第18話 エッ……じゃないもん(いっしょにしないで)

 似てる……キャスパーに……似て…………はっ! 

 ショック受けてる場合じゃない!

 真っ白だった頭をぶんぶん振って、仕切り直す。


「え、えぇと、そういえば挨拶がまだであったな……こ、こんレビじゃ、眷属達。今日は妾、ヘブンズライブのスタジオにお邪魔しておる。略してヘブスタじゃ!」


 ヘブスタはダンスの練習スタジオを少し改築したものらしくて、結構だだっ広い。そこの真ん中にちゃぶ台とおマイク様(KU100)を置いて、私達は座っている。


「ふふっヘブスタにいらっしゃい、レヴィアちゃん。初めての後輩なので……ちょっと緊張しちゃってます」

「そ、そうなのか⁉ リエルせんぱ……あっ、みんな今日は妾のチャンネルに旭日リエル先輩が来てくれておる!」

「は~いお呼ばれしちゃいました。眷属の皆様ぁ、こんリエ~。旭日リエルだよ~。いつも来てくれるご主人様ぁ~、今日はリエルこっちにいるからぁ……」


 すると、リエル先輩はKU100の耳に近寄って……ってえ、ちょっ、それちかす、ぎ

「――――まちがぇなぃで、ぇ……ね」

 んぃぃ⁉

 とろみのある液体が耳の中に入ってきた。

 そんな感覚に、びくっと肩をすくめる。

 KU100と繋がったイヤホンから、リエル先輩の声が溶けて、流れて――――

「ふぅーー……」

「あ……ふぁ」

 春の風が、すくめて強張った肩をほどいてく。

 これ、きもちいい。

 心地よさに微睡んでたら、ふと視線を感じて、目蓋を開く。

 ダミーヘッドから顔をちらりと出したリエル先輩が、にまにましていた。


「じゃぁ、意気込みのコメントと一緒に……やってみて」

 さっきよりも口調がゆっくりで小さい。

 あ、そぅか、これレクチャー。


 私は体を傾けて傾けて傾けて……目いっぱいまでダミーヘッドが大きくなる。

 ちょっと首を傾けてヘッドを避けて……すっと耳に髪をかけながら、マイクに口を近づける。


「ご、ご主人と眷属のみんな……きもちよくなれるように妾、が……がんばる、ね」


 ちゅっと唇をつけて――――吐息を流し込む。

 目を閉じて、さっきの心地よさをイメージして。

「――んっ」

 息が続かなくって、ぱっと唇を離す。 


 先輩の反応を見ようと、ダミーヘッドから顔を覗かせる。リエル先輩は閉じていた目蓋を開いて、「うんうん」と頷いた。


「うん、ちゃんと心地良い音だったよ~。もうささやきと耳ふーは完璧だねぇ」

「あ、ありがとござぃます……っ!」


 こしょこしょ声で会話する。

 空気が変わった気がする。それだからか、リエル先輩はちゃぶ台の上に広げたASMRの道具を手に取り出す。


「じゃ~あ、次はこれにしよっか。はい、手出して」


 言われた通り、両手を揃えて出すと、ぽよんとした感触がした。

 見ると、それはまんまるしていた。大きさは夏祭りにある水毬くらい。指でつつくと、ぽよぽよと転がった。


「ぽわぽわしてる……」

「そー、ジェルボールだ」

「おっぱい……」

「急にぶちこまないでよ」


「え、だってこれおっぱい」

「おっぱいじゃないよ! どうしたのレヴィアちゃん、やっぱ発情してるよ今日⁉」

「わっかんない、もうわかんないよ……妾ってなんなんだろ?」

「ジェルボールでアイデンティティ崩されんなよ⁉ 

も~~ほら、ジェルボールいじってみて。ASMRでどう使うか、考えてみて」


 リエル先輩に促されて、私は手の平のジェルボールを見つめる。ピンク色で照り返してるそれは柔らかくて……指で押してみる。

 指先がぷよぷよ押し返される。でも、あとちょっと……力を入れたら………………

 ぷちゅっ、と破ける。

 膜が破けてジェルがこぼれて。

 それでも指を押し込んだら、ボールの中に指が入った。

 中でくちゅくちゅと音が鳴る。抜いてみたら、指にピンク色のジェルがついてた。

「…………」

 スンッと嗅いでみる。

 甘い。


「あ……すごい匂い。バラ、かな。良い匂いですね」

「う、うん、そっかぁ」

「挟んでみますね」

「う、うーんわかったー」


 ジェルボールを手の平を挟む。中のジェルが出てきて、手の平に絡みつく。

――あはっ、なんか……楽しくなってきた。


 マイクの近くで色々いじってみよ。

 イヤホンで自分がいじる音が聞こえる。にちゅにちゅ鳴らしたり、くちゃくちゃしたり、ぷちゅちゅちゅって音に空気を混ぜてみ


「なんか手つきがやらしい!」

 

 へ。

 手を止めて、先輩を見る。


 リエル先輩は不思議そうに目を見開いて、「あれ?」と考え込んでいた。


「な、なんだろ? ちょ、ちょっと待って? あれ、ステラとかクレアがやった時なんとも無かったのに……あれ?」

「ぇあ、へ、下手でした? ご、ごめんなさい」

「いや下手じゃないの、ただエチチなの。コンロ点火しそうなの……まぁ良っか。今度は僕がやってみるから真似してみてね」


 そう言って、リエル先輩のたおやかな指がジェルボールを蹂躙する。すごく良い匂いが香って、グポポポとジェルが入っては抜けるような……そんな体感をイヤホン越しに与えられる。


 そっか、そう動かすんだぁ。

 リエル先輩の手の、指の動きを見て、音を鳴らす。


 ごぽちゅくちゅくぷちゅ――――柔らかな何かを搔きまわすような。

 ずゅぼぼぼぼぼぼぼぼぼ――――粘着質な液体を絞り出すような。

 そんな音を両耳から流し込む。

「ご主人様―、お加減どぅですかぁ?」

「眷属よ、こ、こぅか? これが……よいのか?」


[ コメント ]

・えっ⁉えっ⁉えっ⁉

・すごっ

・すごすごすごっっっ

・あっっっ

・すきすきすきすき

・しゅごぃぃぃぃ

・完全にえっち

・センシティブだよぉ……

・大丈夫これw?


「わー、すっごい喜んでる。気持ちいいって。良かったぁ……ね、レヴィアちゃん」

「―――――っ! ぅはい」

 、音でバレるから手で拭った。

 ブレザーの裾……口から垂れたつばが付く。カァッと頬に朱が差す。


 余りに気持ち良くて開いてた。バレてない?  

 リエルせんぱ――――天海君をチラ見する。

 バレてない、よね?

 表情を見る限りは大丈夫そうだった。そう思って視線を下げたら―――Tシャツ。

 前屈みになったシャツの襟から……××がちょっと見えて。


 んくっ、とつばを飲み込んだ。

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