第74話 こんなことになるなんて

 洞窟内の空間に、もう一頭のドラゴンが現れた。こちらは双頭ではなく体型も小型で、金色に輝く美しいうろこを持っていた。


 あのドラゴンは!

 間違いなかった。以前、宮廷舞踏会で助け出したあのドラゴンだった。あの時のドラゴンが、新たに洞窟内に出現したのだった。


 ドラゴンはすっと俺の前に降り、頭を垂れるとこう言ってきた。

「お前には助けてもらった恩がある。さあ、乗れ」


 俺は最後の力を振り絞り、動かなくなったサーシャを抱きかかえ、ドラゴンの背に乗った。ドラゴンはすぐさま急浮上し、洞窟の天井に向かい加速していった。


 危ない! ぶつかる!


 ドラゴンが天井の岩肌にぶつかりそうになった瞬間、空間に暗黒の穴が開いた。俺たちを乗せたドラゴンは、その中にすっぽりと入っていった。

 漆黒のひんやりとした空間の先に、今度は小さな明るい穴が出現した。その穴はどんどんと大きくなり迫ってくる。その次の瞬間、闇の空間は消え、周囲が明るい光に包まれた。


「ここは?」


 俺は周囲を見回した。空には雲が漂い、その先には太陽が輝いていた。下をみると緑の大地が広がっている。


 ……外だ。洞窟から外に出ることができたんだ。


 ドラゴンは速度を落とすことなく飛び続け、あっという間にノース王国の宮廷へと到着した。


 宮廷の庭に降り立った俺は、改めて抱きかかえているサーシャの顔を見た。サーシャの顔は異様に白く、すでに生気を失っていた。


 こ、これは……。


  ※ ※ ※


 宮廷内の生命回復装置の中には、明らかに血が通っていない顔をしたサーシャが横たわっていた。


「無理です」横に立つクロウドは言った。「さすがにこの状態では、サーシャ様はもう……」


「サーシャ! サーシャ!」

 プリンセス・マドカが何度も呼びかけるが、いつまで待ってもサーシャが応える気配はなかった。


 俺は茫然となりながら、この場に立ち尽くすことしかできなかった。


 あの時、どうして俺はあんなことをサーシャに言ってしまったのだろう。


「マドカ様」俺は細い声で言った。「俺なんです。責任は俺にあるんです」


「どういうこと?」マドカは振り向き、俺に顔を向けた。


「双頭龍と戦っている最中に、俺はサーシャに宝箱を獲ってきてほしいとお願いしたのです。その時にサーシャは双頭龍の尻尾で……。だから、サーシャがこうなってしまったのは、俺の責任なんです」


 その言葉をじっと聞いていたマドカが口を開いた。

「それは違うわ、あなたに責任はありません。責任は私にあるのです」


「……」


「私が、私が、ターナーの宝箱をあなたたちに獲ってきてほしいと言わなければこんなことにはならなかったのです。ですから、責任のすべては私にあるのです」


 マドカの言葉を最後に、誰も口を開く者はいなくなり、辺りはしんと静まりかえった。誰も、何も話せなくなってしまったのだ。

 そんな中、静寂を破ったのは、王宮専属医師の言葉だった。


「もうサーシャ様を、生命回復装置から出してさしあげましょう」


 その言葉で、治療班の職員が回復装置のふたを開けた。中に横たわるサーシャを、隣にある移動式寝台に乗せた。


 サーシャの身体はだらりとして何も力が入っていない状態だった。


 サーシャが……、サーシャが死んでしまった……。

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