第6話「捕虜」
『××月 ××日 ××時 ××分
録音件数が一件です。
――――プー
あっちゃんお元気ですか? 前回の電話からすごく長くなってしまいました。
ボクは今、後方の捕虜収容所にいます。
あっ、ボクが捕虜になったんじゃないよ!
二ヶ月前に撃たれてケガしちゃったんだ!
あっ、大丈夫! こうしてちゃんと話できてるでしょ!
胸に二発も食らっちゃって、肺に大穴開いちゃってね!
それで後方に下げられて入院してたんだ!
そんな弾食らって生きてるもんだから、隊のみんながあだ名くれたんだ!
〈不死身の青なりびょうたん〉だって!
いいね! あだ名に〈不死身〉が入ってるんだよ!
履歴書に書けるかな? こんなあだ名もらってるって。
で、まだ治りきってないから前線には出せないっていうんで、捕虜収容所で働いてます!
仕事は敵捕虜の監視!
捕虜って結構出るんだね。この収容所でも二百人くらいの捕虜がいるんだ。
そいつらを見張るだけでいいって話だったんだけど、これはこれで結構大変なんだ。
なんせそいつらのいってること、全然わかんない!
あんまりわかんないからこっちもイライラして何回かぶん殴りそうになったけど、それは絶対するなっていわれました。
向こうで捕虜になってる味方が、同じ目に遭うかも知れないからだって!
それをいわれてから暴力を振るおうとするのをやめました。
あいつらを殴るのは味方を殴ってるのと一緒なんだって。
それに、最近はわからないことばかりでもないんだよ!
こう身振り手振りで喋ると、だんだんわかってくるんだ。
それで気の合う奴がいたりするから、世の中すっごく不思議だね!
ほら、中学時代の高野! あいつをちょっと色黒にしたらそっくり!
なんか妙に仲良くなっちゃってさぁ、LINE交換しちゃったよ!
あっ、交換ていっても、そいつのスマホは取り上げられてるからね。
ボクのID教えてやったんだ!
って、あいつらも普通にLINEやるんだね! LINE恐るべし!
もうLINEが世界征服してるんじゃないかってね、アハハハ!
そいつ、戦争が終わったら、スマホを買い直して絶対にメッセ送ってくるってさ!
たったそんなやり取りに一時間かかっちゃった。でも面白かったよ!
それにあいつらの言葉全然わからないけど、そいつのおかげで一つ言葉覚えたんだ!
〈バデェ〉〈バデェ〉って繰り返すから身振り手振り英語混じりで話したてたら、親友とか兄弟といいう意味らしいよ!
あんまり繰り返すからボクも癖になっちゃってね!
お互いに〈バデェ〉〈バデェ〉っていい合うの、ゲームみたいに楽しかった!
本当に親友か兄弟みたいに思えてきてね! 本当、人間の心って不思議!
最近の勤務時間のほとんどは、そいつと話するだけだったりしたよ!
あー、そうそう、一回だけあいつらの言葉わかる奴に通訳してもらったんだ!
そいつ、故郷に恋人が待ってるんだって!
戦争が終わったら恋人が作った料理を振る舞うから、食べに来いだってさ!
いや、そいつが見栄張ってるのはわかるんだ!
確かに女の子の友達はいるだろうけど、きっと手も繋いでないよ! そういう臭いしたから!
そういう臭いにボクは敏感なんだ!
その点、ボクは勝ってるね! あっちゃんと手を繋いだことあるものね!
そのあとすぐあっちゃんに叩かれたけど!
……そいつも昨日、さらに後方に連行されていって、いなくなっちゃった。
今ちょっと、寂しくなってるとこなんだ。
友達が突然いなくなったような気分になっちゃった。
いや、違うか。
友達がいなくなっちゃったんだ。
……あっちゃん、なんかボク分からなくなってきた。
ボクたちが戦ってるのって、ああいう奴等なんだよね。
なんかたまに、同じ言葉使ってる奴らの方が憎たらしくなってくる時もあるよ。
なんだかなぁ。
……もうすぐ傷も塞がるからここの勤務も終わりなんだ。
また戦場かぁ。
やだなぁ。
――ピ――
――録音された内容の再生が終わりました。残り録音件数、0件です』
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