お母ちゃん・姉妹・チルドレン

 屋上までの道のりの間に女子高生はおしゃべりを続けた。おかげで、彼女の母への呼び方がお母ちゃんだということ。なのに父のことはパパと呼ぶこと。三姉妹の真ん中でお姉ちゃんは才色兼備。妹は芸術肌でコンテストで何度も受賞していること。それなのに自身は特に目立った才能もなく、なんとなく学校に通っていることにコンプレックスを抱いていること。そうしている間にパパが大病を患い介護が必要になってしまったということ。


「大変なんですね」


 ありきたりな言葉しかでてこないが、その実。よくある物語の設定だとも思ってしまった。語り部の割合より圧倒的に物語のキャラクターの存在が多いはずのこの街で彼女はきっとキャラクターのひとりなのだ。そういう星の下に生まれたのだと思ってしまう。


「そうなのよ。それであの狼頭が俺が介護してやるって頑固に迫ってくるんだけどね。あいつの馬鹿力で介護なんてやらせたら私達人間なんて簡単に怪我しちゃうわよ」


 そして狼の男子生徒は別の物語のキャラクターなのだ。本来交わることのないキャラクター同士がおんなじ学校に通うことによって新しい話が生まれているのだろう。それは地上では起きない稀有なことに思えた。


「まったくなんとかチルドレンかなにかか知らないけど迷惑な話よ。人を助けていないと死んじゃうのかしら」


 そういう性格の人がいるのはわかる。そう言うならたすくさんもそうだ。割と近くまでこれている気がするのだが、まだまだ確証が持てるところまで来ていない。それがちょっとだけ氷姫ひめの心を沈めさせた。

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