甲子園・はしれ!・のむだづかい

「はぁ。まったくもって俺たちのむだづかいだとは思わないか氷姫ひめ


 そうは思わないというか。むだづかいもなにもライオンにとって都合のいい相手が丁度いいタイミングで現れただけで、その力量と仕事内容の差にむだがいくら発生しようが気にしないとすら思う。


「それにしてもこうやって戻ってきましたけど。手がかりもなく平和な街そのものなのですがどうすればいいのでしょう」


 ここが平和なのはつい先程、犬と猫が人々と接している様子からそれは察せられた。であればだ。ライオンが言う不穏分子とやらは潜んでいるのだと考えられる。それも周到にだ。であれば容易に見つけられるものでもない。


「うーん。とりあえずお相撲さんにでも聞いて見るかな。あいつなら信用できそうだからな」


 確かにその通りだ。彼ならば信用できる。


「不穏分子でごわすか?帰ってきたと思ったらいきなりぶっそうでごわすね」


 いきなり帰ってきたことを受け入れてはくれたもののお相撲さんは難しい顔をしている。


「そんな噂は聞いたことがないでごわす。そもそも我々はここから離れたら自身を維持できない存在でごわす。ここにある高校から甲子園出場を目指すくらい無謀でごわす。そんな連中いないと思うでごわすが……」

「おい。この街には高校まであるのか?」

「あるでごわすよ。学校ごと現れたでごわす。もうすっかり定着してしまって他の物語の人たちも通ってるでごわす」


 なんだか不思議な感じがする話だ。物語の主人公たちが通う高校。そんな夢物語な場所が存在すると言うのか。


「いるかー?今日はなんだか怪しやつがいるから見回りをしてるんだ」


 聞き覚えのある声が家の外から聞こえてきた。


「おい氷姫。はしれ!犬と猫だ」


 ライオンには話が通っているが犬と猫は別だ。痛い目を合わせてしまった以上、見つかって騒ぎになるのはよくない。

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