謝罪しておけ!」

「すいませんでした」


 三人の暴漢改め、兵士達が頭を下げている。


「まぁ、こっちに特に被害は無いので構いませんよ」

「そう言ってくれると助かる。それでだ、今私達はとある人物を探しているところなんだが、ハルトと言う少年に心当たりは無いか?」


 むむ? これで終わりかと思ったけど、騎士団が僕を探しているだって?


「あー、僕の名前もハルトですが……」

「ほう、では昨日ギルドにノーモニス郊外で起こった馬車の襲撃を報告したのは……」

「僕ですよ」


 何故、ギルドから情報が漏れている?


「それならば、詳しく話を聞きたい。同行して貰おう」

「拒否権はありますか?」

「無くは無いが、いずれ話を聞く事には変わりは無い」


 やれやれ、面倒事は先に終わらせておいた方が良いみたいだね。


「分かりましたよ。僕だけで良いですよね?」

「いや、あの場所に居合わせた全員から話を聞きたい」

「それは流石に無理ですよ。僕達は仕事がありますからね」

「ならば三人ではどうだ?」


 三人か……四人居れば仕事に支障は無い。


「仕方ないですね。それじゃあ……」


 誰を連れて行くかな?


 恐らくは貴族相手の話になるだろう。


「ハルト、ボクを連れて行って」

「シャル?」

「お願い」


 いつに無く真剣な顔だ。何か理由でもあるのかな?


「シャルがそう言うなら着いて来て貰おうかな」

「うん、ありがと」

「後は……ミシェル、お願いできる?」

「はいハルト様。お供致します」

「レヴィ、後の事は頼んだよ」

「ハルト、俺も居るぞ?」

「あっ、私も居ますからね?」


 エドさんとレスリーか……


「レヴィ、君だけが頼りだ。よろしく」

「おい⁉︎」

「ハルトさん? 私は?」

「はいはい、行ってらっしゃい」

「春人、お土産よろ。ノーモニス饅頭でいいわ」


 ノーモニス饅頭、あるかなぁ?


―――――――――――――――――――――


「アートさんお待たせしました。こちらはこの三人です」

「うむ、では案内しよう」


 ギルドを出て向かった先は案の定、ノーモニス領主の館だった。


「ミシェル、ここの領主さんはどんな人か知ってる?」

「はい、マルコム = ゲンズブール=ノーモニスです。代々この街を治めているオウバイでも古参の貴族なんですけど……」

「何か問題あり?」

「気性の激しい方で有名なんです」


 あらら、これは気をつけて話をしないといけないな。


「それに、今は後継問題で頭を抱えていらっしゃると聞いています」

「どんな問題なの?」

「たしかお子様がお一人で、その上女性らしくて……」

「うん? 女性だと後を継げないの?」

「そんな事はありませんが、領主の仕事は激務なので女性では体力的に少しキツイかと」


 ふむふむ。話を聞くだけで嫌な予感が止まらないな。


 ミシェルから情報収集をしている間に領主の館へと到着してしまい、すぐに領主のマルコムとの面会になる。


「お探しの人物を連れて来ました」

「うむ、ご苦労だった」


 面会している場所はマルコムの執務室。


 椅子にふんぞり返っている領主の前に立たされ、背後に控える兵士に入り口を押さえられている。


「それでは聞こうか」

「どこからお話すれば良いですか?」

「勿論、君が知っている事全てだ」

「長くなりますよ?」

「構わん」


 馬車を発見した辺りからマルコムに話を伝える。時折頷いたりはするが、遮られる事も無く黙って話を聞いてくれた。


「という訳で、それをギルドへ報告しておきました」

「うむ、ギルドからの報告通りだな」


 全部知ってたんかい!


「それで、君たちの処遇だが……」


 うん?


「この者達を投獄しておけ」

「はっ!」

「いやいや、待ってください! どういう事です?」

「無論、我が娘の誘拐犯として明日処刑を行うのだ」


 コイツは何を言っているんだ?


 娘? 誘拐? 処刑?


「私の大切な娘を誘拐したんだ。処刑は当然だ」

「ハルト様……ここは私が」


 ミシェルか。


 彼女の名前を出せばすぐに解放して貰えるんだろうけど、このまま引き下がるのは嫌だな。


「いや、このまま大人しくしておこう」

「でも……」

「大丈夫、僕に任せて」

「はい……」


 領主のマルコムが何を考えているのか、それを知りたい。


 それにあの馬車にいた筈のグレイスさんの行方も気になる。あそこで拾ったグレイスさんの槍も返してあげないといけないしな。


 こうして僕は牢屋へと入れられてしまったんだが、この世界に来てから何度目だろうか?


 牢暮らしに慣れて来ている自分が嫌になって来たよ。

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