第15話 ダンジョンアタック 上

 クラーキアに到着した初日にトラブルに巻き込まれた僕とレヴィだったが、その後は何かが起こる事も無く平穏な一日を宿で過ごしていた。


「レヴィ、暇」

「そう、それがどうかしたの?」

「刺激が足りない」

「ハルトは一日くらいじっとしている事も出来ないわけ?」

「世界にはさ、色々な事があって僕がまだ体験した事が無い不思議にあふれている訳だろ? 部屋に篭っていたら新しい出来事に出会えないじゃないか!」


 やれやれといった感じのレヴィは、両手を広げて呆れた表情を見せる。


「まったくハルトはしょうがないわね。それならクラーキアのダンジョンにでもアタックする?」

「ダンジョン! そんなのもあるのか」

「ええ、だけどここのダンジョンは初心者向けだから階層も短いし、大した物も見つからないからね?」

「それで良いから行ってみたい!」


 僕はダンジョンという言葉にテンションが上がり、レヴィと共にウキウキとそこへ向かうのだった。


「これが入り口か」

「ええそうよ。何よハルト。緊張してるの?」

「少しだけだけどね」

「こんなダンジョン大した事ないわよ。出てくる魔物も弱い奴ばっかりだしね」


 そうは言っているが、なんだかレヴィも浮かれているような態度だな。


「レヴィはどうなのさ? やけに楽しそうなんだけど」

「それは、私も久しぶりに潜るからね。元々は毎日のようにダンジョンアタックをこなしていたのよ。ハルトが来てからはサッパリだったけどね」

「そうなんだ。じゃあ色々教えてね、先輩」

「私に任せておきなさい!」


 自らの胸をドンと叩くレヴィ。


 僕にも叩かせてくれないかなぁ。さするのも良いかも知れないなぁ。


 そんな妄想はさて置き、ダンジョンの入り口近くで商売をしている行商から必要そうなアイテムを買っているレヴィに一人の男が近づいて行く。


「やぁ、こんな所で何をしているんだい? ダンジョンに潜るなら僕達と一緒に行かない?」


 なんだかニヤけた顔の中途半端なエセイケメンがレヴィに声を掛けていた。


 チラリとそっちを見たレヴィだが、興味を持たなかったのかすぐに商品の物色に戻る。


「おいおい、無視しないでくれよ! 僕が声を掛けたんだよ? この僕が!」

「誰だか知らないけど買い物の邪魔よ。女を漁るつもりなら他を当たる事ね」


 おお、レヴィ男前! なんて言っている場合じゃないか、エセイケメンは今にも武器を抜きそうな雰囲気じゃないか。


 そっとレヴィの側に寄る。


「そろそろ準備出来た?」

「もう、粗方揃ったわ。あとは帰還石を買うだけよ」

「そうか、じゃあすぐに行こう」

「そうね、確かあっちの方のお店に置いてあったはずだから」


 男を置き去りにしてレヴィを連れて行こうとしたが、男が僕達の前に立ちはだかる。


「おい、その女は僕のだ! 勝手に連れていくな!」

「え、そうなの?」


 念のためレヴィに確認してみる。こんなニヤけた顔の男が好みなのか?


「全然! 全く! これっぽっちも興味無し。そもそも知らない人よ。それよりも早く行こう?」


 ああ、良かった。「そうよ、だからハルトとはここでお別れね」なんて言われたら立ち直れないよ。


「おい、お前! その女は僕のだ! 大体何だお前は、そんな貧相な装備でダンジョンに潜るのか? 武器すら持ってないじゃないか!」


 えー。コイツはアレだな。面倒臭いタイプの奴だ。自分が言っている事が全て正しいと思っていて否定すると、激昂してくるタイプ。


 こんな時はと、師匠は確か……名前を聞くって言っていたな?


「えーと、アンタは誰?」

「よくぞ、聞いてくれた! 僕はこのクラーキアに舞い降りた期待の超新星、未来のAランクハンター! ディーン=ブラックフォードだ!」


 何だ? ポーズを取って笑ったら、歯の辺りがキラーンと光ったぞ? どんな機能だよ!


「未来のって事は、今は何でもないただのハンターだって事だよね?」

「そうみたいね」

「だから、特に実績も無し」

「そうね」

「相手にする理由あるかな?」

「最初から無いわよ?」


 二人の意見は一致している。何か人気だけはあるみたいで周りで若い女の子がきゃーきゃー言っているけど。


「レヴィ、今のうちに行こうか?」

「そうね。あっ、でも帰還石買ってない」

「帰還石ってなに?」

「使うとダンジョンの外に一気に戻れる魔道具よ」

「それ、どうしても必要なの?」

「うーん? 別に無くても良いけど。万が一の為に持っておきたいかなー」

「慎重に行けば何とかならない? アレの相手をするよりも良いと思う」

「そうね、そうしましょう!」


 レヴィも同じ事を思っていたのか、すぐに賛成してくれて、僕達はダンジョンへと足を踏み入れた。


「うわぁ、結構暗いんだね」

「ダンジョンよ? 当たり前でしょ!」


 下りの階段を降りると洞窟の岩肌は、青白く光っているが周りすべてが見える程は明るくない。


「でもなんでこれ光ってるの?」

「ダンジョンの壁は魔力を吸い取って光るのよ。ここは入り口だから誰も魔力を使わないでしょ? もっと奥に行ってからじゃないと魔物すら出ないからね」


 なるほどね。だけど僕が初めてこの世界に来た場所はもっと光っていたけどなぁ? あそこは僕以外誰もいなかったのに何でだろう?


