堅物の想い
何故ばれてしまったのかという思いもあるが、最終的に私の権限で決定した事とはいえこうして面と向かって問われてしまっては、メープルの手伝いが誰なのかを委員会の人に伝えないのは不義理というものだろう。特に目の前にいる沢田優子という女性は、私達魔法少女を一番にサポートしてくれている大恩ある人物であり、魔法少女が不当な扱いを受けないようにと動いてくれたり、いつも魔法少女の味方でいてくれる人だ。
例えブラックローズの事を伝えたとしても、彼女なら悪いようにはしないだろうという信頼もある。
誤魔化す事は諦めて、沢田さんの言葉を肯定する。
「分かりました。お察しの通り、先程はブラックローズと連絡を取っていました。メープルの言っていたお友達も彼女の事です。しかしながら、例え委員会が引き渡すように命じたとしても、私は友人を売るような真似はできませんのでご了承ください」
いつでも連絡を取れる関係にある事は認めるが、これだけは譲ることが出来ない。
ブラックローズに連絡先の交換を要求した際、彼女は少々悩んでいたのだが、私なら悪用をしないだろうと信用して――少々エンプレスへの含みを持たせて、渡してくれたものだ。
彼女が私をそうやって信用してくれているのに、私がそれを裏切る事などできるわけがない。そんな行いは、私の正義に反する。
「しないわよ。さっきも言ったけど、委員会の方針としては彼女に関しては今の所ノータッチの予定だから」
「そうですか。それを聞いて安心しました」
沢田さんが苦笑しながら軽く手を振って、私の懸念を否定する。
「それに、彼女みたいに組織に縛られてない子がいるのも都合がよかったりするのよ。報道関係者の人達も常に特区に張っているような状態だし、委員会は政府の管理下だとどうしても断れない依頼もあったりするから、委員会に所属していると動きにくくなってしまう時もあるもの。善意であっても、悪意であっても、子供達を戦わせる事をよく思わない人は沢山いるから。勿論、それは私達だって思ってる事だけど、それで委員会がうまく機能しないと『ワンダラー』をのさばらせるだけなのに。本当は、貴女達を怪物退治以外に煩わせたくないんだけどね」
「それは・・・はい。そうですね」
「衆目に晒される事を良しとしない子も、その家族もいるんだけど、民衆にとってはいい話の種だから・・・。ごめんなさいね、嫌な言い方しちゃって」
「いえ、むしろはっきりと伝えてくれたほうが助かります」
新聞やテレビ、あらゆるメディアがいままで魔法少女や『ワンダラー』といった未知の物へ注目をしていたが、魔法少女が政府の管理下にあると分かるとその行動は激化し、トラブルも含めて様々な影響が魔法少女委員会へと降りかかっている。
勿論、超人的な力を持つ魔法少女にネガティブなイメージが付くのは避けたいので、そういったメディアで真実を伝える事により、魔法少女がもっと身近な存在であることや、『ワンダラー』という怪物に立ち向かう正義の味方であることをしっかりと伝えることもできでいるので、総合的にはプラスの方向へと傾いてはいる。
しかし、『君たちには説明義務がある、我々には知る権利がある』という論調で、許可を取らずに魔法少女達に迫ろうとする人達も少なくはない。特に、特区の外で待ち伏せまでしている人達はその傾向が顕著であり、言葉を選ばずに言うならば無礼者が多い。
委員会を通しての取材等であれば委員会の人達が矢面に立って対応をしてくれるのだが、そういった手順を踏むことなく、魔法少女を見かけた際に直接突撃する人が後を絶たなかった。
当然ながら、一般人を相手に力づくで振り払う事など出来ず、年端もいかない少女達がそういった大人達に迫られるという状況をうまく対処することなど出来るはずもない。
そういった諸々が積み重なり、『ワンダラー』の討伐という激務のみならず、余計なストレスやプレッシャーによって徐々に疲労が蓄積する結果となっている。
なので、最近では出撃の際には委員会の人と同伴で向かう必要があり、また、『ワンダラー』の出現頻度が高まっているせいで、余分な魔法力の消耗を出来る限り抑える為に、『ワンダラー』の元までは魔法ではなく緊急車両を使うことが増えてきた。
「ありがとうね。本当は私達だけでなんとかしたいんだけど、魔法少女が直接声明を出さないと納得をしない人達もいるから。貴女まで矢面に立たせる結果となってしまって、本当に申し訳ないわ」
「仕方がありません。結局は、魔法少女の中でも誰かがやらなければいけない事です。それを考えれば、私が一番適任でしょう」
委員会の人達が懇切丁寧に説明をしても、魔法少女を騙したり、強制的に働かせているのではないかという懸念はいつでもついてくる。
