可愛い子には冒険をさせよ

「ほら、ゾンビにやられちゃったよ。早くコントローラー持ち直して」

「むぅ。じぃじなら、これで折れてくれるのじゃが、強敵じゃのぅ」

「我儘を武器にするんじゃありません」


 おじいちゃんと2人暮らしと言っていたが、孫娘にせがまれたら断ることが出来ないのだろう。

 とはいえ、そんな戦術は僕には通用しないぞ。


「おヌシは大人みたいな事をいいよるのぅ」


 ギクリとしてしまうが、慌ててはいけない。別段これくらいは普通のことである。

 僕は大人だけど子供で、しかしながら大人ぶりたいだけなのだ。よくわからなくなりかけるが、そういうことだ。


「君よりもお姉さんだからね」

「ゲームには疎いのにのぅ」

「そっちは君の方がお姉さんかもね」

「ふふん。そうじゃろそうじゃろ」


 褒めてあげれば、照れながらも気分が良くなって気にしなくなってくれるのは、この子の可愛らしいところだ。

 気を取り直してゲームを再開しようとコントローラーに手を伸ばした時、僕のマジフォンからアラーム音が鳴る。

 マジフォンを開いて画面を確認するが、予想を裏切らず『ワンダラー』が出現した事による通知だった。

 相変わらず空気の読めない奴だが、本日のヒーロー稼業はお休みだ。それに、出現場所もここから200km離れている開発区での出現らしいので、残念だが、活躍の場は他の魔法少女に譲ってあげよう。


「どうしたんじゃ?マジフォンなんぞ確認しおって」

「いや、『ワンダラー』の出現通知が鳴ったから確認だけしようとね」

「む!?ワシの方にはなんの通知もなかったがのぅ?」


 メープルが自身のマジフォンをいそいそと確認しているが、自分の期待していたものはなかったのか、すぐに落胆して放り投げる。

 どうやらそちらには通知がいっていないらしい。まぁ、ここ近辺で出たわけではないので当然ではある。


「僕のは特別製でね。ちょっと遠い奴でも知らせてくれるんだよ」

「そう、なのか。なら、今回の『ワンダラー』は遠い奴かのぅ?」

「まぁ、また開発区の奴らしいよ。大体はあそこか、もしくはここから西側の都心部が出現報告多いみたいだし、そんなもんだよね」

「そうか・・・。残念じゃのぅ・・・」


 メープルは『ワンダラー』の討伐に行きたかったようで、早々にまた不貞腐れてしまう。とはいえ、最近は前よりも『ワンダラー』の出現量が明らかに増えているので、またの機会なんて沢山あると思うのだが、尋ねてみるとどうやらそんなことはないらしい。


「ワシはまだ研修が終わっとらんのじゃ。だから、一人じゃ出撃する事も許されないし、こうして通知が来ても指を咥えて待っとる事しかできんのじゃ」

「研修って先輩魔法少女と一緒に『ワンダラー』を討伐するって奴だよね?まだ終わってないの?」

「終わるどころか始まってすらないわい。座学は終了したのに、同伴できる魔法少女がおらんと。ほれ、最近『ワンダラー』の出現報告が増えとるじゃろ?そのせいで、教師役のサファイアもガーネットも最近では忙しいようでのぅ」


 見習い魔法少女は、先輩魔法少女に付いていき、『ワンダラー』の実践をして初めて見習いを取れると聞いた。

 当然だが、映像や傍観して『ワンダラー』を眺めているのと、実際に対峙するのではワケが違うし、悪意という脅威だってある。それを踏まえると、いきなり戦ってくださいとは口が裂けても言えないだろうし、委員会としても無茶させる訳にはいかないので、いくら魔法少女の手が足りなかったとしても、見習い魔法少女の出撃許可を出すことが出来ないのだろう。


「それにあまりにも遅い時間だと、ワシらのような小学生組は許可が下りなくてのぅ。ワシが開発区に住めばもう少し動きやすいのじゃが、まだもう少し身の回りの整理が必要みたいだし、早いところワシも魔法少女として活躍をしたいのじゃが、中々機会がやってこないのじゃ。いったいいつになることやら・・・。歯がゆいのぅ・・・」