「ハルト、それよりも明かり付けてよ」

「ああ、分かった」


 光源!


 修行でよく使っている魔法。今では何時間使っても消える事が無い。魔力を消費していないのかと思う程だ。


「ちょっと明るすぎ! 少し落として」

「へいへい」


 光度の調整もお手の物。あれ? 僕の仕事これだけ?


「その位でいいわ。それを維持して着いてきて」


 あら? レヴィが先にいくの? 女の子が前衛で僕が後衛か、なんか申し訳ないな。


 その事を聞いてみると。


「ハルトは初めてなんだから当然よ。ダンジョンはね、罠もあれば突然魔物が沸く事もあるから、スキル持ちが先導するの」


 僕もスキルは持っているがレヴィとは少し差がある。スキルだけを比較するとこうなる。


レヴィ


技能 

  短刀LV3 罠解除LV4 索敵LV3 

  忍び足LV3 弓術LV2 鍵開けLV4

  鑑定LV2


ハルト


技能 鑑定LV1 光魔法LV1 短刀LV1

   忍び足LV1 索敵LV1 長剣LV1

   格闘術LV1 女装LV1


 何度見てもあれは異質だな。女装よ。


 それよりもスキルだ。索敵と忍び足は僕も持っているが、罠解除と鍵開けは持っていない。これは恐らく実際に使用しているところを見ないと学習出来ないのだろう。


 レベルもレヴィの方が格段に上だ。先導するのは当たり前か……


 しかし、僕のスキルレベルが全く上がっていないのは何故なのかな?


「レヴィ、スキルレベルなんだけどさ」

「うん?」

「僕は全くレベルが上がらないんだけど何でかな?」

「使わないと上がらないわよ?」

「うーん? 光魔法だけは修行で毎日使ってるけど」

「意識が足りないのかもね」

「意識ってなにさ?」

「集中して使う? みたいな感じかなー。口で説明するのは難しいのよね。それと稀にレベルが上がりにくい人がいるって聞いた事があるわ」

「レベルが上がりにくいってデメリットしか無いじゃないか」

「でも、その代わり上がったらその恩恵が凄いらしいのよね」

「どんな風に?」

「威力が桁外れ。同じスキルで比較するとその差は十倍は違うみたいよ」

「僕がそうだと?」

「可能性はあるかな? でもまだスキルを取得して一月位よね?」

「そうだけどさ」

「だからハルトはまだまだ未熟って事よ! お姉さんに任せておきなさい!」


 年齢なんてほとんど変わらないよ?


 そんな会話をしながら歩く事三十分程経った頃レヴィが警戒し始めた。


「レヴィ?」

「静かに、魔物の気配がする」


 気配か。僕には何も感じられない。これがスキルレベルの差か。


「どの辺りかな? 近いの?」

「ううん。まだ離れているけど、いずれ接触するわ。真っ直ぐに進んだ所よ」


 初心者用ダンジョンでの初遭遇の魔物か。多分アレだな。


 ゴブリン。


 異世界もので大体初めての戦闘に出てくる。緑色の小鬼の姿をした魔物。知性は高くは無いが、集団で人を襲う事で低い戦闘力を補っている。


「ハルト来るわよ? あれは……オーク! 何でこんな場所で? もっと下の階層にしかいないはず……」

「なんで!? なんでオークなんだよ! 初遭遇だぞ! ダンジョンの初遭遇まで奪うのかよ! ここは、ゴブリンだろうがー!」


 僕の悲痛な叫びにレヴィがビクッとしているが構っている場合ではない!


「なんで? なんでオーク!? お前は姫騎士相手にくっコロくっコロ言わせてろよ! くらいやがれっ!」


 光環流星群!


