第69話 大神官との出会い

「久しぶりだな」

「アンタは……ギン!」

「ククク、この帝国で俺の事を呼び捨てにする奴なんて、お前くらいだぜ?」


 大賢者ギン。とある事件で出会った帝国のナンバー2で、会いたくない人ランキングはぶっちぎりでナンバー1の男だ。


「元気そうじゃないか」

「誰かのせいで、一回死にかけてますけどね」

「ほう? そりゃあ大変な目にあったもんだな」


 どの口がそんな台詞をいうのか。やっぱりコイツは嫌いだ。


「まぁ、それは置いといてだな。皇帝陛下からの勅命を伝える」

「命令される筋合いなんて無いね」

「ククク、それな。気持ちは分かるが聞くだけ聞いておけよ。今回の騒動の事はもう知ってるな?」

「無能な皇帝と名ばかりの賢者が手をこまねいているのは知っているさ」

「テメェ……後で覚えてろよ! この事態を収束させる為に、現在緊急招集に応じたAランクの奴らと共にシドルファスと名乗る男を撃退せよ。これが皇帝陛下のお言葉だ。ありがたく拝命しておきな」

「嫌だね!」

「ククク、お前良いな。絶対にそう言うと思ったぜ。だがな、良く考えてみろよ? 今ここに居るって事はだな、今回の件にもうすでに関わっているんだろう? お前ならあの男とすでに遭遇していてもおかしいとは思わんぜ」


 中々鋭いね。大賢者の名前は伊達じゃないか。


「それと、この作戦に参加した者には報奨金が支払われる。1パーティあたり金貨五千枚だ。安いと思うか高いと思うかは分からんが、参加するだけで貰えるんだから、良い稼ぎじゃないか?」


 むむ? それは少しだけ心惹かれるな。


「勿論、誰でも参加出来るわけじゃ無いぞ? Aランクかこちらが参加要請をした奴に限る。五千枚だぞ?」

「ふ、ふん。今回だけだからな! べ、別にお金が欲しいんだから、勘違いしないでよね!」

「煩え! 野郎のツンデレなんて需要ねぇわ! 二日後の早朝、北門の外に集合だ。遅れるなよ!」


 言いたい事だけを言ってギンは去って行った。


 なんだかんだで上手く丸め込まれた様な気がしないでも無いが、どっちにしろシドルファスとは戦わなくてはいけないんだ。


「ハルト、いいのか?」

「仕方ないでしょう? それに、Aランクの人達がどの程度の強さなのかは分からないですけど、にくか……味方は多い方がいいと思います」

「Aランクの奴らを肉壁扱いするのはお前くらいだよ、誰かに聞かれてないだろうな?」


 辺りをキョロキョロと見回すエドさん。


「聞こえたわよ?」

「ファニーさんなら大丈夫でしょ?」

「ふふ、まあね」

「ファニーさんは今回の作戦に参加するメンバーを知っていますか?」

「ええ、それを伝えに来てあげたのよ」


 Aランク、それはギルド員の中でも群を抜いて優秀な者のみが名乗れる、言わばギルドのトップ。揃いも揃って化け物じみた強さを誇ると言う。


 ただし、全員が癖のある人物らしくギルドでさえも扱いに困るような変人ばかりらしい。


 そんな中、今回参加するメンバーはこんな感じ。


 落ちた聖剣 ガイア=オクリーヴ。


 巨体を生かして巨大な聖剣を振るう剣の達人だが、いつしか闇に魅入られ闇落ちした老人。


 神槍 グレイス=バーニー。


 槍の一族と呼ばれるバーニー家の後継。言動と服装に問題あり。


 大元帥 フランシール=エカテリーナ。


 言わずと知れたオウバイの大元帥でレヴィの母。


 そして、ああ、傭兵団。


 ギルドライセンスの検索で上位になると理由だけで付けられた名前を持つ傭兵団。レイピアを使用した集団戦が得意。


「うわぁ、聞いただけですけど、濃い面子ですねぇ」

「実際に会うともっとヤバい奴らだぞ?」

「ああ、エドさんは知っているんですね」

「何度も仕事で会っているからな。できる事なら関わりたくないが……」

「みなさんで協力してくださいね!」


 ファニーさんは簡単に言うけど大丈夫だろうか?


