第四話 精霊授与の儀式

 廊下に出て、大精堂への扉の前に着いた。扉の上には「大精堂」と書かれており、そこにはギルドメンバーの女性がカゴを持って立っている。


「荷物をお入れください。」

「あの……マントもですか?」

「はい。お願いします。」


 彼女は笑顔でそう答えた。そりゃそうだよなと思いながら、僕はフード付きマントと本などが入ったカバンをカゴに入れた。


「ご質問がありましたら今のうちに。お気持ちが整いましたら、扉を2回ノックしてください。」

「……よし。」


 小声でそう呟いて、大精堂への扉をコンコンと2回ノックした。すると、すぐにガチャッと音と共に扉が開いた。扉の中、つまり大精堂の中に入ると、中央に大きな石、精霊王石がすぐに目に入った。精霊王石は深海の奥深くのような真っ青な色だった。ちなみに読書好きの僕がどっかの文献で読んだのだけど、精霊王石はこんなに大きいのに実はすごく軽いらしい。だが、実物を目の前にしてもにわかには信じがたい。そのくらいの大きさだった。大精堂では大広間のような電気はなく、ランタンのようなものが壁についているが、今はその中にある蝋燭ろうそくに火は付いていない。大精堂中央の天井はガラス張りになっており、そこから自然の光が差し込んで、精霊王石は神秘的に光り輝いている。白い法衣に身を包んだマーチ・ブレバロード王が精霊王石の後ろの壇上に立って待っている。

 僕は精霊王石の前まで歩いている途中、少し周りを見渡した。マーチ・ブレバロード王以外にギルドメンバーが8名いた。マーチ・ブレバロード王の近くに王の護衛のように2人。大精堂に入った扉の左右に3人ずつ。精霊王石の前に着いたら右膝を地につけ左膝は立てて頭を下げる。両手は膝に置き、目は開けたままにしておいた。そして、マーチ・ブレバロード王が声を大きくして言う。


「それでは今からなんじの精霊授与の儀式を行う。汝、名はなんと申す。」

「カイ・ブライトと申します。」

「それではカイ・ブライトよ。汝の精霊が宿された石を身につける場所の希望を申せよ。」

「左手首を希望します。」

「最後にカイ・ブライトよ。汝は冒険者として、これから如何いかなる時も精霊と共に歩み、共に過ごし、共に生きていくことを誓うか?」

「誓います。」

「それでは精霊王よ。彼の者、カイ・ブライトに精霊を授与したまえ!」


 とマーチ・ブレバロード王が言った途端、僕の周りを白く太い光が包み込んだ。自分の足は見えるものの床が見えない。頭の上げず、目線だけを動かしてみても、辺りは真っ白で自分の体以外何も見えなかった。そして、いつも間にか左手首が光りだし、それに気づいた途端、何かが体に入ったような気がした。力が湧いてくる。すごい感覚だ――。


 10秒程白い光に包まれた後、光がだんだん消えていった。光が消えるとガヤガヤと周りの声が聞こえてきた。


「あの光の量はなんだ?」

「今回の精霊授与の儀式ではあの子が1番じゃない?」

「あれはもしかしてすごい精霊を授与されたんじゃないのか?」


 すると、マーチ・ブレバロード王が言う。


「静粛に!」


 そう強く言うと、周りはシーンとなった。そして、王が続けてこう言った。


「カイ・ブライトよ。頭を上げ、体を起こせ。」


 僕は頭を上げ、真っ直ぐ立つ。


「これにて汝の精霊授与の儀式を終了する。汝と汝の精霊の今後に幸多からんことを。」


 そして、マーチ・ブレバロード王が僕の近くまで歩いてきて、精霊授与の儀式とは違い、普通に話すくらいの声量でこう言った。


「お疲れ様じゃった。カイと言ったな。そなたは目は開けていたか?」

「はい。」

「そうか。そなたは他の人の精霊授与の儀式を見たことないから分からないかもしれないが、実はそなたは光の量は他の人を遥かに凌駕するほど凄い光だったんじゃ。そうじゃな、数字で例えるなら100倍ぐらいじゃ。」

