いたずら・息子・シンデレラストーリー
「いたずらに世界を破滅に向かわせることになんの意味があるっていうの」
「ああん。どういう意味だ」
「だって、あんたちが地上に行ったら世界が壊れちゃうんでしょ」
世界が物語を認識してしまえばそれをなんとか排除しようとする。そしてそれが行われたときの世界への影響は計り知れない。あらゆることの辻褄を合わせるために世界がなくなってしまうことだってあり得ると聞いた。
「それがなんだっていうんだ。俺たちからしたらせっかくこの世界に来れたっていうのに、こんなところに閉じ込められて辟易してるんだ」
「だからって、出られたらこっちが迷惑なんですよ」
「そうだろうな。だからってこっちだって譲れるほど生半可な覚悟で来てないんだよ」
「やっぱりやり合うしかないようね」
話は平行線。それは最初から分かっていたことでもある。
「そりゃあそうだろう。俺たちはなお嬢ちゃんたちみたいなシンデレラストーリーは望んでいないんだ。ただ、真っ当に生きていたいだけなんだよ」
楓は自分がシンデレラみたいになりたいだなんては思ってはいない。でも侍が言いたいことはなんとなくわかった。
確かに今以上の生活を望んでいる。今よりももっとと。しかし侍は違う。今よりももっとではない。ただ今を生きるためにここから出たいと言っているのだ。何かを望んでいるのとは違う。当然のことを当然にできるようにしたいとそう言っているのだ。
「息子さんでも地上にいるんですかね。でないとそのわがままは通用しないですよ」
勝手に連れてこられて、都合が悪いからと言って閉じ込められて、それはわかる。でも、だからといってこの世界を壊されるわけにはいかないのだ。
天秤にかけてしまえばやっぱりそれはなにをどう言ったところでわがままだとしか思えなかった。
侍は黙ったまま手をゆっくりと刀の柄に置いた。
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