第20話 お好み焼きはブーメラン ※

 因果応報とはまさにこれ――


 今、広大の前にはお好み焼きがある。

 ソースの焦げる匂いがする。

 広大の感覚では、二日連続。それも夕食に食べて、翌日の朝にまた食べるという状況だ。

 乱暴な言い方をすれば「ソースの塊」を連続で、だ。

 そんな無茶が許されるのはカレーだけだったはずなのに。

 さらに、大阪人の家庭環境がこの無茶なスケジュールを可能にしてしまった。

 「粉もん常在」の心意気である。

 幸いと言うべきか不幸と言うべきか、二瓶家に今、他の家族はいなかった。

 広々とした食卓に、これまた大型ホットプレートを載せ、二瓶は悠々と準備を完了させてしまったのである。

 二瓶が朝からこのような暴挙に臨んだ動機は、言うまでもなく広大から「昨日」の話を聞いてしまったからだ。ある意味では広大の自業自得、あるいは因果応報。

 さらに――

「ああ、エビな。その小さいの入れるのさっぱり忘れてた。で、天かすにそれはなんだ?」

「生姜を細かく刻んだのや」

「紅ショウガは?」

「それとは別や。これななんちゅうか全体を引き締めるんや。さっぱり言うか、食欲が出るうか」

「なるほど」

 ――しっかり学習までしている。

 こうなれば、広大もこの無茶苦茶な食生活に付き合わざるを得ないだろう。

 実際、この時の広大の胃袋は物理的に空に近い。

 果たしてAとBはどういう繋がりになっているのか?

 また一つ、悩み事が増えた広大だった。


 そして、悩み事の本題。あるいは大元。

 それを調べるために行われた二瓶の検索結果とは――

「も~お、山ほどのアニメが引っかかる」

「アニメ?」

「要は時間の具合がおかしくなってる奴な。最近、流行みたいでな。その概略読むだけで、もう」

 お好み焼きを切り分けながら、二瓶が器用に肩をすくめてみせる。

 同時に、箸を回した。

「でもまぁ、俺が知ってる奴があったわ。それが参考になるかどうかはわからんけど」

「古いんだな」

「ああ。たしか八十年代やないかな?」

 二瓶は古いアニメの知識をある程度おさえている。

 それは話の種にするため。

 それなら普通にアニメを観れば良いのに、


「それやったら際限がのうなるやろ? その点、昔のアニメならある程度で終わりになるし、適当に偉そぶれるんや。こんな効率の良い趣味はないで」


 とうそぶく。

 実に鼻持ちならないが、この趣味のおかげで広大は「きこえるかしら」を知る事が出来たわけだ。

 そう言った恩恵にあずかった以上、もう文句が言える筋合いではない。

 文句を言う気も無かったが。

 そして二瓶の解説が続く。

「まぁ、基本は『うる星やつら ビューティフルドリーマー』(※注1)やな」

「そのタイトルは聞いたことがあるな」

「ここから説明していくと面倒なんやけど、ビューティフルドリーマーは劇場版の二作目や。ざっくりと特別編とか番外編とか、そういう認識でええ。ちゅうか、うる星やつら云々は別にどうでもええねん。問題はこれが『ループもの』の嚆矢っちゅうとこや」

「ループもの……」

 自分の周りで起こったことを、その呟きと共に思い起こす広大。

 親指をカクンと逆に曲げる。

「同じ日とか同じ期間を繰り返す、が基本やな。この状況やと閉じ込められてる状態になるやろ? それで繰り返しに気付いた主人公とか、そういうのが脱出を試みる、と」

「それは……」

 「九月一日」だけの展開であれば、確かに広大が陥っている状態にかなり近い。

 例えば広大が危惧した、C、D、E、と延々と「九月一日」が続く状態であるなら基本は同じ――創作フィクションを基本にするのが許されるなら――になる可能性があるが、どうやら「九月一日」が繰り返されているわけではない。

 「九月二日」は確かにあり、現在は「九月三日」。

 目の前の二瓶は同じ事を繰り返しているわけではなさそうだ。

 それぞれの世界で、ちゃんと経過する時間の影響を受けている。

 それは恐らく多歌も――

「そうやねん。お前の説明聞く限り、これはループやないな。確かに時間は進んでる」

 広大の思考を読み取ったのだろう。

 お好み焼きを食べながら、二瓶がその考え方を肯定した。

「だとしたら、どうする? 似てる作品とかは?」

「俺の知ってる限り、それと検索結果でも、似たようなのが見つからんな。似たようなのがあったとして、それでどうなるねん? ちゅう話になるんやけど……」

「そうか……」

 広大は、そこで思い切ってお好み焼きに箸を付けた。

 食べる。

 確かに刻んだ生姜が良い仕事をしていて、広大は食べながら食欲がさらに増してきた。

 確実に身体は空腹状態だったのだろう。

 そうして熱心にお好み焼きを胃に収めている広大を眺めながら、二瓶が箸を指先で回しながら呟いた。

「念のための確認やけど、お前はこの状態を何とかしたいんやな?」

「あ、言ってなかったか。そう、何とかしたい」

「やったら、似たものはなくても何とかする理屈は参考に……なるんかなぁ?」

 二瓶はそう言いながら首を捻る。

「まず世界が二つになったと仮定して」

 それに構わず、広大が口を開く。お好み焼きを飲み込みながら。

「仮定……仮定なぁ。出来れば確定にしときたいんやけど」

「それでも良い。僕も、面倒になってきたから実質確定で考えてるんだけど、そうなると気になるのは――どこで世界が分離したのか?」

「ああ、そやな。それは大事なところや。さっき名前出したビューティフルドリーマーでも、ループしてる原因を推理する辺りはクライマックスへの足がかりやった」

「参考になってるじゃないか」

「やけど、そっからの展開はやっぱり参考になりそうも無い」

 そこで二瓶は「ビューティフルドリーマー」の終盤の説明を始める。

 広大は食欲のままにお好み焼きをがっつき、二瓶もそれに付き合って、お互い二枚目に取りかかり――

「――てな具合や。ああいう存在がおるんやったらそれはそれで話は簡単になりそうやけどな」

 そんな二瓶の言葉に、広大は親指をカクンと逆に曲げる。

 そのまま黙り込む。

「何や? 参考になったんか?」

「話を戻すと」

 広大は首を傾げながら続ける。

「世界が分離した、つまりどこまで世界は一つだったのかを思い出すと、やっぱりその場所にいたのはヒバリさんなんだ」

 そんな広大の証言に、二瓶は箸を回して応じる。

「バイト終わりで会ったんやな? その戸破さんと」

「そう。会った。そこは間違いない」

「したら、お前……」

 二瓶は箸を止めた。

「世界が分離した原因は、戸破さんで間違い無いんやないか?」

 そう考えるのが自然の流れではあるのだろう。

 二瓶はわざわざ言葉にして、広大にそれを確認させてくれたわけだが――


 ――広大はその流れに違和感を覚えていた。

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※注1)

本文でほとんど説明したとおりです。

これより前でもループはあった気はするんですが。「魔女でもステディ」あたりで。

最近の作品で言うなら「CROSS†CHANEL」(それほど最近では無いかw)をお薦めしたい。


サブタイについて

「ビューティフルドリーマー」の主題歌「愛はブーメラン」のもじりです。

これも内容にハマりすぎたので我慢出来ませんでした。

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