ぼっちをこじらせていた結果

 魔法少女になる前は、ロクに使うことがなかった携帯電話。

 まぁ、魔法少女になってからも本来の機能を使うことはまったくなかったのだが、最近になってからはその使用機会が増えてきた。

 1つは魔法の携帯――通称マジフォン、ではなく、元から持っていた携帯電話の連絡先を小鳥遊桃と交換したことによるものだ。

 正直まったく使っていなかったし、交換してからもやり取りをしていなかったのだが、魔法少女学校への案内をして貰った後、ちょくちょくとメールが飛んでくるようになったので、返信をしている内にそれが日課のようになっていった。

 内容は魔法少女とはあまり関係ない事が多く、どんな食べ物が好きかとか趣味に関してのものや、今日は何をしていたとか、そういった他愛もないことばかりだ。

 たまに魔法少女の話題も書かれており、初めは情報漏洩の観点から辞めた方がいいのではと伝えたのだが、どうやら魔法の携帯から送られたメールは伝えた人以外には見えず、また魔法少女関係者には伝えても問題ないことくらいしか書いてないらしい。ただ、ブラックローズの事を意地悪な魔法少女と書かれていた時は、ちょっと心が抉られたが。

 こういったこともあり、ローズという一般人の身分は、魔法少女クォーツの友人という称号を貰った事によって魔法少女関係者として扱われてしまっている。

 これに関しては今更いっても仕方ないとしても、外堀を埋められていった結果魔法少女バレに繋がる可能性があるのはあまりよろしくないことなので、出来れば格好いい魔法少女の話題を話すくらいで納めて欲しい。

 まぁ、そんなわけで、小鳥遊ちゃんによって携帯のメールという機能を最近は使い始めることになった。

 正直そっちはいいのだが、問題はもう一つの携帯、マジフォンの方だ。

 こちらはなんと、3人もの連絡相手が増えてしまった。


 一人目はエンプレスという魔法少女連盟の盟主だ。

 彼女については、まぁそこまで問題ではない。

 サファイアとの会話の機会を設ける為に裏切り行為にあったのだが、まぁ僕の自業自得なので深く追求することはしなかった。

 僕としては裏切り行為と言ってもそこまで気にしてはなく、むしろああやって場が整ってない限りサファイアからは逃げ続けていたと思うので、その旨をエンプレスに伝えたのだが、彼女は『どんな理由にせよ、僕の事を秘密にするという約束を破ったのは事実である』と頑なに譲らず、その分のお詫びとして、彼女から出来るだけ融通を利かせるという言葉を貰った。

 その他連絡内容についても、連盟の方針だったり、資料のやり取りだったり、業務連絡みたいなものばかりだ。だから、まったくもって問題はない。


 二人目はサファイアという魔法少女委員会の委員長だ。

 こちらも少し前に色々と話をした結果、委員会に入らなくてもいいから連絡先をは交換しろと言われた。

 どうせ委員会に強制的に入れようとしても僕が逃げるというのは理解しているらしく、それなら最低限連絡だけでも取れるようにしておきたいらしい。

 最早、野良の魔法少女というより、半分くらい首輪に掛けられている感じはするのだが、問題はそこではない。

 なんというか、サファイアは究極のお節介焼きなのだ。

 いや、多分そうじゃないかという気はしていたが、度を越しすぎているのではないかと思う。

 最近では、『ワンダラー』の討伐をした後に一応電話での討伐報告を入れることにしているのだが、感謝の言葉に沿えて怪我はしてないか、医療魔法を使える子を呼ぼうかから始まり、魔石の買取りや自宅への送迎や給金等々、何から何までサポートをしようとしてくる。どれもこれも、僕には不要なのでいつも断るのだが、それでも毎回聞いてくるのだ。

 次の日起きても、悪意の影響はないかと逐一確認を取ってくるし、連日で動いていると偶には休んでもいいと気を遣ってくるし、研究所の男に絡まれたのが精神的な障害となり男性への恐怖がないか等、全てのケアを行おうとしてくる。

 流石に過剰すぎるサポートなので、これ以上はもう大丈夫だとやんわりと断ろうとしたのだが、『私は頼りないですか?』という一言に撃沈し、諦めて好きなようにさせることにした。どこでそんな卑怯な手を覚えた。

 そんなわけで、『ワンダラー』の出現確認にしか使っていなかったマジフォンが、ここ最近では使用用途が増えているのだ。


 そしてまぁ、残った最後の一人なのだが。


『ピコーン』

「いつもの事だけど返信はっや。暇人なのかな・・・」

「きっと初めての友達で距離感を掴み損ねてるっきゅ。あれだけぶっ飛んでれば友人なんているわけないっきゅ」


 この通知音がするということは、お相手は自称勇者のカエデちゃんからの連絡だ。

 アプリにあるチャットツールという物を使っているのだが、僕が1つ返す度に彼女は2,3をすぐ返してくる。

 あまりこうしたやり取りをしたことはないのだが、こういうのが普通なのだろうか。


「僕もちょっとは思ったけど、流石に言い過ぎじゃない?」

「100倍のオッズが付けれるくらいには友人が0だと予想できるっきゅ。まぁ、ローズも似たようなものっきゅ」

「うっさいな!僕には小鳥遊ちゃんっていう友人がもういるんだよ!」

「それ以前は誰もいなかったってことっきゅ・・・」

「も、もきゅだって友人だよ?」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、人類限定にして欲しいっきゅ」


