初授業

「それでは新入生が入学しましたので皆さんに紹介します。」

 ガラー

 外で待機していた俺を抱いたラミアが入室する。


 ざわざわ

「えっなんで赤ちゃんも?」

「子持ちかよ。」

 おそらく一般生徒たちはラミアが入学してきたと勘違いしていた。


「えー新入生のケイン君です。ケイン君、みんなに挨拶を。」

「はい!ケインです。途中入学になりますが皆さんよろしく!」

 俺は元気よく挨拶した。

 生徒たちはみんな唖然としている。


「先生……何かの冗談ですか?」

「いえ、冗談ではありません。ケイン君は我が校始まって以来の好成績で入学試験を突破しました。」

「嘘だろー!?」

「赤ちゃんってありえないでしょ。」

 なかなか生徒たちは現実を直視できないようであった。


「先生、俺の席は?」

「えっ、ああ、ケイン君の席は平民だから左の後ろのあそこの空いている席になります。」

「なんだあ平民かよ!」

「よく平民が途中入学できたなあー!」

 なんだ平民だと何かまずいのか?

 俺はラミアに抱かれて自席まで行った。


「ケイン君、よろしくね。私、レンツェっていいます。」

 隣の少女が挨拶をしてくれた。


「おい、良かったなあ、平民仲間ができて(ニヤニヤ)」

 レンツェの隣の男が言っている。なんだあ、さっきから平民、平民と感じ悪い。


「ああ、レンツェよろしくな!」

 俺は元気よく、挨拶を返した。


「それでは授業は始めます。今日は――」

 先生は授業を始めていくが、俺にとっては見知った内容ばかりだ。

 学校で楽しめそうなのは俺が死んでから500年間の歴史で何があったかぐらいだった。


 そうなると自然と眠気が襲ってくる。

 なんせ生身はまだ赤ちゃんなのだ。

 喋れるのも歩けるのも身体強化で無理やりできているに過ぎない。


 むにゃむにゃ……


 ヒューーーーーーバン!

 うん!?何かバリアに当たったようだ。

 むにゃむにゃなんだーー


「ケイン君、入学早々、初めての授業で居眠りとはいい度胸をしていますね。(ワナワナ)」

 担任の先生が俺にお怒りだ。

 うーん、幻覚魔法でもかけとけば良かったかなあ。


「寝てたら授業の内容わからないでしょう!この問題分かりますか!?」

 うん?火系の上級魔法の効率化かあ。


「ご主人様?」

「うん、ああ、大丈夫だ。」

 俺は浮遊術を使い黒板までいく。


 カッカッカッカッカッカッカッカッカ

 と一気に効率化後の術式を書いた。


「はっこれは違いますね!教科書のものはこうです!」

 カッカッカッカ


 俺は二つの術式を見比べる。うん、教科書の方が効率が悪い。


「教科書の方が効率悪いぞ。ほらここの所を注目するとよく分かる。」

「えっそんな?いや、確かに……。」

 教師は自分の誤りに気づいたのかドンドン赤くなっていく。


「せ、正解のようです。ケイン君…戻ってよろしい。」

 プルプルしながら教師は俺に指示をした。


 ヒューーーと俺は自席に戻る。


「すごい、ケイン君、賢いんだね。」

「いやあ、それほどでも。」

 とレンツェからの賞賛に俺は頭をかいて照れるが――

 どうやら一部生徒たちのヘイトがこっちに向かってるようだ。

 優秀なものは妬まれる。いつの世もそうか。



 キーンコンカーンコン

 授業終わりのチャイムが鳴り響いた後


「おい、クソガキ、お前途中入学の癖に調子に乗るなよ!平民無勢が!」

 俺の机の3人の男子生徒が取り囲む。


「なんだ調子に乗るって?さっき授業で解いた問題の事か?」

「ちげーよ!居眠りの事だろうがよ。平民の癖に授業中寝てんじゃねえよ。」

「みんなケイン君は入学してきたばかりだからそんなに邪険にしないで!」

 隣の女の子のレンツェが庇ってくれた。


「うるせえ、てめえも平民の癖して意見してんじゃねえ!」

「てめえは後でまた痛めつけてやるから覚えてろ!」

 痛めつける?なんだレンツェはいじめに遭ってるのか?

 そうだとしたら黙ってられん。


「おい、クソガキども。さっきから平民、平民って俺をどなたと心得る。」

 どう見ても一番幼な子の俺が机に立って胸をはって言う。


「この方はケイン帝国が皇帝、ケイン様ですぞ!」

 とラミアが言い、ははーーと全員平伏す―――とドラマのようにはならなかった。


「ケイン帝国?なんだそりゃ?」

 なんだみんな知らないのか!?まあ辺境の小国ではあるが。


「知らねえみたいだから言っといてやるが魔術国家パラツインでは他国の階級は一切関係ないぞ。この国で与えられた貴族階級のみで判断される。」

 なんだと。そういえばそんな仕組みだったっけ。


「ふん、まあいいや。とりあえず俺は貴族とか階級とかは関係ないから。そもそも外国の人間だし。それでも文句あるんだったらかかってこい!」

「何おうこいつ!赤ちゃんのくせしやがってー!」

 取り囲んでいた男子生徒は全員オコになってくる。


「まあまあ、今度実技の授業があるだろ。その時に…くすくす。今日はこれくらいで勘弁してやる。」

 俺を痛めつける算段がついたのか、奴らは分かりやすい捨て台詞を吐いて去っていった。


 隣のレンツェは暗い顔をしている。


「大丈夫か?奴らにいじめられてんのか?」

「あ、はい、しょうがないです。このクラスで平民は私だけですし。」

 もう諦めてしまっているか。他勢に無勢。

 たった一人の平民だったら無理はないかもしれない。だが――


「もう大丈夫だ!平民仲間の俺が来たからな!今後レンツェをいじめる奴は俺がぶっ飛ばしてやる!!」

「……………。」

 レンツェは泣き出してしまった。今まで辛かったのだろう。


「分かった。でも無理はしないでね。気持ちだけで嬉しいから。」

 レンツェはその口ぶりからおそらく俺の言葉を本気にはしていない。

 俺の言葉は励ましとしか受け取っていないようだった。

 無理もない、赤ん坊の俺が貴族全部敵に回すって普通に考えたらできる訳ないから。

 普通に考えたら。

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