第52話 ギルド長からの提案

「やはりエトーが冒険者ギルドを首になったなんて嘘だったのですね」サーシャは棚に並ぶお宝にさらりと目をやりながら言った。


「ええ、惜しい人材をなくしたと嘆いていたところです」ギルド長は首をかしげたくなるような話を続けた。「ところでサーシャさんといいましたね。あなたとは以前どこかでお会いしたことがありますか? なぜかお顔を知っているような気がするのですが」


「い、いえ、ギルド長とお会いするのは今回が初めてです」


「そうですか。でしたら有名なお方なのですか? 何度も言いますが、どこかであなたのお顔を拝見した気がするのです」


「そんなはずはありません。私は冒険者に憧れているだけの、ただの冒険者志望の小娘ですから」


 俺とサーシャは王宮関係者であることを隠している。ターナーの宝箱を王宮が手に入れようとしていることを知られたくなかったからだ。ただ、サーシャは俺と違い、ここノース王国では雑誌にもよく取り上げられる有名人だ。いくら服装や帽子でイメージを変えているからといっても、その素性を気付かれてしまう可能性はある。

 俺はギルド長の言葉にひやひやしながら、話題を変えて本題に入ることにした。


「ギルド長、冒険者の登録証は発行してもらえるのでしょうか?」


「ああ、もちろんそれは構わないが、どこかへ冒険するつもりなのだな? どこへ行くつもりだ?」


「ザウバ山脈の洞窟に向かいます」


「ザウバ山脈の洞窟? あそこは危険だ。今まで何人もの優秀な冒険者があそこで命を絶やしている。そんなところに冒険者志望の娘さんと二人で行こうというのか。それは無茶すぎるぞ」


 ギルド長が俺の身を案じるなんて今までなかったことだった。それが本心から出た言葉ならうれしいのだが、疑心暗鬼になっている俺は素直に喜ぶことができなかった。


「危険な場所であることは分かっています。命を粗末にするつもりもありません。ただ、ターナーの宝箱をどうしても手に入れたいのです。ですので、登録証の発行をお願いします」


「そうか。やはりターナーの宝箱がほしいのだな」ギルド長は大げさにうなずきながら言った。「でも、二人であんな危険な場所に行くのは駄目だ。そうだ! パーティーの人数を増やすというのなら、登録証の発行を許可しよう」


「パーティーの人数を増やす?」


「エトーたち二人のパーティーに後方支援者を二人つけさせてくれ。後方支援にはエトーもよく知っている第一パーティーのメンバーをつける。ここにいる魔導師サラと聖剣士ノベルだ。この二人なら気心も知れているし、実力的にも文句ないだろう」


 ギルド長と一緒になってさんざん俺を罵倒した二人と一緒にパーティーを組めというのか。俺は気乗りしなかった。

 ただ、確かにサラとノベルはここではトップクラスの冒険者だ。冒険者というものは、剣の腕だけではうまくいかず経験がものをいう職業だ。俺は冒険者としての経験があるが、サーシャはまったくの未経験者だ。確かにサーシャをフォローする一流の冒険者がいるに越したことはない。二人が本当に後方支援をしてくれるのであれば、ありがたい話ではある。

 俺が迷っているとギルド長は言葉を続けた。


「エトー、私はお前たちが心配なんだ。登録証を発行するのはサラとノベルを後方支援させることが条件だ。それが嫌なら残念だが発行はできない」


「私も同じパーティーで仕事をしていた身として、エトーにはしっかりと協力していきたいと思っています」

 今まで黙っていたサラが口を開いた。


 登録証がなければ、冒険者としてターナーの宝箱を取りに行くことができなくなる。俺は釈然としない気持ちだったが、こう返事をした。


「わかりました。サラとノベルの二人と一緒にパーティーを組みます。四人で一緒にザウバ山脈の洞窟へ向かいます」


「よし、いいだろう。そうと決まれば登録証はすぐに発行しよう。ザウバ山脈へは、いつ出発する予定だ?」


「明日の朝、出発します」


「わかった。それでは明日の朝、ギルド酒場に集合することとしよう」

 ギルド長はそう言いながら何度もうなずいていた。

 彼の見せる笑顔は、どことなく絵に描いた作り物のようにも見えた。


 悪いことが起こらなければいいのだが、俺はぼんやりとそう思った。

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