競争・オタク・からの刺客

「なにかようですか?」


 警戒心むき出しなのは隠していないからだ。できればこの警戒心を見て取って、ここから去ってくれると助かったりするのだけれど。


「おー。私の代わりに事件を解決してくれた礼がいいたかっただけだよボーイ。そう警戒しないでおくれ」


 そう豪快に笑う彼女を見て思わず気が抜けた。どうやら敵対心はないらしい。むしろ、こちらを歓迎しているのか警戒も何もしていない。


「不届き者が演者のなかにいるのはわかっていたけれど。確証がつかめなくてな。泳がせいたんだが、あの騒ぎで、まいったよ。あんなに大胆に動くとは思っていなかった。競争心のかけらもないやつだったしな」


 そうなのだろうか。競争心がないのならあんな風雨に嫉妬心で人を襲ったりしないと思うのだけれど。


「競争心がないから手っ取り早い方法で障害を排除しようとするんだよ。だから舞台上じゃないくてきっと裏でこっそりとやるもんだと思ってたんだ」


 そうか。であればおかしな行動をしていたのはしゃべる剣の影響なのだろう。よからぬことを考えたから剣にとりつかれたのか。とりつかれたからよからぬことを考え始めたのか。


「ふむ。気に病む必要はないぞボーイ。やつは自分で蒔いた種に食われたのだ。止めを刺したのがボーイと言うだけでボーイの責任ではない」

「その格好はなんなんですか。演者ではなかったみたいですが」

「おっ。これか。これは趣味だ。舞台俳優たちと同じような格好をすることで同じ気分になろうって算段だ。私は脚本家だよ」


 オタクのような発想をしている。それもかなりぶっ飛んだ方向に。こんな脚本家につきあわされる演者もたいへんだろう。


「身内からの刺客なんてな。なんにせよ。申し訳なかった」


 そう頭を下げる脚本家にどうしていいかわからなくなっていた。


「ねえ」


 その気まずい空気を振り払ったのは隆司りゅうじくんだ。


「どうした?リトルボーイ」


 話を遮ったのを気にする様子もなく脚本家がそう尋ねてくれる。


「おなかすいたー」


 あたりに豪快な笑いが再び響いたのは言うまでもない。

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