「そっか。残念だね」


 メープルは悲しそうに俯いてしまったが、それが委員会の方針であるのならば仕方ないだろう。

 野良である僕と違い、彼女は好き勝手する訳にはいかないのだから。


「の、のぅ!一つ頼みがあるのじゃが、ワシを『ワンダラー』討伐に連れて行ってくれんか?」

「え?」


 俯いていた顔をバッと上げたかと思ったら、今度は僕に頭を下げて変な事を言い出す。


「一生のお願いじゃ!ワシも早く、皆のように戦いたいんじゃ!」

「いや、無理だよ。開発区まで何Kmあると思ってるのさ。それに、君は委員会所属の子で僕が勝手していい道理がないし、どちらにせよ無理」

「開発区を根城にしておるおヌシがここまですぐに来れるんじゃから、アクセル以外のなんらかの移動手段くらい持っとるんじゃろ?サファイアもいつも不思議がっておったぞ」

「まぁ、何度も使ってれば流石にバレちゃうよね」


 最近では遠距離遠征の時以外は使う事がないが、本を使わずにワープをしっかりと使えるようになった時は、アクセルよりもワープを使って『ワンダラー』の討伐をしてたことがある。

 出現してからすぐに討伐されている『ワンダラー』がいて、その影に僕の姿があれば、嫌でもそういった高速移動の手段があると想像できるだろう。

 まぁ、絶対に隠し通さなければいけないわけでもない。知られなければ知られないだけ最善ではあるが、ぶっちゃけいつまでも隠し通せるものでもないし、深くは気にしてない。タネや仕掛けを自分から披露しようとまでは思わないが。


「とはいえ、だよ。さっきもいったけど、君は魔法少女委員会の子で、僕は野良の魔法少女だ。立場が違うし、教師役にはなれない」

「でも、おヌシは強いんじゃろ・・・!?ワシと戦った時も手加減をしてあの強さで、『ワンダラー』との戦いだって、怪我一つないって」

「誰がそれをいったのか知らないけど、まぁ、僕は強いよ?でもね、足手まといを背負って戦うつもりはないんだ。それに、教師役ともなると君のサポートに回る訳だろう?好き勝手している僕には不向きな仕事だよ」

「でも、でも・・・」


 どうしても諦めきれないのだろう。僕にしがみつき始めたメープルは、涙目で訴えかけてくる。引き離そうと身体を押すが、力いっぱい掴んでいるようでビクともしない。

 まぁ、僕も気持ちは分かる。仮に同じような立場になっていれば、僕だってどうにかして『ワンダラー』と戦いたいと思うだろう。そういった意味だと、僕と彼女は似ていると思うし、なんとかしてあげたいという気持ちだってある。それに、お泊りをねだった時のようにふざけた感じは一切なく、本気の懇願だと分かるからこそ悩んでしまう。

 以前までの僕であれば、クォーツの共闘を断った時のように有無を言わさずに断るところではあるが、サファイアや委員会への負い目だったりもありつつ、もう少しヒーロー同士歩み寄ってもいいのかなと考えている。なので、未来あるヒーロー達の為にも、先輩として少しだけ手伝ってあげようか。


 メープルが放り投げたマジフォンを掴んで、いまだにイヤイヤ期に入っている彼女の頬にぺちぺちと撫でるように引っ付ける。僕の胸に顔を埋めて愚図っているメープルは我儘で手間のかかる子だが、そういった子程可愛いものだとはよく言ったものだろう。

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってしまった顔にティッシュを押し付けて鼻をかませると、改めて彼女の前にマジフォンをちらつかせる。


「もし、君が本気で『ワンダラー』と戦いたいなら、自分の言葉で委員会の人に伝えなさい。そこで許可が下りるようなら、少しくらいは手伝ってあげる」

「ほんとか!?」

「僕は産まれてこのかた嘘なんてついたことないよ。ただし、僕は他の人のように優しくはないからね?あくまで僕は手伝いしかしないし、もし君の力量不足で誰かが傷ついてしまったとしても、しっかりと現実を直視をさせる。それに、僕にだって手に負えない相手が敵の可能性もあるし、その場合は有無を言わさず君を連れて逃げるよ?例えそれで、『人々を見捨てたヒーロー』だなんて侮蔑されようがね。連絡をするなら、その覚悟を持った上でしてね」


 そう伝えて、彼女へとマジフォンを手渡す。

 僕の言葉を聞いてうろたえてしまったのか少し迷うような素振りを見せたが、しばらく考えた後覚悟を決めたようで僕の手から受け取ったマジフォンを胸に抱えると、部屋の外へと出て電話しに行った。

 僕が譲歩できるのはここまでなので、後は彼女自身が頑張って欲しい。

 まぁ、委員会に断られた時、慰める準備だけはしておいてあげよう。


「あ。おじいちゃんにも連絡しなさいよー?」


 保護者への連絡は忘れてはいけない。

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