読者モデル・元祖・クオリティ

 ふりかけをかけてそこから混ぜるカレーライスは最高に美味しいと満島楓みつしまかえでは深く頷いている。最終兵器さんではないと言い張る目の前の彼。九重佑ここのえたすくと呼ばれる同い年くらいであろう少年に期待しているのも確かだ。


 なんな不思議の感じがする人間だと思った。性格上、境遇上、いろいろな人に会う機会が多かったから分かる。彼は特別なのだとなにかが告げている。浮世離れしているというか、地面に足が付いていないというか、人間らしくないのだ。どこからどうみても人間なのだけれど、どうしてだかそう感じる。


 昔読者モデルをしてみないかと声を掛けてきたよくわからない男の人も、随分とに地面に足が付いていなかった気がするがその彼でさえ人間でしかなったのがよくわかるし、佑がどれだけ地面から離れているかも実感できる。それだけでもあの出来事に出会っていてよかったのだと思えた。


 カレーにふりかけをかけたことが信じられないのかこちらが食べる様子をポカンと眺めている。あんまりじっと食べている姿を見られるのは恥ずかしいのだけれど、なぜだかこうやってカレーを食べているとよくこういったことになるので我慢するのに慣れてしまった。いや、それを気にしてカレーのクオリティを楽しめないがもったいないと気が付いたのだ。


 そう考えると彼の反応は非常に人間らしいと感じるのだ。そのポカンと口を半開きにした間抜け面も、警戒心なくついてきたその行動も、感じる違和感からは程遠いほどに人間だ。


 このズレの正体はなんなのだろうか。口裂け女なんて信じられない都市伝説に関わったことで自分の感覚がズレて行ってしまっているのかもしれない。


 梨穂子りほこ。口裂け女に重傷を負わされた友人の最後の笑顔を思い出してカレーをすくう速度が上がる。あのかわいらしい笑顔を奪ったその都市伝説を許すことはできない。そのためにはこうやってきちんと食べていろんなことに対処できるようにしなくてはならないのだ。


「ねえ。カレーにふりかけって美味しいの?」


 ポカンとしていた彼が口を開いたかと思ったらそんなこと。


「元祖カレーふりかけのお店に行って以来。絶対かけなきゃ損って気付いたの。試してみるといいと思うよ」


 あの時の衝撃は忘れられない。ただのカレーライスがこんなにも変わるなんて思わなかった。そういえばあの時の感覚に今の状況は似ている。普通の人間に見える彼。それにふりかけじゃないけれど、なにか特別なものが降りかかっていて、人間じゃない新しいものに変わっているようなそんな感覚。


「考えすぎか」

「えっ。なに?」


 きっと考えすぎだ。そんなはずはない。どこからどうみても普通の人間だ。


「なんでもない」


 だから楓はそう答えた。

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