第26話 義手の作成

 就職に失敗した。


 選択肢がニートと自宅警備員て、僕の適正はこんなもんなの?


 なので、職業は選択せずに帰って来た。つまり無職だって事だよ! コンチクショウ。


「レヴィ」

「何よ?」

「何もしたく無い」

「そう」

「僕はダメな奴だ」

「そんな事無いわよ」

「僕にはもっと他に良い職業があるはずなんだ」

「無かったわよ?」

「自分探しの旅にインドに行ってくる」

「それ何処なのよ!」


 それぐらい腐ってしまったと言う事だよ! せめて戦士とか魔術師とかさ、こう何かあるだろう!


「でもハルト、いつまでそうしているつもりなの?」

「世界の終わりまで」

「もう、好きにしなさい!」


 あ、今レヴィに見放された。


「でもさレヴィ。実際問題どうしたら良いと思う?」

「職業の事? そのままで良いじゃない」

「でも、無職だよ?」

「うん、ハルトはそのままでも強いよね?」

「そうだね」

「ギルドの仕事もこなせるからお金もちゃんと稼げるし、何の問題があるのよ?」

「レヴィってさ」

「何よ?」

「天才だね!」


 確かにそうだ。今までずっと無職で居たけど問題無かったじゃないか。更にスキルに至っては、ラーニングすれば無限に取得出来るし、レベルも緩やかだが上げる事が出来る。


 よし、久しぶりに確認してみるか。


名前 ハルト


種族 人属


年齢 17


職業 無し


技能  


 鑑定LV1 光魔法LV2 短刀LV1

 忍び足LV1 索敵LV1 長剣LV1

 格闘術LV1 女装LV3 神聖魔法LV1


特殊 物理耐性LV1


固有 ラーニン*


称号 


 一番に目を引くのは神聖魔法だろう。レックス王に怪我を治して貰った時に覚えたのか? 


 気を失っていても取得できるんだな。これが睡眠学習って奴か。


 それからラーニングだ。あと一文字で全て読める様になる。これがどうなるのか不安が残る。


「レヴィ、カケラスキルの文字が全て読める様になってからは、何か変化はあった?」

「どうしたのよ急に?」

「あと一文字で全て読めるんだ」

「そう言う事ね。そうね変わった事と言えば、スキルがより強力になったかな?」

「それだけ?」

「今のところはね」


 スキルが強化されるのは悪い事ではない。だけど本当に他に変化はないのだろうか?


 ラーニングについては一旦棚上げして、早速行動するか。まずは、大迷宮へ向かう。


「レヴィ、大迷宮の攻略の為の準備をするよ!」

「ダメよ」

「何でさ?」

「もう忘れたの? 右腕の事」

「あっ」

「それが解決しない限りダンジョンは禁止! 大迷宮なんてもっての外だからね?」


 しまったな。でも何で生えてこないんだ? いつもならすぐに生えてくるのに……


「話は聞かせて貰った。良い方法があるぞ!」

「レックスさん……出来れば勝手に部屋に入って来ないで欲しいんですけど?」

「まぁそう言うなよ。それでハルトの腕の事だがな」

「良い方法があるらしいですけど、どんな方法なんです?」

「錬金術だ! それで義手を取り付ける! 材料集めは中々大変だが、お前達ならすぐ集まるだろうよ」


 義手か、なんだかいけない方向に向かっている気がするけど、現状この腕を何とかしないといけないのは間違い無いか。


「レックスさん。錬金術師に知り合いはいませんか? それも、腕の良い人を」

「もう会っているだろう?」


 錬金術師。一人だけ頭に思い浮かんだ人がいる。


「あの人ですか……頼んでみますよ」


 レヴィと共にやってきたのは、ご存知シャム魔道具店。何故かレックスさんも着いて来ている。暇なんだろうか?


「馬鹿言うな! めちゃくちゃ忙しいわ! だが俺が居れば話がスムーズに進むだろうからわざわざついて来てやったんだぞ?」


 人間、図星を突かれるとあんな態度になるよね?


「何だよその顔は?」

「いえ? 別に」

「本当だぞ?」

「分かりましたって」

「まったく……」


 お店に入り、オババにご挨拶。


「こんにちは。オババ、今日は仕事の依頼で来たんだ」

「おやおや、どんな仕事かねぇ?」

「この腕を見てよ。腕が無くなっちゃってね。義手を付けようかと思ってさ。オババなら良い義手を作れると聞いたからお願いしに来たよ」

「義手か……作ってやらん事も無いが」

「シャム、良いのを作ってやってくれ」

「アンタはレックス王かい? やれやれ、面倒な仕事になりそうだねぇ」

「そう言うなよ。コイツが腕を失ったのは俺にも原因があるからな」

「分かったよ。但し材料はそっちで集めて貰うよ?」

「ソイツは説明済みだ。なぁハルト?」

「はい。でも材料ってどんな物が必要何ですか?」

「それは物によるねぇ。どんな物が欲しいんだい?」


 どんな物か。必要最低限、刃物を弾けるくらいの強度は欲しいかな。後は色々詰め込んで便利な奴!


