第60話 俺より強い剣士など許さない
聖剣士ノベルは思った。
いったい何がどうなっているんだ。目の前で信じられないことが起こっている。
巨大スライムに飲み込まれたノベルは、何とかして助かる方法はないものかともがき苦しんでいた。
しかし、ノベル自身の力ではどうすることもできなかった。横を見れば魔導師のサラも同じようにスライムに吸収されようとしている。
サラの魔術を期待することもできない。
スライムの攻撃を受け、身体全体がしびれてきた。何も抵抗できないまま、体力だけが奪われていった。
たすけてくれ! こんなところで死ぬのはまっぴらだ!
ノベルはそう叫びたかったが、スライムの中では声を出すこともできない。
見ると、まだスライムに捕まらず、今自由に動けているのはエトーだけのようだ。
もう駄目だ。あんな無能な剣士に何も期待はできなかった。
俺の人生は、こんなところで終わってしまうのか。
そうあきらめかけていた時だった。
エトーがスライムに自分から体当たりをし、その結果、巨大スライムに取り込まれてしまった。
やはりだ、あの馬鹿、自分からスライムに飛び込んでいっている。
そう思った瞬間、エトーの身体が青白く輝いた。
何かスキルを使っているのか?
しかし、あの無能なエトーのスキルといえば、他人の魔力を高める付加魔術しかなかったはずだ。そんなことをして何になるんだ。
ああ、意識が遠のいてくる。もう終わりなのか。
「ブリザード!」
薄れゆく意識の中、エトーの声が聞こえてきた。何とか確認すると、エトーが巨大スライムの一体を木っ端みじんに粉砕してしまったではないか。
自分の目が信じられなかった。
あの役立たずのエトーが、誰も歯が立たない巨大モンスターを一撃で破壊している。
間髪入れず、エトーはサラとノベルの飲み込まれているスライムを、同じように一撃で粉砕した。
救出されたノベルは、地面に這いつくばりながら息を整えていた。
ノベルがまったく手も足も出せなかった巨大スライムを、エトーは一瞬にして全滅させたのだった。
ノベルにとって、この事実は受け入れがたいものだった。冒険者の中では、常に自分が頂点にいる存在だったはずだ。その自分を超えるような力を持った剣士がいるなど、ゆるされるはずがなかった。
ゆるさない。俺より強い冒険者など、存在してはならないのだ。
エトー、どんなことをしてでも、俺はお前を消し去ってやる。
この俺が、このノベルが、これからも冒険者ギルドのトップに君臨し続けるためにも、エトーを次に行くザウバ山脈で必ずや葬ってやる。
ノベルはそう決心したのだった。
※ ※ ※
俺はサーシャに肩を貸し抱きかかえながら、立ち上がった。サーシャも少しずつ体力を取り戻している様子だった。後ろを見ると、ノベルとサラも何とか無事でいるようだった。
「ここに宝箱があるはずだ。それを持って帰ればクエスト達成だ」
俺はそう言いながら平原の周囲を探した。
見ると、草むらの隠れた場所に木製の箱が置かれていた。
「これだ!」
俺はその木の箱を開けた。
えっ! これは!
俺はそう思いながら箱の中のものを取り出した。
「これは、魔法球だ! 宝箱に魔法球が入っている」
「魔法球、何か数字が書かれている?」
隣でサーシャが言った。
「3と書いてある」
「3なら瞬間移動の魔法球ね。雇われの剣士、シュウが逃げる時に使ったものと同じ魔法球だわ」
「やはり、手強いモンスターがいる所には、貴重な宝が眠っているものだね」
俺はそう言うと、魔法球を胸にしまい込みその場をあとにした。
冒険者ギルドへの帰り道、相変わらずノベルとサラは距離をとり、俺たちの後ろをついてきた。道中二人は、一言も言葉を発することなく歩いていた。
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