いきなり・盛れる・アマチュア
順調に氷は溶けていく。少女の頭が氷から出て空気に触れる。長い期間をそこで過ごしてきた少女が徐々に酸素を得て徐々に生気を取り戻していく。
青白かった顔に赤みがかっていく。助けられそう。そう思ったとき、いきなり少女の体がぐらりと揺れた。
慌てて近寄ると地面に倒れる前に抱きとめる。小さいその体は若々しいままでとても長い年月を過ごしてきたとは思えない。
息をしているのを確認するとホッとして海岸に戻るために簡単に少女を持ってきていた、毛布で包む。
ふと。足が止まる。乗ってきた船がないからだ。なにも当然のことで編集長が乗っていってしまったのだ。
ちょっとだけ考えて、少しだけ実験をしてみる。海に向かって一歩足を踏み出す。ピキピキピキと音を立てて海が凍り始める。
「おお。こりゃ便利だ」
思わず声が出てしまった。うまい具合に滑ることもできてスケートの要領で先に進むことができそうだ。これならそんなに時間はかからず戻ることができそうだった。アマチュアな能力使いにしてはうまく使いこなしてるじゃないかと思う。
しかし、いつもこぴーしてすぐに使いこなせるのは我ながらいんちき臭いなと感じている。これが語り部としての能力と物語としての能力の差なのか。
そうこうしている間に編集長が乗って行った船が見えてくる。救援を呼んでくれているはず。
「あっ。連絡があったのその子ですか。すぐに救急車に運びますね」
ナースさんが近寄ってきて一緒にきた男性に少女を託すと佑に向かってペコリと頭を下げる。
「溺れそうになってたこを助けてくれたそうで、ありがとうございます。とりあえず呼吸も安定しているので大丈夫だと思いますが、体温が低いのだけは心配ですが」
「あの。連絡した人はどこですか。ここにいるはずんだんですが」
編集長の姿が見当たらない。呼んでくれたのだからいるはずなのに。周りを見渡すけれどどこにも見当たらない。
「さあ。私達がきたときには誰もいなかったですけど」
そう言われて不安が襲ってくる。先程の氷を溶かしていたときに感じていた違和感が溢れ出す。盛れるだけもったそれは嫌な想像へと変わっていき。やがて確信へと変わる。
物語の力として召喚されていた編集長は少女が目覚めたことによって現実世界に留まる時間を終えたのだと。
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