うまれたての・借金・庶民の

 自分の体なのにしっくりこない。暴れ馬に乗っていく感覚すらある。それくらいドラゴンの力が大きいものなのを実感する。うまれての力を制御するのにコツがつかめないでいる。


 ほんの少し前まで威圧感で身動きをとるものプレッシャーを感じていたのだけれど、それを感じなくなっている。身体強化されているだけでなく感覚も強化されているのがわかる。ドラゴンの周りにオーラみたいなものがまとわれておりそれが鱗をさらに強化しているのがわかる。簡単にダメージを与えられないわけだ。


たすくさん!これをっ」


 氷姫ひめが氷の剣を投げてくれる。それを受け取るとしっかりと体の前に構える。騎士の物語は消えてしまっているが、体にその動きは刻み込まれている感覚が残っている。それをうまく使いこなせれば勝てる。そんな自身すら湧いてくる。


「ふん。奇妙な力を使い続けるんだな。そんな不気味な力。ろくな物語じゃないだろ。庶民の持ちそうな力だ」


 負け惜しみなのか。それこそキングオブストーリーの名乗る物語のプライドがそうさせているのかわからないが、油断しきっているようにしかみえず。そこに付け入る隙きがある。


「そうかもな。庶民の力かもしれない。それも借金まみれのだ」


 体が無理な力を受け入れている反動なのか、ふしぶしに痛みが走っている。でも我慢できる程度だ。このまま押し切ってしまえばどうともならないはずだ。


「でも、だからこそ。物語の王様に勝てる可能性があるんだ。いつだって、庶民からの英雄だ。それが物語ってもんだろ」


 剣を強く握りしめる。手の中には氷姫からの応援もある。他のみんなだって応援してくれている。それが力に変わる。少なくても英雄を信じている仲間がいるから。たとえそんなふうに見えるだけでも。物語なんだからいいじゃないかと思う。


「巨大な力に押しつぶされる。それも物語だ」


 結末はわからない。決まっていない物語も確かにあるのだ。

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