おもちゃ・四面楚歌・デビュー

「これって四面楚歌ってやつ?」

「まあ。悲しいいかな厄介な敵は目の前の彼女だけだがな。四面楚歌については同意だ」


 喜美子きみこさんが周りから襲いかかる人たちを無力化しながら、目配らせしてくれるが。目の前の巨大になった彼女をどうしていいかなんてわかりやしない。とりあず逃げたい気持ちを必死に抑え込むのは逃げようにもたくさんの人間につかまれてしまうからだ。


「さて。軽くひねってあげましょうかね」


 その言葉は本当だろう。彼女の力ならなんの力も持たない夏希なつきなんて子どもがおもちゃでも壊すくらい簡単にやってのけるだろう。


「ね、喜美子さんどうしようか」

「どうしようと聞かれても私に対抗策はないし、夏希にしても対抗できる力はないのだから。永遠とわが戻ってくるまで逃げ回るしかないだろう」


 それはそうなのだけど、だったらどうすればいいのか聞きたいのだ。


「なす術なしってことでいいかしら」


 彼女の繰り出した拳は夏希の目の間の床を砕いて、床を揺らす。

 あんなの直撃したらひとたまりもない。たとえ、喜美子さんがすぐに回復施術をしてくれるとしてもだ。


 永遠がどこにいったのかわからない以上できることはない。今だって怖くて身動き一つとれなかった。こんなの避けることすらできない。

 彼女もそれをわかっているのか。こちらをいたぶるつもりでわざと外したのだろう。


「き、喜美子さん!」


 恐怖が言葉になった。でも助けてくれることなんて当然なくて、再び振り上げられててに恐怖のあまり、目をぎゅっと瞑る。


 こんなことになるならデビューなんてしなきゃよかった。心底そう思った。


 デビューしたのはスカウトされたからだ。君みたいな天然でアイドルしてる人なんていないと口説き落とされた。

 喜美子さんを初めて召喚したのは、アイドルとしてデビューすることが決まった日の夜だ。不安でたまらなくてひとり練習を続けていたら、気づいたらいた。


 喜美子さんは憧れていたアイドルだった。それが昔とおんなじ姿のままでそこにいることに不思議と不安にも疑問にも思わなかった。

 夏希を助けに来てくれたのだと素直に思った。


『私がここにいるのは君の力だよ』


 語り部としての力の説明を受け。もっと喜美子さんの力を引き出すには、色々な経験を積まなければならないこと、近々七日間戦争が行われること、力を使いこなせればアイドルとして絶対に成功すること。

 それらを聞いていたら自然と不安が消えていった。これが天然アイドルとしての力なのだと。そう思えた。でも……。こんな戦いに巻き込まれるなんて思っていない。

 こんなのアイドルとかけ離れすぎている。そう思い出している間に拳は目の前まで迫っているのか風を感じていた。

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