9/3-A
第19話 明日につながる五時くらい ※
広大は目を覚ました。
すぐに
知らない天井ではないが、自分の部屋ではない。
つまり「一昨日」の記憶が採用され、AはAで連続性がある事が証明された、と広大は考えることにした。
この不可思議な現象に巻き込まれていることを二瓶に打ち明けた結果、
「それって、お前の部屋だけで起こるんか?」
と、広大の話を信じたのか、それとも検証が必要と判断したのかよくわからない提案をされたのだ。
広大としては検証それ自体にも興味があったが、それ以上に二瓶がとりあえず頭から否定しなかった事もありがたく思っていた。
そういった力関係のバランスで、夜遅くになってから広大は二瓶の自宅へと押しかけ、遊ぶでも無く、そのまま二瓶の部屋で眠り込んだわけだ。
そして「昨日」を過ごし、今日。
どうやら場所は重要では無いらしい。
つまり自分の部屋だけが特異点に入ったわけでもないらしい――その結論を救いと考えるべきか、絶望と捉えるべきか。
「起きたんか」
目をしばたたかせながら二瓶がそんな広大に声を掛ける。
それを合図に広大は上半身を起こした。
いつものTシャツに、チャックを緩めたGパン。
友人の部屋での雑魚寝スタイルが整えられている。
部屋の主である二瓶はゲーム用チェアに腰掛けふんぞり返っていた。今はそれがクルリと回って後ろ向きだが、その側の机の上には、モニターが三つ並んでいる。
随分、場所をとるはずのゲーム用PCのシステムだったが、この部屋ではほんの一部を占拠するだけだった。畳で数えれば、余裕で二桁はありそうな広さがこの部屋にはある。
やはり部屋の片隅にあるオーディオセットも何故かこじんまりしてるよう見えてしまう。
有り体に言えば、二瓶は坊ちゃんでありボンボン。
この部屋の広さにはそれだけの説得力があった。
その二瓶はパステルカラーのスウェット姿。
完全に部屋着。スウェットのたるみに溶け込むように全体的に弛緩した雰囲気だった。
しかし、それで恐れ入る広大ではない。
起き抜けでも、自分を見失わなかった。
「今日は何日だ?」
いきなりこれだ。
だが二瓶も待ち受けていたように答える。
「九月三日。まぁ、お前が寝る前からそうやってんけど。で、ええとお前が言うところのBは……」
「あった。挟まってた」
「で、そこで広大は問題の戸破さんと同棲してると」
「なぁ、二瓶」
広大が視線を落としたままで、呼びかける。
「何故、この話を保留にした? 普通なら即座に否定するだろう」
「まず、そのほうが面白そうや、という理由」
今度の問い掛けにも二瓶は答えを用意していたのだろう。即座に声が返ってくる。
「次は、お前の頭の良さやな。俺は自分の頭も悪うないと思うとる。それなのに今の日本の試験制度がダメにしてる。俺もお前も、その被害者や」
「またそれか……」
何度となく聞かされた二瓶のシュプレヒコール。
それを聞けば、広大が条件反射で気力を失う程には。
そのまま視線は垂直に落ちそうになる――が、今回ばかりはそのままスルーも出来ない。
何とか話を続けなければならないのだから。
「つまりは同情か。“同病相憐れむ”を地でいってる感じもするが……」
「それで、とりあえず話だけは聞いてやろう、というぐらいの気分にはなった」
「面白そうだ、も含めてな」
「せやな。ただ俺が『これはアカン』となったんは、お前の異常な用心深さを伝えられた所からやけどな」
「アカン? 見放すってことだろ?」
「ああ、こういうニュアンスはまだ拾われへんか。つまり『本格的に面白くなってきた』ちゅうこっちゃ。なんやねん、お前“C”の世界が現れるかもしれへんとか。それに備えてジッと情報収集しようとか。前からけったいな奴やと思っとったけど、冷静すぎんねん! 少しは慌てろや!」
「慌ててどうする?」
「それを本気で尋ねるお前がほんまに怖い」
二瓶は本気で嫌そうに顔をしかめた。
「やけど、そんな奴がいきなり二つの世界……ああ
「なるか?」
「冷静に返すなや! ほんまにお前は――」
二瓶はエネルギーが切れたように、唐突に勢いを無くした。
「――この辺が俺がお前の話を保留にし続けてる理由や。やけど、こういうの気にするはお前らしくないな。それがまた信憑性を増すんやけど……ああ、付き合ってたらこっちがおかしなるわ」
「やっぱり保留が一番か」
そう言いながら、広大は深く頷いた。
二瓶への感謝を込めながら。
「それを名目に付き合ってくれるなら、本当に助かる。実際、一人で考え続けるのは限界だったんだよ」
「なんや素直やな。その様子は確かに追い詰められてる感はあるな」
「それも僕の芝居だって思うんだろ?」
「そこが気持ち悪いねん。確かにその可能性は考えたけど……確かに、これずっと続けてたら、頭がパーンなるな」
それは二瓶の降伏宣言だった。
だからこそ二瓶はこう続ける。
「一応、お前の身体に異変が起こるんちゃうかと思って、夜の間は観察させてもろうた」
「そんな事を?」
「あんまりに気にせんでええ。こっちもガチャが切り替わる五時待ちやったからな」
「お前は……」
しっかり都市伝説に振り回されている二瓶。
完全に不健康な生活習慣に陥っていた。
さすがの広大もげんなりするが、当然次の問題が出てくる。
「ちょっと待て。今何時だ?」
「十時過ぎ、というぐらいやな。陽の光確認して俺もベッドに潜り込んで……俺も興奮してるんやな。ろくに眠れんかった。したらお前、まだ寝とるから」
その二瓶の言葉に、広大は思わず目を向いた。
「そりゃ、普通に脳が疲れとるんちゃうか? 場所移動の影響があるかもしれんけど」
「あ、ああ。そうだな」
とりあえず納得するしかない広大。
「それでな、お前の状態。なんかヒントになるもんないかと思って検索かけてみたんや。起きてくるまで暇やったし」
「検索って、ネットで? 僕の状態を検索? するのは良いけど、どういうワードで探すんだ?」
「それがなぁ」
二瓶は首を捻る。
「ある意味では予想通りの検索結果になったんやけど」
「どういうことだ?」
広大が重ねて尋ねると、二瓶はさらに疲れたように、こう返した。
「まず、飯でも食わんか?」
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サブタイについて。
「課金騎兵モバマス」のOP「課金のさだめ」(嘘)のワンフレーズ。
どうやら、午前五時にガチャの中身が入れ替わるのではないか? と言われていた時代があったらしい。
作者は課金したこと無いので、本当かどうかも今はどういう考え方になってるのか知りません(無責任)。
ただ今回の内容にマッチしているように見えたので、我慢出来ませんでしたw
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