 まぁ、僕は優秀な肉壁が居てくれればそれでいいけどね。


「さてと、エドさん。出発まで時間がありますし、僕達自身の強化をしましょうか」

「強化って言ってもな、具体的には何をする?」

「まずは教会ですかね」

「ハルト、私たちは?」

「疲れてるだろうから家で休んでていいよ。こっちは二人で大丈夫だから」

「分かった。先に帰ってるね。レスリー、行こう」

「はい、ハルトさん、エドさんお先です」


 二人と別れ教会へと向かう。


 帝都にある教会は大教会と呼ばれ、毎日大勢の人が訪れる場所である。


 ギルドから歩いて十分程の場所にあり、すぐに大教会が見えてきた。


「けどよハルト。俺は獣人だ。教会に行ってもスキルを付けて貰えないどころか、中にすら入れないぞ?」

「いい加減その差別を止めればいいのに……」

「教会からすると差別ではなく区別らしいからな。自国民のみ利用可能という建前だな」

「苦しい言い訳ですよねぇ」


 エドさんと二人連れだって歩き、教会へ向かうと入り口で兵士に止められてしまった。


「待て、お前たちの今の発言は教会批判だな?」

「んー、ただの世間話ですよ」

「いや、そうは聞こえなかったが?」

「耳が悪いんじゃないですか?」

「貴様! おい、こいつらを捕らえろ!」


 入り口近くの詰所から殺気だった兵士が飛び出してきた。


「さあ、観念するんだな」


 僕達に剣を突きつけて来た兵士達。その時、教会内から一人の女性がひょっこりと顔を出す。


「なんの騒ぎですか?」

「これは聖女様! 今、不届き者を捕らえる所です!」

「あら? まあまあ! もしかしてハルトさんじゃないですか?」


 聖女と呼ばれた人物は可愛らしい着物を着てぽっくり下駄をカランコロンと鳴らしながら近寄って来た。


「お話をするのは初めてですね。その節はお世話になりました。私がこうしていられるのも貴方のおかげと聞きました。如月千登勢と申します」


 風香達を助けた時に一緒に解放された人だな。あれから全く会う事も無かった。


 まあ、僕が意図的に避けていたんだけどな。


「今日はここへ何しに来たのかしら?」

「教会ですからね。当然スキルが目的です」

「ふふ、そうでしたね。それなら私がご案内します」

「いえ、別にその必要は……」

「私は何のお礼もできていないのです。これくらいはさせて貰えません?」

「そうですか……僕の連れは獣人ですが、一緒に入っても構いませんよね?」

「ええ、もちろんです!」


 聖女が断言した事だ。一介の兵士程度が逆らえるはずもなく、まんまと教会内に潜入する事に成功した。


 先導してくれている千登勢のカラン、コロン、と小気味の良い足音を聞かながら、静かな教会内を歩く。


「スキルをどうなさるのかしら?」

「新たなスキルの取得と要らないスキルの取り外しですね」

「そうですか……両方となると司祭クラスの人ね。こちらの部屋でお茶でも飲みながら少しお待ち下さい。担当者を連れて来ますね」

「お願いします」


 千登勢が手ずから入れてくれたお茶は爽やかな香りのハーブティーで疲れた体に染み渡る美味しさだ。


 遠ざかる千登勢の足音を聞いてエドさんが嘆き始めた。


「まったく、お前の度胸には参るぜ。帝国の大教会内部に入った獣人なんて俺が初めてなんじゃないか?」

「良かったじゃないですか。快挙ですよ」

「寿命が縮んだわ! 無茶ばかりしやがって!」

「いつもの事でしょ?」

「まあ……そうだけどよ」


 お茶をすすりながら待つことしばし、千登勢が神官服を着た人物を引き連れて戻って来た。


 司祭とい言葉のイメージでオッサンを想像していたのだけど、千登勢が連れてきたのはとても小柄な女の子だった。


 小柄すぎて神官服のサイズが全く合っていない。帽子なんて少しずり下がっているくらいだ。


「待たせたかしら?」

「はい、結構待ちました」


 スパーン!


「失礼にも程があるわ!」

「突然暴力を振るうなんて、エドさんは野蛮ですね」

「だ・ま・れ! このど阿呆が」


 クスクスと笑う千登勢と神官さん。


「ほら、笑われてますよ?」

「お前のせいだろうが!」

「あはは、こんなに賑やかなのは久しぶりね」

「本当です! 楽しい方達ですねぇ」


 うん。楽しんでもらえて、なによりだね!


「紹介するわね。アルテミシア=アースキン、エスカ教の大神官よ。他の人はみんな忙しくてね。暇そうだったからこの子に来てもらったのよ」

「アルちゃんとお呼び下さい」

「僕はハルトだよ。よろしく、アルちゃん」


 スパーン!


「本当に呼ぶな!」

「本人が言ってるんだから良いんですよ。ねぇ? アルちゃん?」

「はい! 本当に呼んでくれる人がまったく居なかったから嬉しいです。私はハル君て呼んでもいい?」

「ほらね? 僕の事は好きに呼んでくれて構わない」

「やった!」

「……変わった人だな」

「良く言われます。神官達にはもっと威厳を持って下さい、なんて言われてますけどね。私は私なので、もう変えようがないんですよねぇ」


 大神官と言えば、教会ではかなりの上位の位なんだろうけど、案外砕けた人なんだな。


「それで、スキルの事なんだけど……」

「うん」

「何を付けたいの?」

「何でも良いんだ。付けてからすぐに外して欲しい」

「何の意味もないよ?」

「そうだね」


 この一見意味のない行動には僕なりの理由がある。スキルを習得する事は教会でしか出来ないと言うのがこの世界での常識になっている。


 だけど僕はスキルオーブを使用してラーニングを習得している。これはラーニング自体が特殊な物だったからと言う理由付けで納得していた。


 だが、他のスキルについてはどうなのか?