 僕の妄想を全て詰め込んだ義手の構想を話すと全員から盛大な溜め息が出てきた。


「え? 出来ないかな?」

「出来なくは無いが、材料集めが大変になるぞ?」

「それは何とかしますよ」

「そうかい、それなら今必要な材料を書き出すから待っておいで」


 オババが書いてくれた紙には、結構な量の材料名が書かれていた。


「レヴィこれどう思う?」

「うーん、面倒な物が多いわね」

「どのくらいで集まるかな?」

「お店に在庫があるかないかで変わるわね」

「付き合ってくれる?」

「もちろんよ!」


 レヴィが居てくれれば、材料集めは何とかなりそうだな。


「ああ、それとな。腕の良い鍛冶屋も必要じゃぞ? 材料集めと並行して探しておいておくれよ」

「はい、じゃあ早速材料を集めてきます!」


 オババのお店を出るとレックスさんは仕事をすると言って戻って行った。信じてないけどね。


「さて、何から集めようか?」

「そうねぇ、その辺で買える物もあるからお店を周りつつ鍛冶屋も探してみない?」

「よし! そうしようか」


 帝都を二人でブラブラしながら材料を集めていると、あるお店に見覚えのある名前が書いてあった。


 ボックタリー商店。そういえばレヴィの件でもお世話になったのにお礼もしてないな。


「レヴィ、ここボックさんのお店だよね? 行ってみない?」

「そうね、何か掘り出し物があるかもしれないしね」


 早速お店に入ってみる。


 テレレレレレン テレレレレン


 ボックさん。アウトー! これ絶対駄目な奴だからね? コンビニじゃ無いんだからさ! てか何で知ってるんだよ!


「いらっしゃい。おや? ハルト君じゃないか。よく来てくれたね」

「ボックさんこの間はありがとうございました。今日は探している物があるんですが、相談に乗ってもらえませんか?」

「いいとも。何を探しているんだい?」


 ボックさんにオババから渡された紙を見せる。


「ふむ、大体はウチで揃える事が出来るが、これだけは無理だな」


 おお! ボックさん有能。でもあと一つは何だ?


「この金属の表現が曖昧だから、何を用意したらいいかわからんね」

「そうですか、ボックさんここで買える物全部貰って行きます」

「毎度! 全部で金貨八十枚だよ」


 えーと? ぼったくられて無いよな?


 レヴィに聞いてみると適正価格らしいので、大人しく払っておく。


「ありがとう。またいつでもおいで」

「はい! こちらこそ助かりました。また来ますね」


 テレレレレレン テレレレレレン


 二度とこない方が良さそうだよ。


 この音さえ鳴らなければなー


「後は鍛冶屋だけね」

「レヴィ、鍛冶屋に知り合いはいない?」

「うーん、居るには居るけど」

「ん? 何か問題あり?」

「あんまり行きたく無いかなぁ?」

「腕が良くないとか?」

「ううん、彼女は私が知る限り最高の鍛冶屋よ」

「じゃあそこへ案内してよ」

「えー? 本当に? でも仕方無いかな? ねぇ他の人にしない?」

「なんでさ? 腕は良いんだろ?」

「うん、そうなんだけどね。忠告はしたからね?」


 なんだか歯切れが悪いレヴィに頼みこんで、案内して貰ったお店は外から見ると、ごく普通のお店だった。


「普通のお店だよね?」

「うん、お店はね」

「入らないの?」

「行きたくないなぁ。ハルトが先に入ってよ」

「いいよ。何かレヴィらしくないよね?」

「行けば……わかるわよ」


 鬼が出るか蛇が出るか、思い切って入店する。


 テレレレレレン テレレレレレン


 ここもかよ! 流行ってるのか?


「おお! お客? いらっしゃい!」


 何だよ普通じゃないか。


「何が欲しいんだい? ほれ、言ってみ?」


 あれ? 少しだけウザイな。


「実は今、義手を作ろうとしてて……」

「義手キター! いいよね義手最高ー!」


 アカン。この人関わらない方が良いタイプの人だ!


「レノ、久しぶりね」

「おお! レヴィじゃん。私の防具どうよ? 使ってくれてる?」

「あ、うん。まあね」

「あのハイレグアーマーは私の最高傑作だからね!」

「えっ! レヴィそんなの着てた事あった?」

「ハルト!」

「レヴィ……もしかして使って無いの?」

「そ、そんな事無いから! 毎日のように使ってるから!」

「ふーん、それなら良いけど」


 これは後で問い詰め無いといけない。男子の憧れ。夢の防具ハイレグアーマー! この言葉だけで白飯三杯はいけるわ!


 是非着ている所を拝見させて貰おう!


「そ、そんな事より! ハルト、義手の話!」

「あ、うん。あの実はこんな義手を作りたいんですけど、出来ますか?」

「どれどれ? ふむふむ。おお! なる程。なんと! 素材は? これだけ? よしよし」


 この鍛冶屋のお姉さん、レノさんは僕の考えた最強の義手の設計を見て超高速でうなずいている。なんなら速すぎて顔がブレているくらいだ。


「君!」

「はい?」

「天才! 最高! これ凄く良い。ちょっと作ってくるから待ってて!」

「あの……」


 レノさんは僕の言葉をまったく聞かずに奥の作業場へと走って行ってしまった。


「出来たー!」

「早っ!」

「いやー良いものが作れたわ。はいこれが完成品ね」


 渡された義手は大きさの割にとても軽い。


「あの、レノさん? 足りない材料もあったと思うんですが……」

「ウチにあった物を使った。ほぼ全て無くなったけど後悔はしていない!」

「あの、はい、ありがとうございます。お代はおいくらですか?」

「金貨百枚でいいよん」

「ちよっと、レノ。随分と安くない?」

「楽しませて貰ったからね。その分負けといたよ。レヴィの知り合いだし」


 金貨で丁度百枚支払い、店を後にする。


 出る時は鳴らないのかよ! そこは鳴れよ!


 酷い肩透かしを食らったよ。


「出来ちゃったよ……義手」

「そうね、レノが作った物が金貨百枚なんて大儲けね」

「今日はもう夕方だし取り付けは明日にして、もう帰ろうか」

「それがいいわね」


 その晩はたっぷりとレヴィのハイレグアーマー姿を堪能させて貰った。


 やっぱりハイレグアーマーは最高やでぇ。

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