そういうところが・今日から・ピクニック

 世界は真っ暗だ。それはどこまでいっても広がっているのは暗闇だけ。手を伸ばしても自分のそれすら見えることはなく、自分が手を伸ばしているのも自分の目では確認できなくて、自分の感覚を信じることでしかそれを認識できない。


 だから、だれもいないはずのこの場所でだれかからキミは手を伸ばしていないよ。そう告げられるだけできっと自分は手を伸ばしていることを否定してしまうのだろうと思うのだ。


 そういうところがこの世界にはあるがゆえにこの世界を飛び出してもっと情報あふれる世界へ行ってみたくなるのも仕方がないことだと思うのだ。一度でもあの世界の情報量の多さの感覚を知ってしまったらその誘惑に耐えることはできないはずだ。


 物語が次々とあの世界へ行きたがるのはそのせいなのだろうと九重佑ここのへたすくはずっとそのことについて考えていた。


 隆司りゅうじくんが連れ去られたあと、自分は誰かに殺されたのだと認識したところまでは覚えている。でも、気がついたらこの暗闇の中だ。どれくらいの時間が経ったのかもわからない。なんなら今日からだよと言われても信じる。


 でもその想像もいいのないことなのだろう。ここは物語の中だ。佑が知っている現実世界と呼ばれる場所とは何もかもが異なっている。時間の流れすら物語の進行からすれば些細なことだ。時間のながれを把握することなんてピクニックに行くことよりも難しい。


『助けて。佑さん』


 なにもなかった空間で声が聞こえる。弾丸と呼ばれる人格が現実世界へいた時にはそれなりに聞こえていた情報もすっかりと聞こえなくなってしまった。あの世界から弾丸もいなくなったのだろう。だからと言って同じ場所に来るわけでもなく記憶が共有するわけでもない。それこそ、別の物語のようなものなのだろうか。


『佑さん』


 弱々しい声は聞き覚えのある声だ。

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