第46話「コンビニ」

 喫茶店を出ると、再びうちへと向かう事になったのだが、その前にコンビニへと立ち寄る事にした。

 理由は勿論、これからまた漫画を読む有栖川さんのために、飲み物とかお菓子などを買うためだ。


 幸い喫茶店のすぐ近くにコンビニがあったため、俺は有栖川さんと一緒にコンビニへ入るとそのままいつも通り買い物カゴを手にする。



「あ、見て下さいこれ! 可愛いですね!」


 コンビニへやってきた有栖川さんはと言うと、景品用だろうか? 棚に置かれている大きなぬいぐるみを見て楽しそうに微笑んでいた。

 そんな楽しそうに微笑む姿はやっぱり美しく、もう自分の気持ちを認めている俺はそれだけでまたドキドキさせられてしまう。


 それからも、気を取り直していつも通りコンビニで買い物をしているだけのはずなのに、有栖川さんと一緒だというだけでやっぱりドキドキしてしまう自分がいるのであった。

 そして、これから一緒に帰って食べるお菓子選びをしているのだと意識するだけで、今のこの状況に対する喜びが込み上げてくるのであった。


 こうして、飲み物とお菓子を選び終えると、それからどうやら甘いもの好きな有栖川さんのためのデザートを買ったところで、コンビニを出ようとしたその時である。



「あれ、一色?」


 俺達と鉢合わせる形で、コンビニへやってきた二人組の男が声をかけてきた。



「おー一色じゃん! 久しぶり!」

「お、おお。久しぶり」


 一瞬誰かと思ったが、二人とも同じ中学の同級生だった。

 こう言っちゃ悪いのだが、あまり勉強が得意ではなかった二人は、今はこの辺でも悪い意味で有名な私立高校へ通っており、そのせいか二人とも髪色を茶色に変え、全身の雰囲気も前以上にチャラチャラした感じになっていた。


 そして当然、二人は俺の隣に立つ有栖川さんの存在に気が付く――。



「え!? ってか、何!? すっごい可愛いじゃん!」

「ヤバ!!」


 二人共、初めて見る有栖川さんの姿にとても驚いていた。

 しかし、こういう好奇の目に晒される事が得意ではない有栖川さんは、すっと俺の後ろに隠れる。



「え? な、なになに? もしかして一色の彼女!?」

「マジかよ! うわぁー、うちの高校にこんな可愛い子いねぇぞ? これが高校格差ってやつかぁ」


 そして、有栖川さんが俺の後ろに隠れるところを目にした二人は、面白がるように俺達の関係についてグイグイと迫ってくるのであった。

 別に仲が悪かったわけではないが、元々この二人はとっつき辛い感じだったというか、相変わらずだなといった感じだった。


 そしてその目は、俺の事を若干見下しているのも見て取れた。

 俺なんかよりも、自分達の方がイケてると思っているのだろう、そうはっきりと顔に書いてあるようだった。


 確かに、二人とも中学の頃はモテてたし普通に彼女もいたような奴らだ。

 そのうえ色気づいて見た目に磨きをかけているのだろう、俺から見ても普通にイケメンの部類に入る感じだった。


 ――でも、それでもお前らじゃ有栖川さんには届かないんだよ


 そう、二人は知らないのだ。

 この有栖川さんが、うちの高校では『難攻不落の美少女』と呼ばれている事を。

 この二人よりよっぽどイケメンで好青年な感じの先輩ですら、一言で切り捨てられているのだ。

 ぽっと湧いて出てきたお前らにどうこうなる相手じゃないんだよ。


 けれど、こうして俺と一緒に居る事で甘く見られてしまっている事には当然気付いている俺は、この場をどうしたものかと考える。

 このまま二人が有栖川さんに話しかけたところで、一蹴されるのがオチだ。

 だから、俺が何もしなくてもこの場は収まるだろう。


 ――でも、それでいいのか?


 いいや、それではきっと駄目なのだ。

 だって俺はもう、自分で自分の気持ちを認めてしまっているのだから。


 だからもしここで、二人の対処を有栖川さんにお願いするなんて事は、男として情けなさ過ぎるしそんなのは自分で自分が許せない。

 それに元々、この二人は俺の知り合いだからこうして話しかけてきているのだ。

 そういう意味でも、尚更有栖川さんに頼るなんて違うのである。


 だから俺は、有栖川さんの方をジロジロ見ている二人に向かって、ニッコリと微笑みながら返事をする。





「あー、まぁ、そんなところ。これから一緒に遊ぶ約束してるから、俺達行くわ! 行こう、玲」




 それだけ言って、俺は有栖川さんの手を握り余裕のある感じを装ってコンビニから立ち去った。


 二人共、俺なんかが有栖川さんのような美少女と付き合っているわけがないと高を括っていたのだろう、去り際に見えた二人の驚いた表情はちょっとだけ笑えた。


 そして、いきなり俺に手を引かれた有栖川さんはというと、いきなりの事で最初は驚いておどおどしていたものの、すぐにぎゅっと手を握り返してくれて彼女役を請け負ってくれたのであった。


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