第81話 魔人ターナー現る
俺とプリンセス・マドカはターナーの宝箱を持ち、サーシャの死体が置かれている部屋に入った。
サーシャの顔は異様な白さで、明らかに生きている者のそれではなかった。
俺は持っていた宝箱を床に置くと、両手でふたを持ち、それを開けようとした。
ギギギと軋んだ音が鳴ると、やがてふたが開いていく。
「一世紀ぶりにこの箱を開ける勇者が現れたか」
箱からそう声が聞こえたかと思うと、中から紫色の煙があふれ出てきた。
煙はどんどんと立ちのぼり、何かを形作っているようだった。固まり始めた煙は小さな火花を発しながら、ついには天井にも届きそうな大男の形となった。
「私を呼び出したのは、お前だな?」
紫色をした大男が俺を見つめて話しかけてきた。
「はい。エ、エトーと申します」あっけにとられながら俺は返事をした。
「エトーか。私は魔人ターナーだ」ターナーはそう言うと、周囲を見まわした。「久しぶりの下界だと思い、さぞや眺めのいい場所で呼び出してくれるのかと思えば、こんな小さな部屋とは、少しがっかりしたぞ」
「すみませんでした」ターナーの機嫌を損ねてしまったと思い、俺はすぐに謝った。
「うん、まあいい。何か事情があって、この部屋で呼び出したのだな」
「はい、その通りです」俺はさっそく本題に入った。「ターナー様はどんな願いでも一つだけ叶えてくださると聞いております。さっそく私の願いを聞いてほしいのですが」
「いいだろう。ふたを開けることのできた者には、その礼として一つだけ願いを叶えてやっている。どんな願いなのだ? 言ってみるがいい」
「ここにいるサーシャを、ここに横たわっているサーシャを生き返らせてほしいのです」
「死者を生き返らせるのだな? こう言ってはなんだが、死者を生き返らせる願いは、あまりお勧めはしないぞ」
「どういうことですか?」
「死者を生き返らせることは可能だ。ただ、生き返った者は何らかの障害を持って生き返ることが多いのだ」
「障害を持って生き返る?」
「そうだ、特に死んでから長い時間が経った者は、間違いなく大きな障害が残ってしまう」
「どんな障害ですか?」
「それは人それぞれだ。声が出なくなる者もおれば、目が見えなくなる者もおる。生き返った者はそういった障害を抱えて生きなければならなくなる。苦しみを抱えながら再び生ることを強いられるのだ。それでもお前は、死者を生き返らせたいというのか?」
「……ターナー様、ここに眠るサーシャは、死んでからそれほど長い時間は経過していません。今日、亡くなったのです。ですから大きな障害は残らないのではないですか?」
ターナーは横たわるサーシャに目を向け言った。「確かにその者は、死んでからそれほど時間は経ってないようだ。お前の言う通り、これなら障害は何も残らないかもしれない。残ったとしても小さな障害ですむかもしれない。しかしそれはあくまでも可能性の話だ。死んで間もない場合でも、大きな障害が残ってしまうことも十分にありえるぞ」
俺はマドカに顔を向けた。
「マドカ様、もしサーシャに障害が残った場合、俺は自分の人生すべてをささげてでも彼女とともに生きていく覚悟でいます。……ですから、サーシャを生き返らせてもらいますね」
マドカはしばらく黙ったままでいた。やがて小さく、覚悟を決めたような表情でうなずいた。
「わかりました。サーシャを生き返らせてもらいましょう」
「ターナー様、決めました! お願いです、ここにいるサーシャを生き返らせてください!」
「それは、正式な願い事として受け取っていいのだな?」
「はい、お願いします! サーシャを生き返らせてください!」
「わかった。ではお前の願いを今から叶えてやる」
魔人ターナーはそう言ったかと思うと、その姿を消してしまった。
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