JAPAN・アラブの大富豪・妖精

「妖精さんが見えます。これってなんですか?」


 氷姫ひめはおぼろげな夢から目覚めた時、目の前にいたファンタジーの世界の主にまだ夢を見ているのかと思った。


「ぼーっとしていたと思ったら、そんなことを言いだすなんて。ちょっとやりすぎたかな。一回深呼吸でもしてみようか」


 つとむさんに言われるがまま大きく息を吸って体の空気を吐き出す。それだけで夢の中にいるのではないと理解できる。そういえば、せっかく集まってくれたみんなはどこに行ったのだろうか。このまま武器を創るのが遅くなればなるほど、迷惑をかけてしまうのだけれど。


「やあ。初めましてだね」


 急がなくてはならないと思っていたのにも関わらず妖精は消えてはくれないどころか、話しかけてすらくる。


「あなたは妖精さんなの?いったいなんでここにいるの?」


 きっと勉さんが怪訝な顔をしてこちらを見ているのだろうけれど。話しかけるべきだと思った。


「何をいっているんだ。僕を創り出したのは君じゃないか。僕の助けが必要なんだろう。さあ、これまでの練習の成果を見せてごらん。そこに僕の力を加えるよ」


 勢いそのままに氷で武器を創る。柄から鍔を生成してゆっくりと刃を創っていく。できるだけ粗がでないように、なめらかに薄く、丈夫に、勉さんが指導してくれたように。


「ははっ。上手だね。これならアラブの大富豪でも買い取ってくれる出来だよ」


 アラブの大富豪ならできとかじゃなく、買ってくれそうなくらい自分でも美しいと思える形状の刀がそこに出来上がっていた。


「氷姫?大丈夫か?妖精がどうとか言っていたと思ったらそんな簡単に完成させてしまうなんてなにかあったのか?」


 勉さんには妖精さんが見えていないのか心配そうな表情をしている。


「JAPANの剣は美しい。これを大切な人を助けるために大切な人の所に届けるのだろう?急いだほうがいいよ。時間はあんまり残されていない。じゃあ、僕のと力をここに加えておくね。氷姫。君の力になれてなによりだよ」


 そう言って妖精さんは刀の中にスウッと吸い込まれるように消えていった。


「勉さん。なんでもないです。集中しすぎたんだと思います。でも……これでやっとたすくさんを助けに行けます」


 差し出した刀を見て勉さんは満足気にうなずいた。

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