男と男の・コスプレイヤー・の孫

「おりゃぁあぁー!」


 筋肉が膨れ上がったダイナマイトボディアイドルにがっしと腹回りで腕を回され、そのまま持ち上げられた。不思議な感触を背中に感じながら深く考えないようにしながら空を眺める。


 ああ。これはもう重症確定だな。と地面に叩きつけられる未来を見ながらぼんやりと思うのだ。


 なんでこんなことに巻き込まれているのだと。


『男と男の約束だぞ』


 じいちゃんが、笑顔で横になって倒れている自分に優しく微笑んでくれれている。あれ。これはいつの記憶だろうと疑問に思うけれど、思い出すのを邪魔するかのように思考は記憶の中へと潜っていく。


『決して人を見捨てない。人の役に立つ。それが九重流の心得だ。今は辛いことばかりだけど、いつかその辛さが誰かの手助けになる日が来る。いつかきっとな。それまで頑張るんだぞ』


 そう続いたじいちゃんの声が頭の中に反響している。


「ねえ。大丈夫?」


 違う次元からの音に頭が驚いているのが分かる。優しい女の人の声。じいちゃんとは違う優しさだ。


「あれ。ここは?」


 見覚えのある空。先ほど叩きつけられる前に見た景色と一緒。辺りを見渡すと地面に横たわっているみたいで、意識が飛んでいたのだろう。


「どれくらい気を失ってた?」


 不安そうな顔をした夏希なつきが近寄ってきていた。もしかしたらほんの一瞬だったのかもしれないな。


「10分くらいかな。よく寝てたわよ。気持ちよさそうに」


 決してそんなはずはなくて、ずきずきする頭に手をやるが血は出ていないみたいで一安心する。


「気持ちいわけないだろ。こんなにこっぴどくやられているんだぞこっちは。ん?なんだそのコスプレイヤーみたいな恰好は?」


 さっきよりもっとぴっちりとした衣装を身にまとっている夏希はゲームに出てくるキャラクターみたいで現実世界からはずいぶんと浮いていた。


「あんたにだけは言われたくないわ。コスプレばっかりしてるじゃない」


 そう言われてから気が付いた。コピー能力を使っていればコロコロ着ているものが変わる。それこそファンタジー世界のその姿はコスプレイヤーでしかなかった。


 それにしてもじっちゃんってどっちのじっちゃんなんだ。記憶は九重佑ここのえたすくのものなのだから、これも作られた設定なのだろうが、なんだか妙にひっかかりを覚えた。


「俺。じっちゃんの孫なんだよな?」

「何言ってんの?」


 つい言葉に出てしまったそれに、夏希が妙な顔して反応した。

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