犯人・おしべとめしべ・忘れ物
「犯人でいいんだよな?」
衣装を着こなしてしまった以上、その衣装が盗まれたものかどうかの確証がなくなってしまった。盗んだものをそうも着こなすのが物語の力なのか。それとも盗むこと自体が物語の力なのかそれが分からない。
「衣装を盗んだだってことだったらそれで間違いないぜ。でも俺を犯人あつかいできる証拠はもうどこにもない。そして俺を捕まえるのは不可能だ」
そう言ってまさかの突進をかましてくる彼にどうすることもできずに体当たりをその身で受けてしまう。体は一回り小さくなっているのに質量は変わらないのかと思うほどの衝撃に後方に吹き飛ぶ。幸い壁までは辿り着かずに床に転がる。こういうとき黄昏時というのは便利なもので語り部や読み手以外の人物を近寄らせなくする効果があるらしい。
「へへっ。語り部らしいけどその程度じゃ、止められないぜ」
姿かたちと声が変わっているのに口調がそのままなせいでやりにくいことこの上ない。アイドルの衣装も攻撃したら裂けてしまいそうでうかつに手を出したくない。使える能力をもっと獲得しておけばよかったなんて、後悔してもいまさら遅い。
とりあえず動きを止めることに専念する。転職したのは魔法使い。そして使う魔法は。
「フロストバイト!」
氷を地面に発生させて足を止める魔法。使い所がわからなかったけれど、こういう場面もあるのだなと少し自分で感心してしまう。まあ、人の能力なんだけれど。
「おっ。おお!?」
彼が驚いているのはしっかりと足を凍らされてしまったからだ。
「忘れ物したってホントー?」
広い廊下に女性の声が近づいてくるのが分かる。失念していたけれどアイドルに語り部は多いのだ。それも七日間戦争の最中。ほとんどのアイドルが語り部であってもおかしくない。この場面見られたらどうしたってアイドルを襲っているヤバいやつでしかなく、窮地に立たされる。
「おしべとめしべみたいに俺とアイドルは惹かれあうんだ。これもそんな習性が招いた運命なのかもな」
なんかいいことを言ってる風にさらっと怖いことを言い始めた彼は、一瞬のスキをついて氷を割ると叫んだ。
「きゃーー!変態がいるー!たすけてー!」
魔法使いに転職したのがミスだったのかフードを被った人なんて確かにここじゃあ不審者でしかない。嫌な攻撃を仕掛けてくる。
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