「説明しよう! 光環流星群とはハルトが独自に編み出した魔法で、光の管を雨のように降らせる攻撃魔法なのだっ!」


 光の奔流がオークに襲いかかる。


 全身からおびただしい血を吹き出して倒れ伏すオーク。


「見たか! 僕の邪魔をするから……痛っ」

「こーの、馬鹿ハルト! 何を勝手に魔法を使ってるのよ。しかも、またえげつない魔法を作って! 大体なんで説明する時だけ声が甲高くなるのよ!」

「レヴィ痛いよ」

「痛くなるように叩いたの! 周りの確認もせずに攻撃魔法を打つんじゃないわよ! 他に人がいたらどーすんのよ! 少しは考えなさい。この馬鹿ハルト!」


 むー。確かにレヴィの言う通りか。あの魔法が人に当たったら確実に命を落とすわな。


「僕が考えなしだった。ごめん」

「ま、まぁ分かればいいのよ。それで、あの魔法はどんな魔法なのよ?」

「あれ? あれはね、光を細い管状に物質化して体内に打ち込む魔法だよ」

「光を物質化してるの? だったら手で抜けるじゃないの」

「無理無理、返しを付けているから無理矢理抜いたら肉ごと抉れるから!」

「相変わらず発想がえげつないわー」


 攻撃魔法なんだから殺傷能力は高い方が良いと思うんだが、レヴィに言わせるとやり過ぎらしい。


 光の矢とかありきたり過ぎるんだよなー


 ちなみに前にコボルトに打った魔法は、光粒爆と名づけた。大量の光の粒をぶつける魔法だからな。爆? ただの雰囲気だよ。


 しばらく探索を続けているが特に目新しい事は何も無く、ダンジョン内の散歩をしている気分だ。


 魔物? ちょいちょい出るけど、レヴィが短刀で一撃だよ。魔法は危ないから禁止されたし、僕は明かり担当。


 つまらん。


「なーんも起こらないね」

「これが普通なの!」

「今何階だっけ?」

「十階よ」

「このダンジョンの最下層は」

「十階よ?」


 特にイベントも無く最下層か。ダンジョンってもっと、こう、なんか、ワクワクする物じゃないの?


「最下層には何かあるの?」

「いや? 別に何も」

「マジかー、良い運動にはなったけどなー。期待外れだなー」

「確かに少し魔物が少ないかもね。でもこれでハルトもダンジョン踏破出来たんだから良いじゃない」

「踏破すると良い事でもあるの?」

「次からは付き添い無しでダンジョンに入る事ができるわよ?」

「僕は子供かっ!」


 そんなこんなで最下層の探索を開始したのだけれど、最奥に一枚の扉を見つけた。


「レヴィあの扉は?」

「あれは、私も聞いただけだけど誰にも開けられない扉だったかな?」

「開けられない?」

「うん。押しても引いても絶対に開かない扉らしいわ」

「へぇ、試してみて良い?」

「良いけど開かないわよ?」


 その扉はどこにでもある普通の扉。ノブを回して軽く押す。うん、確かに開かないな。


 押しても駄目なら引く!


「ダメか」

「だからいったでしょ?」

「まだだ!」


 これはありがちな、横にスライドする襖スタイル!


「違うのかよ……」

「ハルト。試してないとでも思ったの?」

「そうだよね、ちなみに鍵は?」

「鍵穴がどこにもないのよ」

「謎解きがあるとか?」

「なーんの反応もなしね!」


 押しても引いてもダメ、横もダメと。それなら下か?


 ノブを持って下に押し下げてみると、僅かに扉が下がり始める。更に力を込めて下げる。


 ズッズンと音が鳴り扉は地面に収納されて、先に続く狭い通路が姿を現す。


「ハルト凄い。大発見よ!」


 はしゃいでんなー。


「このダンジョンが発見されたのはいつ?」

「分からないけど相当古いはずよ」

「誰も足を踏み入れた事がない場所か……」


 レヴィを先頭に通路を進むと背後で扉が勝手に上へと上がり、再び閉じられてしまった。


「しまった!」

「ベタなのはいいから!」

「でも、元の場所に戻れないよ?」

「先へ進むしか無さそうね」


 慎重に通路を進む。


 落とし穴をレヴィが見つけた。回避。


 横から槍が突き出てくる。レヴィ解除。


 謎の像から火が吹き出る。レヴィ解除。


 僕は要らない子なんだ。くすん。


「なにを突然拗ねてるのよ?」

「何もしてないなーって」

「後ろは警戒してるでしょ? それも大事なのよ」


 あっ! 警戒してないよ。バレない様に。


「もっ、もちろんさ! 後ろは僕に任せろー」

「ハルト……今からでいいから警戒しといて」

「はい……」


 なんで分かるんだろう?


 やはりレヴィは心が読めるのではないか?


 やがて通路は終わりを告げ、再び扉が見えて来た。


「さてと、この扉はと」


 レヴィが扉を調べている。


「罠は無し、鍵も掛かってない。普通の扉ね」

「開けてみよう」


 僕はノブを回しそっと力を入れて押す。


 分かってるよ開かないんだろ?


 多分さっきと同じで下に下がるんだろ?


 だがな! 取り敢えず押してみるんだよ! そして開かないやー。なんて二人で、キャッキャうふふしながら、あーでも無いこーでも無いするんだよ!


 扉は普通に開いた。


「何でぇぇぇぇぇ!?」

「何よ突然? びっくりするでしょ!」

「いや、開いたから……」

「そこはせめて喜びなさいよ」

「ウン、ソウダネ。アイタアイタ。ワーイ」


 期待を裏切られるとこうなるよね?


「変なハルトね、まぁいつもの事か!」

「何気に酷いこと言ってるよレヴィ? それよりも、中は?」

「行くわよ!」


 意を決して二人で部屋へ飛び込んだ。

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