 スキルを着脱する事が出来るスキルがあり、それを教会が独占しているとしたら?


 そんな疑問を持っていて、それを確認する意味での実験の為の行為。


 もし仮にそれがスキルであれば、ラーニングする事で自由にスキルを着脱する事が出来て、パーティーメンバーの強化も容易になる。


 上手く行けば良いのだけど。


「むー、千登勢の恩人なんだからお礼の意味も兼ねて良いやつを付けてあげようと思ったのに」

「別に何も要らないよ。ちーちゃんについてはついでみたいた物だし」


 不思議そうな顔の千登勢。


「ちーちゃんって私の事?」

「あれ? ダメだったかな?」

「ふふ、そんな風に呼ばれるのは幼い頃以来ね。別に構わないわよ?」

「二人とも平等にしないとね!」


 エドさんに至っては、コイツは大丈夫なのか? みたいに見てくるけど、本人から許可が出てるんだから平気平気。


「じゃあ、アルちゃん。よろしく」

「はーい。目を閉じて、エスカ様に祈りを」


 祈りねぇ。それはどうでも良いな。


 それよりも、ラーニングを意識するんだ!


 学べ、そしてそれを自分の物にするんだ!


「はい、終わりよ」

「ふむ? 何も変化ないような……」

「スキルはちゃんと習得出来ているはずだよ?」


 早速確認してみるか。


名前 ハルト


種族 人属


年齢 17


職業 無し


技能

光魔法LV2 格闘術LV1 聖魔法LV1

火魔法LV1 鑑定 LV1 


特殊 

物理耐性LV1 空間転移  勇者 LV1


固有 ラーニング


称号 無し


 おい? なんか不穏なヤツがあるけど?


「アルちゃん! 僕に何をした!」

「ふふーん、私が出来る最高の物を付けたんだ」

「要らないよ……すぐに外して!」

「えー、ダメだよ。それじゃあお礼にならないもん」


 くそう、これは言う事を聞きそうにないぞ。


「分かった。それなら火魔法を外して欲しい」

「えー、勿体ないからダメ!」

「じゃあ、外してからすぐに付け直して」

「むー、それならいいか。はい、終わったよ!」


名前 ハルト


種族 人属


年齢 17


職業 無し


技能

光魔法LV2 格闘術LV1 聖魔法LV1

火魔法LV1 鑑定 LV1 


特殊

物理耐性LV1 空間転移  勇者 LV1

スキル付与


固有 ラーニング


 おっしゃ来たぞ! やっぱり思った通りだ。これでメンバーの強化が出来るぞ!


 嬉し過ぎて思わず歓喜の舞を踊っていると、冷たい視線を感じた。


 なんだよ、そんな目で見るなよ……嬉しくて踊る事くらい、誰にでもあるだろ?


「喜んでもらったと思っていいのかな?」

「うん、最高の結果だね!」

「良かった……」

「ちなみにアルちゃん、この勇者ってスキルだけどさ」


 僕が質問をすると千登勢が血相を変えてアルテミシアに詰め寄った。


「アルテミシア! 何を考えているのよ!」

「何が?」

「勇者スキルを彼に渡したのね?」

「そだよ? いけないの?」

「あれはそんな簡単に渡していい物じゃあないでしょう?」

「誰も使わないスキルなんて存在価値ないよ。使ってこそ生きてくるんだから気にしちゃダメだよ」

「でもそのスキルは世界で一人しか付けられないんでしょ?」

「うん。お礼にはピッタリだよね!」


 おいおい、なんかとんでもない物を貰った気がするぞ?


「ハル君、大事に使ってね!」

「ああ、うん」


 まあ、スキルを自由に付け替える事ができるんだから、要らなくなったら誰かになすり付けてしまえば良いか。


「勇者スキルは私しか授けられないんだ。だからこそ大神官なんて名乗ってられるんだよね」

「普段は何もしてないもんね」

「そうそう! する事がなくて暇でしょうがないよ」


 あー、そう来たか。


 まあ、あって困る様な物でもないだろう。


 今はそれどころじゃ無いし、放っておく事にして、エドさんの強化に乗り出そう。


 クックックッ、筋肉ムキムキのエドさんとか面白そうだな。


 スキルを与えたらどんな変化が起こるか楽しみでしょうがないよ。

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