そういった誤解を解く為にも、魔法少女代表として誰かが前に立つしかなく、ともすれば、委員長という大層な肩書を持っている自分が適任なのは明確だった。
なので私は、柳梓がサファイアであることを世間へと開示し、魔法少女がどういった事を普段しているのか、魔法がどんなものなのか等を説明したり、実際に披露する役目を負った。人々が知りたがっている事を出来る限り公表して好奇心を満たし、他の魔法少女の負担とならないように誘導をする、それが委員長としての私の役目だろうと思ったからだ。
「そうね。貴女程しっかりしてる子は、他にはいないし・・・。でも、休みたい時はちゃんと言ってね?がんばりすぎて倒れてしまっては、それこそ本末転倒よ」
「面目ない限りです・・・」
そうしてすべてを一人でこなそうと張り切りすぎた結果、こうしてベッドの上で横になっているのは、必然とも言えよう。
「それで話を戻すけど、ブラックローズは本当に信用できる子なの?私は直接会ったことないから伝聞だけだけど、聞いている限りだと実力のある自由人って感じで、貴女達のように新人を導く役目はあんまり向いてなさそうだけど。もう許可は出しちゃったから今更なんだけどね」
沢田さんがブラックローズに対しての疑問を呈する。
確かに、いままで私がしてきた報告を吟味するだけでは、彼女がそういった役割をこなすに値する人物ではないと判断するかもしれない。
とはいえ、私はまったく心配をしていない。
少なくとも私達が教師として導くよりも、彼女の傍の方が圧倒的に安全に事を進められるだろう。
「大丈夫です。彼女が魔法少女を助けている所を、私は何度も見ていますから」
「ガーネットやメープルの事?確かに、彼女達はブラックローズによって助けられたと言っても過言じゃないけど、それでも、『ワンダラー』との戦いとは訳が違うでしょ?彼女が困っている人を助ける意思がある子だというのは分かるけど、それだけで信用するには根拠が薄いでしょ?」
「勿論その二人の事もありますが、彼女はクォーツや他の魔法少女が『ワンダラー』と戦ってる時に危険が迫ると、こっそり助けたりしています」
真化した『ワンダラー』とクォーツが対峙した時、ブラックローズは遠くから彼女の事を見守り、そしてピンチの時には少しだけ手を出していた。
どうして直接助けずにそんな迂遠な真似をしているのだろうとその時には疑問に思ったが、その後何度か、他の魔法少女達が戦っている場所へ支援の為に遅れて向かった際、彼女は楽しそうに見学しながらも、いつでも手を出せるように準備しているのを何度も見掛けている。ちょっと前までは、近づくと背中に目が付いているのではないかという勢いでこちらにすぐに気づき、脱兎の如く逃げ出していたのだが、最近ではこちらへ気づくと、少し気まずそうにしながらも手を振ってくれるようになった。
「そうなの?他の子達からは聞いたことがない話ね」
「彼女、誰にも見つからないように隠れながらやってますので。前に少し話す機会があったので、どうして隠れてやっているのか問い詰めたところ、『ヒーローの活躍は見ていたいけど、人の獲物を横取りする趣味はないからこっそりやってる』そうです。それと、『自分が表立って助けた相手からの感謝は嬉しいが、逆に裏で助けた相手から感謝されるのは恥ずかしい』とも言ってました」
あまり私には分からない感情なのだが、それを沢田さんに伝えると苦笑しながら「年頃の子の中にはそういう子もいる」と教えてくれた。
「それにしても、自由人だと思ったけど結構難儀な性格している子なのね・・・。でもまぁ、貴女がブラックローズを信頼しているという事は、よく分かったわ。良い巡り合わせだったみたいね?」
「そう、ですね。気難しくて、危なっかしい面もあるので、目を離せない所もありますが、きっと妹がいたらあんな感じなんだと思います」
「真面目すぎる姉にしては、自由奔放すぎる妹ね」
委員会という組織に所属しない野良の魔法少女でありつつも、陰ながらに魔法少女達を助けているブラックローズ。一時は、そんな彼女に嫌われているのではないかと不安で感情的になりすぎて、彼女の前で泣いてしまったのは今でも恥ずかしい思い出だ。それでも、気持ちが濁流となって溢れ、止まらなかった私の言葉を落ち着くまで聞き続けてくれた事には、非常に感謝をしている。
魔法少女の存在が公表されてしまった今、彼女はこれから先、委員会に所属していない事で不都合が起きることもあるだろう。委員会としても所属の義務付けを明確に発表したので、彼女のみならず、野良の魔法少女に関してはルール違反者としての扱いをせざるを得ない。
委員長として、表立って彼女を助けることはできないが、それでも出来る限り、彼女の助けになってあげたいとも思う。
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