二世タレント・名探偵・色鉛筆

「犯人はお前だ!」


 黄昏書店のリビングに不釣り合いな声が響き渡る。


「おっ。CMかぁ。隆司りゅうじは誰だと思う?」


 永遠とわがテレビドラマの探偵の推理パートの前の小休止に食べている箸を止めてそんな風に尋ねる。

 隆司くんが分かるのだろうか。


「うーん」


 隆司くんはよくわかっていないようだったけれど。代わりに頭を悩ませているのは氷姫ひめだ。何人か名前を出しては違うかぁと悩み続けている。


「おっ。氷姫。早く決めないとCM開けちゃうぞ」


 そんな氷姫を面白がっているのか永遠があおり続けている。それをたすくは微笑ましいなと思いながら眺めている。こうやって落ち着いてご飯が食べられる日がくるなんて思っていなかった。


「あの人だと思うよ。ほら。最後まで現場に残ってた人」


 そんなふたりと佑をよそに隆司くんがそんなことを言い始める。その口ぶりはいつもよりどこか大人びて見える。たまにある隆司くんのその様子はいつみても驚いてしまう。


「ああ。あの二世タレントか。でも、なんでそう思うんだ?」


 純粋に気になるのか永遠がもっと詳しく聞こうとする。


「なんとなくだよ。そんな気がしただけ」


 それは誤魔化しているのか。本当にそうなのか。隆司くんの言動だけでは判断が付かない。隆司くんとは一体何者なのか。浮かんでは消えるその疑問が再び浮上してく。


「ふーん。で。氷姫は誰だと思った」

「あの怖い人」


 第一発見者でこわもてのおじさんだ。彼はきっと悪事を働いているのだろうけれど。今回の事件とは無関係なところで話だろう。よくあるミスリード要因だ。


「ごちそうさまでした。色鉛筆ー」


 途端に隆司くんが席を離れると自分の箱を開けると色鉛筆を取り出しておりがみに一生懸命何かを書いている。あっという間に平らげているオムライスはよっぽど美味しかったのか。つとむさんに送るプレゼントを完成させたくてしかたないのか。こうしてみているとただの子どもなのに。さっきの一瞬だけ見せる様変わり様はなんなのか。


「おっ。始まったぜ」


 ふたりから答えを聞き出しておいて自分はなにも話さない大人げない永遠を眺めながらそんなことを考えていた。

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