第20話 国王へのお願い
「どんな望みでもよろしいのですか?」
俺は国王に聞いてみた。
「そなたは命の恩人じゃ。なんでも言ってみるがよいぞ」
俺は迷った。
いくら王の言葉とはいえ、こんなことをお願いしてもいいのだろうか。
ただ、せっかくの機会だ、日頃は絶対にできないようなことをお願いしたい。
「どうした、私の気が変わらないうちに早く言ってみろ」
俺は思い切って言った。
「宮廷舞踏会に出席させていただけませんか?」
「宮廷舞踏会に? その程度の願いでいいのか?」
「はい。私たち平民では参加できない宮廷舞踏会に是非一度参加させてください。そしてそこに一緒に連れていきたい人がいるのです」
「一緒に連れていきたい人がいる? それは誰じゃ?」
「はい、……、私の母です。一度でいいので母に宮廷舞踏会の雰囲気を楽しんでもらいたいのです」
「そちの母か、でもどうしてそちは母を舞踏会に連れていきたいのじゃ?」
「実は私の母は脳梗塞の後遺症で軽い麻痺があります。歩くのも杖が必要な状態です。母は昔、ダンスを習っていました。当時の母は、宮廷舞踏会がどういうものなのか見てみたいとよく言っていました。今、母は踊ることはできませんが、宮廷舞踏会がどういうものなのか一度でいいから見せてあげたいのです」
「そうか、よくわかった。では次の舞踏会にはそなたの母を招待しよう」国王はそう言った。
※ ※ ※
広間での騒ぎが収まると、サーシャはプリンセス・マドカの部屋に呼ばれた。
「失礼します」サーシャは扉を開け、部屋の中に入った。
「サーシャ、聞いた?」さっそくマドカが口を開いた。
「何をですか?」
「捕らえた、ピエールのことよ」
「はい、ピエールは調べた結果、カルッカの王子などではなかったと聞いております」
「そうなの。今、魔導師たちに調べさせているところですが、どうもあの男はすごい大物のようよ」
「大物といいますと?」
「あの男、サウス王国から送り込まれた殺し屋よ」
「やはり、サウス王国ですか」
「そう、しかもサウス王国でかなり地位の高い男よ」
「誰ですか?」
「ロッシよ」
「ロッシ! あの有名な、サウス王国魔導剣士界の頂点にいると言われているロッシですか?」
「そうよ」
「あれだけのモンスターを召喚し、広間にいた私たちを一瞬で動けなくする魔力の持ち主、ロッシだと聞かされても納得がいきます」
「そうよね。王国の最上位にいる警護隊剣士たちですら何もできなかったのですもの。格が違う強敵だったわ」
「面目ありません」サーシャはそう言うと続けた。「今回はあの男、エトーがいなければとんでもないことになっていたと思います」
「その通りだわ」マドカもうなずく。「ロッシを倒してしまうなんて、あのエトーという男、いったいどういう剣士なの。やはりただ者ではないわね」
「はい」
サーシャは思い出していた。
エトーはロッシの得意とするスキル、時間遅延を戦いの最中にかけられてしまったはずだ。我々全員が動けなくなるような強力な時間遅延スキルだった。それをエトーは一瞬で解いてしまった。自分に掛けられたものを解くだけではなく、我々すべてに掛けられていた時間遅延を簡単に消し去ってしまった。
本当にエトーという剣士は、何者なのだろうか。
「それはそうとサーシャ」
「はい」
「今回の活躍を評価して、エトーの階級を上げないといけないわね」
「配属初日で階級を上げるのですか」
「それだけの価値ある仕事をしたでしょう」
「まあ、そうです」
「今日からエトーをブロンズクラスの剣士とします」
「……わかりました。プリンセスがそう言われるのでしたら、そのように致します」
配属初日で昇級だなんて。こんなこと、今まで聞いたことがない。
サーシャは前代未聞の人事に苦笑いするしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます