バナナ・ハッピー・プレゼント

「ねえ。今日のおやつは?」


 たすくのことが心配だと言うのに隆司りゅうじくんがそんなことを言い始めるから。場の空気が否応でも和んでしまう。緊張の糸が緩んだとでも言うのか、みんなの表情が緩んでいる。


「しかし、派手に壊れたね」


 つとむさんが崩れて登れなくなった階段を眺めている。助けに以降にも登れなくなってしまったのだ。

 さきほどの、揺れのあとしばらくなにごともない。佑がどうなったのか上で何が起きているのかはわからないままだ。


「ねえ。バナナー?」


 心配するしかないのだけれど、心配することもできないくらい隆司くんがのんきにそう告げる。


「ふふ。そうだね。きっとバナナだよ。ないなら買って帰ろうね」


 夏希なつきはそう優しく隆司くんに話しかける。


「今回もきっとハッピーエンドだよね?」


 何を思ったのか、隆司くんは急にそんなことを言い始めて。もしかしたら、全部わかってこんなことを言い続けているのかと思ってしまう。


 そんなわけないよね。


 誰に言うでも自身に言い聞かせるように夏希は胸の奥にその浮かんだ疑問をしまう。


「大丈夫。佑ならどうにかしてしまうさ」


 少し含みのある言い方に聞こえたのは気のせいだろうか。会って間もないけれど、この勉さんという人は随分と不思議な魅力に包まれている。掴みどころのないそのふわふわとした存在感は今まで感じたことがない。


「佑ってそんなに特別なんですか?」


 佑に対しての違和感はなんとなく感じていたことだ。彼はなんというかどことなく何かが違う気がした。勉さんとはまたちょっと違う。特別感が佑にまとわりついていた。


「ああ。佑はプレゼントだよ」


 誰からのとはどうしてだか聞けなかった。聞いてはいけないきがした。そう言った勉さんが佑がいる上層階を見上げていて、寂しそうな顔していたから。

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