「100倍?」

「そうじゃ。他の人の光は温かく優しく包み込む感じである。だが、そなたのは力強く、逆にそなたから光を出してるのではと思うほどの光じゃった。そして、精霊授与の儀式ではその精霊がいかに凄いかは光の強さでだいたいわかる。そなたのは多分、というか絶対に上位精霊じゃぞ?良かったなぁ。」


 マーチ・ブレバロード王はそう言うと、僕の肩を優しくポンと叩いた。こういう時、なんて言えばいいのか分からないなあ。うーん…。


「お褒め頂き、ありがとうございます。これからも精進します。」

「そなたの活躍、期待しておるぞ。」


 こんな感じで大丈夫だろう。多分ね。

 と、ここで王の近くにいたギルドメンバーの1人が2人の近くに来て言う。


「マーチ・ブレバロード王。すぐ次に参りますので、準備お願いします。」

「そうか、そうか。すまない。この者の光が凄すぎて、つい話し込んでしまったわい。」

「すまないが、君もすぐに大精堂を後にしてほしい。次がまだまだいるからね。」

「はい。分かりました。」


 第一から第五の卒業生は合計で100人越えなのだから、王様もギルドメンバーも大変だな。そう思いながら、大精堂の部屋を出た。カゴを持ったギルドメンバーから「お疲れ様でした。」と声をかけられ、荷物を受け取り、肩に鞄を斜め掛けして、マントを着てフードを被った。左の手首を見ると、白いブレスレットが付いており、その中でも一箇所、さらに白く輝いている石みたいなものが見えた。おそらくこれが僕の精霊なんだろう。

 廊下を少し歩いたところで、大精堂から出てきた1人のギルドメンバーに声をかけられた。


「カイ・ブライトくん。」

「はい。」

「君、何か体調面で変化はない?」

「全くないです。」

「それなら良かった。凄い光だったから、一応聞いておこう思って。頑張ってね!」

「ありがとうございます。」


 廊下を歩いて、大広間に出た。今から精霊鑑定をしなければならない。第一特別室に入ると、今、精霊鑑定をしてもらっている人の後ろに3人並んでいた。その後ろに並び、順番を待つ。


――約7分後。


「次の方、どうぞ。」


 順番が来た。すでに僕の後ろには精霊授与の儀式を終えた第二の卒業生が3人並んでいる。受付をしているギルドメンバーの前まで進むと、机が置いてあり、そこに平たい石が置かれ、その下に紙が敷いている。すると、精霊鑑定の受付をしているギルドメンバーが説明を始める。


「この石に手のひらを下にして乗せたまま、10秒程待ちます。その際、右手でも左手でもどちらでも構いません。そうすると、石が光り始めます。石の光が消えたら、手を離してください。その後、石のを移動させると、石の下の紙に文字が映し出され、そこにあなたの精霊については詳しく書かれてます。」


 また光かぁ……。嫌な予感がする。


「それでは石の上に手を置いてください。」


 僕は石の上に右手を置いた。すると、また白く強い光が僕の手だけではなく、石全体を包み込んだ。

 やっぱりね。さっきと同じじゃん。


「えっ!なんですか、これは!」

「これ、やばくね?」

「こいつ、やばぁ!」


 受付のギルドメンバーが驚き、後ろで並んでいた卒業生も驚愕している。白い光が消えると、僕は手を離した。手を離した後も受付のギルドメンバーが唖然としており、数秒経ってから石を移動し始めた。


「確認させて頂きます。少々お待ちください。」

「分かりました。」


 受付のギルドメンバーがそう言うと、紙を取り確認し始めた。確認していくと、驚いた声を出す。


「え!あぁ。そうですか。あの光なら、そりゃそうだよね。」


 おい、自己完結しないでくれ。僕に早く結果を見せてくれ。


――約2分後。


「お待たせしました。」


 受付のギルドメンバーがそう言うと、紙をこちらに向けて置き、指を刺して確認しながら鑑定結果を話し始めた。


「鑑定結果です。まずあなたは上位精霊となっています。その中であなたの精霊は天属性の『風神』です。最後にあなたの武装化は物理武装で武器は弓です。」

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