 仕方ないだろう。ヒーローにいつまでも憧れている人間として疎外されていたし、家族からもほぼ勘当状態なのだから友人なんて出来るはずがない。

 しかし、今では僕がヒーロー。こうしてヒーロー仲間も出来たのだから問題ないはずだ。

 それに、友達は数ではない。いくら少ないとしても、この友人を大切にしていけばいいだろう。


「ということで、今日はカエデちゃんちに遊びに行きます」

「あぁ、そういう話をしてたっきゅね。まぁ、もきゅもローズの友人の少なさは心配してたからいいと思うっきゅ。もきゅはエンプレスから貰った研究資料を見てるから、気を付けて行ってくるっきゅ」

「もきゅは僕の保護者なのかな?そんなこと心配しなくていいよ」


 カエデちゃんとは日常会話のようなやり取りをしていたのだが、僕がゲームにとことん疎いとなると彼女のチャットスピードが上がっていき、あれよこれよという内に彼女の家で遊ぶということになった。

 怒涛のチャットスピードに圧倒されてしまったのだが、『遊ぼう』という言葉を連続するのは圧が強すぎてちょっとした恐怖体験だ。

 野良の魔法少女が組織に所属する魔法少女の家に遊びに行くのはどうかと思ったのだが、内緒にしてくれないと絶交だと言ったら返事が5回くらい飛んできたので問題ないはずだ。

 最近はヒーロー活動の方向性をスローペースでやっていこうと決めたので、たまにはこうして普通の人と変わらない生活をするのもいいだろう。


「それじゃ、カエデちゃんから座標も貰ったことだし行ってくるね」

「普通の人はワープなんて便利な魔法を使って遊びにはいかないっきゅ。いってらっしゃいっきゅ」


 N県なんて遠すぎてマトモな手段を使ってられるか。






「待っていたのじゃ!今日は沢山遊ぶぞ!」

「こんにちは、カエデちゃん。魔法少女姿じゃなくて大丈夫なの?」

「魔法少女同士なら問題ないってゆわれておる。それに、今日の事は内緒なのじゃろ?」

「確かに。それなら問題なさそうだね」


 ワープした先は、メープルとガーネットが争っていた山の近くのぽつぽつと家が見える田舎町だった。

 自分の家の近所であそこまで暴れていたのかと呆れてしまうが、彼女もテンションが上がりすぎてしまったのだろう。ご近所さんには魔法少女バレをしていそうだが。

 携帯で地図を確認しながら教えてもらった家を訪ねると、半そで半ズボンのラフな格好をしたカエデちゃんであろう子が出迎えてくれる。魔法少女姿しか見たことがないので初めましてだ。

 他の人に見られないようにインビジブルを使っていたので、初めは突然鳴ったチャイムにきょろきょろと辺りを見渡していたが、僕が姿を見せると驚愕の表情をした後、徐々に笑顔になっていった。

 もう寒くなってきた時期なのに、見てるだけでこちらも冷えてきてしまいそうな恰好をしていたメープルなのだが、家の中に案内されると部屋の中央にお炬燵が用意されていた。流石にそれは気が早い気がするが、この地域の気候だと普通なのかな。


「お炬燵に入るのにそんな恰好なの?」

「当然じゃ。おヌシがいなかったら裸で入っとるとこじゃが、今日は流石に辞めておくのじゃ」

「うん、やめてね。ご家族の方とかはいないの?」

「うむ。じぃじと2人住みなのじゃが、今日は趣味の温泉巡りに行っておる。しばらくは帰ってこんから、いつまでいてもよいぞ」


 カエデちゃん一人を残しているのは、家族の信頼の証と取るべきなのだろうか。彼女一人だと不安を覚えてしまうが、とはいえ僕が心配する必要はどこにもないだろう。

 取り合えず、いつまでもいるつもりはないが、沢山遊ぶことはできそうだ。


「そっか。それで、ゲームをするっていってたけど何をするの?」

「沢山用意しておるぞ!まずはこれからじゃ!」


 僕の知らない機械のコントローラーを渡されるが、まず持ち方から分からない。

 ゲームをしたのなんていつ以来か分からない過去であり、その時から比較すると何世代の後継機かも分からないので、少なくとも僕の知っている物とはまったく別物だろうという事だけはかろうじて分かる。

 悪戦苦闘しながらコントローラーの持ち方を教えてもらい、やっと準備が整ったところでゲームのパッケージを見せられる。

 漢2人が対面で拳を合わせている絵が描かれたそれは、僕でも知っているタイトルであり、格闘ゲームというジャンルのゲームだった。

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