天下り・以上、恋人未満・ペガサス

「いつまでもぞろぞろと出てきてきりがないよ。いったいいくついるのこのきぐるみ集団」


 かえでさんが叫びながら包丁を振り回す姿は不気味だし近寄りがたい。それは本人もわかっているのか、できるだけ離れようとしている。楓さんの周りには友達以上、恋人未満なのか腕を絡ませたりしながら仲睦まじく一緒にいるきぐるみとかもいて、それらを包丁で切り裂くのをためらっている楓さんがいる。


 そんな精神攻撃もしてくるなんて見た目以上にいやらしい戦いかたもしてくる。


 隆司りゅうじくんもドラゴンの姿になるほど広い空間でもないためこどもの姿のままで動き回っている。その小さなこどもの姿からは想像もできない力できぐるみたちを殴り倒している。あれがドラゴンの力なのか。もともとの想い出から想像する隆司くんと比べられれないくらいのその様子にこれまでどうしていたのか気になるところだけど。そんな余裕はない。


「くっそ。天下りしただけのきぐるみ風情がなんでこんなに強いんだよ」


 テーマパークの従業員をへてここの警備をする立場になることを天下りというかどうかはわからないが、高いところから低いところに降りてきているのは間違いない。


「物語の中でも信頼がおけるものたちがここできぐるみを着てるんだ。それはそうだよ」


 お相撲さんや四天王も長年ここにいたらここできぐるみを着ることになったのかもしれない。そうしている間にもペガサスのきぐるみがひときわ大きく、ほかのきぐるみを押しのけながら近づいてきた。


「なんだよ。こいつそこのライオンより強そうじゃないか」


 永遠さんが文句を言いながらもペガサスさんの目の前に立つ。その身長差は倍以上ある。中身は屈強なプロレスラーかなにかか。


「こんなところまで来て、逆らうことに後悔するんだな」


 低い声がペガサスさんの中から聞こえてくる。その声にどうしても氷姫ひめは怯んでしまった。

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