パジャマ・席替え・食べ放題

「ねえ。朝の食べ放題いこーよ」


 温泉から帰ってきたかえでは元気すぎるくらいだ。


「どうしたの急に。さっきまで真面目な顔してたじゃん」

「んー。なんか温泉入ってリラックスしたらスッキリした。難しく考えても仕方ないしね。それよか、口裂け女が複数いるのはなんでかわかった?」

「んー。それこそ。都市伝説だから噂がそうなれば実態もそうなるってくらいしかわからない。でも根幹は一緒だから一体でも倒せば全部消えるって言ってたよ」

「そっか。なら一層お腹空いてきたよ。ささっと言って、倒す方法考えよー」


 楓をここまで前に進ませているものはなんなのだろうか。友人の弟が襲われただけだ。まだ亡くなっていないはず。これから襲われる可能性があるにしても、それは可能性としては高くないはずだ。


 自らを危険な目にまで晒してこうも行動する理由はなんなのだろうか。


「おいしーねこれ」


 相変わらずよく食べるものだと感心する。これからのことを考えるとそんなに食べることなんてできやしない。女子とふたりでこうやって話しをするのはなんだか気恥ずかしくなる。こんな緊張は席替え以来久しぶりな気がする。


「ああ。美味しいな」

「んー。真面目だねぇ。食べてるときくらいもっと楽しく出来ないかな」


 楓はよくわからない理由で顔を膨れさせる。ただ単にものを口に頬張りすぎたからだけなのかもしれないが。


「ねえ。聞いた口裂け女の噂」

「あーっ、知ってるー。なんか急に襲われるんでしょ。昭和かって話」

「でも令和の口裂け女は複数同時に現れるらしいよ。昨日もなんか襲われったって」


 パジャマみたいな格好をした女性二人がそんな話をしていて、思わず楓と顔を見合わせる。


「聞いた今の?」

「聞いたよ。こうやって口裂け女は力を増していくみたいだ」


 実感として湧いてきてしまう。これが今はこの周辺だけならいいけれど、これが拡散され始めたらもう止めることは出来ないだろう。日本各地に同時に現れる口裂け女。想像しただけで悪寒が走る。


「止めなきゃだね。今日こそ」


 ふと思う。楓もおんなじなのか。放っておけないのだ。こんな事実を知ってしまったからには。

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