第71話 宝箱に手が届く

 俺は、双頭龍に向かい飛び込んでいった。

 青白く輝いた剣を眼前に置く。


 このままドラゴンの火炎砲をまともに受ければ、一瞬にして俺の命は尽きてしまうだろう。

 火炎は、魔力の強さでその威力が決まる。双頭龍の魔力を弱めれば、火炎砲の威力も当然弱まるはずだった。


「ディクリース!」

 俺は龍に向かい、除去魔術を発動した。

 一度では駄目だ。

「ディクリース! ディクリース! ディクリース!」

 幾重にも除去魔術を重ね合わせていく。


 双頭龍に至近距離まで迫ったところで龍の目が輝いた。そして開かれた口から火炎砲が発せられた。

 この距離からではもう火炎砲を避けることは不可能だった。


 俺の除去魔術はちゃんと双頭龍に効いているのだろうか? もし効いていないとすれば、俺の命はこの場で尽きるかもしれない。

 そんな思いが頭をよぎった。


 発せられた火炎砲が迫り、そのまま俺を呑み込んでいく。


「うっ」

 俺は一瞬ひるんだ。だが、想像通り火炎の威力は劇的に弱まっていた。


 これなら、この火炎砲の威力なら、なんとか耐えることが可能だ!


「ブリザード!」


 剣の周りに猛吹雪が発生し、辺りが氷の世界に覆われた。


「でやー!」


 俺は青白く輝いた父の形見の剣を、龍の頭に振り下ろした。手ごたえはあった。


「グァーオー」

 双頭龍の怒声が響き渡った。間違いなくダメージを与えている。


 もう一度俺は剣を振り上げ、龍の頭上に振り下ろそうとした。

 その時。

 もう一方の龍の頭が俺に体当たりをくらわせてきた。除去魔術で魔力は落ちているが、龍の体力までは落ちていない。

 俺は、なんとか受け身を取りながら、自分の急所を外すようにして体当たりを受けた。すさまじい衝撃が俺を襲った。そのまま俺は後ろへと吹き飛ばされたが、なんとか態勢を整える。


「ディクリース!」


 除去魔術を相手に改めてかけ、俺は龍に立ち向かう。頭突きをかわしながら今度は龍の首をめがけ剣を振り下ろす。


「グァーオー」

 再び双頭龍の怒声が響いた。

 しかし、そこまでだった。

 首を切り落とすつもりで放った刃だったが、実際は龍にかすり傷を負わせる程度の攻撃だったのだ。


 このまま攻撃を続けていっても、結局は体力と魔力を消費するだけだ。体力、魔力のどちらかが尽きれば、俺は戦えなくなるのだ。すなわち、このまま戦ったとしても、その先にあるのは敗北の二文字しかないということだ。

 チャンスは今しかない。こうして戦える間に、宝箱を何とかしなければならない。


「サーシャ!」

 俺は双頭龍に剣を振るいながら叫んだ。


「何!」


「俺がこうして龍の気を引いておく。その間に宝箱を獲ってきてくれないか!」


 宝箱は双頭龍の後方に置かれている。片手でも持てそうな小さな宝箱だ。


「わかったわ、やってみる!」

 サーシャはそう言うと、崖を背にしながら、ゆっくりと足を進めていった。気配を消しながらそっと宝箱へと近づいているのだ。


「さあ、お前の敵は俺だ!」

 俺はそう叫びながら改めて龍に剣を向ける。魔導師のサラが俺に回復魔法をかけ続けているので、まだ体力にはある程度の余裕がある。


「ブリザード!」

 龍の胴体に刃を突き刺す。しかしわずかな手ごたえはあるものの、剣はものの見事に跳ね返されていく。


 ふと見ると、サーシャが宝箱の置かれている場所へ到着していた。そして、置いてある宝箱を彼女が手に取った。

 その瞬間だった。

 黒い影がサーシャに向かって襲ってきた。

「サーシャ!」俺は思わず叫び声を上げた。


 サーシャに迫ってきたのは、大木のような龍の尻尾だった。尻尾が振られ、サーシャはそれをまとも食らってしまったのだ。


「サーシャ!」


 サーシャはそのまま吹き飛ばされ、地面に身体を打ちつけた。

 そして。

 倒れているサーシャに再び龍の尻尾が振り下ろされていく。


「サーシャ!」俺は絶叫した。

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