第125話謝罪

「大変です!ジェイコブ公爵家のブレンダン様がお店にきてイーサン様を出せと言ってました!」


お店から急いで駆けつけた従業員が息も切れ切れ扉を開くなり叫んだ!


「ブレンダン…」


イーサン様の顔がまた歪んだ。


「ジェイコブ公爵?」


ミラは心配そうにイーサン様の福を掴むと…


「ミラ…ごめんねちょっとお店に行ってくるよ」


イーサン様は優しい顔でこちらを見つめると安心させるようにミラの肩に手を乗せて屈んだ。


「わ、私も行く!」


イーサン様が心配で一緒に行きたいと頼む。


しかし…


「それだけは駄目だ」


イーサン様はほとんどの事を許してくれるのにこのお願いだけは聞いてくれなかった。


「なんで…イーサン様だって行きたくなさそうなのに…」


「あれにミラを会わせたくないんだよ…わかって欲しい」


イーサン様の泣きそうな顔にミラはこれ以上わがままは言えなかった。


支度を整えて屋敷を出ようとするイーサン様をミラは馬車に乗るまで見送る事にした。


「ちゃんと…帰ってきてね」


馬車に乗り込むイーサン様をじっと見つめて、もうひとつわがままを言ってみる。


「ああ、何があっても戻るよ」


イーサン様の笑顔にミラは頷くと馬車が見えなくなるまで見つめていた…


「ミラ様…冷えますから屋敷に戻りましょう」


カナリアがミラに声をかける。


「なんか気になってなんにも手につかなそう…」


「ならお散歩にでも行きますか?」


カナリアの提案にミラは少し考える。


屋敷でじっと待つより町にでも言って何かイーサン様が好きそうな物でも買ってこうかな!


うん!それがいいかも!


ミラはカナリアの提案に頷く。


カナリアはミラが少し笑顔になった事に胸を撫で下ろした。


「では支度をしてから行きましょう。このままでは風邪を引きますからね」


「わぁ…カナリアがまともな事を…」


ミラは驚いた顔を見せてカナリアを見つめた。


「ミラ様酷いです!私はいつでもまともな事しか言いませんよ!」


「えー?それはないよね」


ミラが笑いながら屋敷に戻った。


「もう!」


カナリアは頬を膨らませながらも笑ってミラのあとを追った。


どうせならコロッケの屋台の様子も見てこよう!


そう思うと早く街に行きたくなった。


ミラは早く早くとカナリアを急かすと急いで部屋へと走った。




イーサンを呼び出したブレンダン達はクロードと見つめ合い無言の時間が続いていた…


クロードが先に声を出した。


「この度は何か不備がありましたか?」


クロードが声をかけると


「いや!そんな事はないよみんなどれも美味かったよ。少し挨拶をしたいだけだよな」


リコがブレンダンに聞くと


「ええ、昔の知り合いに挨拶を…と思いまして…」


ブレンダンが笑うと


「申し訳ございませんがそういう事は予約の際に言って頂かないと…」


クロードは笑顔を絶やさずに話を続ける。


「それは拒否と取ってもいいのかな?」


ブレンダンがはいと素直を言わないクロードを睨むと


「はい」


クロードは構わないと笑った。


「わかった…それならばこの店がどうなろうと構わないな」


ブレンダンが立ち上がるとクロードにドンッと肩をぶつけながら部屋を出ていく。


「ブレンダン様…」


クロードが帰ろうとするブレンダンに声をかけた。


ブレンダンはニヤッと笑って立ち止まると


「今更謝罪しても遅いが…まぁ謝罪の内容次第では許してやっても…」


勝ち誇ったように振り返ると他の客に聞こえるように大声で話した。


他のシルバーやブロンズクラスの客達が何事かと注目していると…


「いえ、今日のお代を頂いておりません。お支払いお願い出来ますか?」


くすくす…


やだぁ…あれってジェイコブ公爵家のブレンダン様じゃありませんか?


嘘…公爵家が食い逃げ…


皆笑いながらその様子を見ていた…


「くっ…ほら!釣りは要らん!」


ブレンダンは顔を赤くしながら金が入った袋をクロードに叩きつけると…クロードが中身を確認して…


「すみませんが、お釣りは出ませんね。しかも少し足りません」


クロードの言葉に他の客達は料理を吹き出した!

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