小鳥遊桃の正義
わたしの名前は小鳥遊桃と言います。
今年で中学生になりました。
わたしには人に言えない秘密があります。
わたしは、魔法少女です。
ある日、不思議な妖精さんに出会い、魔法少女にしてもらいました。
魔法少女。漫画やアニメでしか見たことなかったけど、本当にわたしがなれるなんて思わなかったです。
初めて変身をして、魔法を使ったときは、とても楽しくて、一日中はしゃいでいました。
最近、お父さんやお母さんが心配そうに口にする『ワンダラー』っていうお化け。
魔法少女になったわたしなら、きっとみんなを守れるはず。
でも、魔法少女になったけど、何をすればいいかよくわかりませんでした。
妖精さんは、わたしを魔法少女にしたあと、魔法少女学校に通えばいいよといって、どこかへいってしまいました。
魔法少女学校がどこにあるかわからなかったわたしは途方に暮れていましたが、強く願ったことで叶ったのか、魔法少女学校までの扉が目の前に現れました。
扉の先は、まるで夢の世界のような場所で、そこにはわたしと同じような魔法少女達がいました。
これから先、わたしはここで学んで、お化けを倒して、たくさんの人に褒められて。
幸せな気持ちでいっぱいでした。
わたしはドジで、頭も良くなくて、お父さんやお母さんに悲しい思いをさせてしまうこともありました。
なんの取り柄もないわたしでも、誰かの役に立つことができる。
そのチャンスがやってきたんだと、信じて疑いませんでした。
魔法少女学校での生活はとても充実していました。
普段は中学校に通い、普通の学生を。
休みの日は魔法少女学校へ通い、魔法の勉強をしたり、魔法少女はどんなことをするかを学びました。
たまにお母さんに休みにどこへ行っているのか聞かれましたが、内緒にしました。
立派な魔法少女になって、驚かせたかったからです。
魔法少女の先輩達が『ワンダラー』を倒したと報告するたび、みんなで盛り上がっていました。
いつかはわたしも、先輩達のように格好よく、みんなを助けられる、ヒーローのような魔法少女に。
期待に胸が膨らんでいました。
そして、とうとう魔法少女にとって大事な、『ワンダラー』の倒し方を学ぶ時がやってきました。
魔法少女の先輩についていき、その目で『ワンダラー』を見て、どんな風に倒すかを学ぶ時間でした。
わたしは、わたしは、恐怖しました。怖かったんです。
『ワンダラー』が放つ悪意に耐えられず、ただただ頭を抱えて震えていました。
浄化の魔法を使う事もできず、先輩を見て学ぶこともできず、何もできませんでした。
先輩はそういう子もいると慰めてくれました。
でも、そのままじゃわたしが魔法少女になった意味がありません。
わたしは、自分が魔法少女になった意味を欲していました。
『ワンダラー』を倒さなければいけない、誰かを助けなければいけない。
だって、わたしが魔法少女になった意味はそこにあるはずなんだから。
機会は突然にやってきました。
わたしの通っている中学校の近くで『ワンダラー』が発生したんです。
それも、下校途中のわたしたちの前で。
黒いどろどろに包まれた赤い眼がわたしを睨むと、わたしの脚は震えてしまいました。
気分が悪くなり、眩暈がして、歯が音を立てて鳴っていました。
隣にいたわたしの友達も、同じように震えてしゃがみこんでいました。
でも、これはチャンスでもありました。
わたしが魔法少女になった意味が向こうからやってきてくれたのですから。
これを乗り越えれば、お母さんも、お父さんも、友達も、魔法少女学校のみんなも、わたしを褒めてくれる。
わたしが魔法少女になった意味はそこにあるのだと、肯定してくれる。
気合を入れて変身をして、力の限り魔法を使ったわたしは、わたしは・・・。
負けました。
なにもできませんでした。
友達をみんなを守るために全力を出したのに、『ワンダラー』に触れたときに流れた悪意が、狂気が、わたしを蝕んでいき、気づいたら病院にいました。
『ワンダラー』は、同じ時期に入学した魔法少女の子が討伐してくれたそうです。
被害は少なく、先輩達はわたしが頑張ったおかげだと褒めてくれました。
でも、違うんです。ダメなんです。
わたしが、みんなを助けないと、ダメなんです。
じゃないと、わたしが魔法少女になった意味がないんです。
誰かがやってくれるのなら、わたしは、なんのために魔法少女になったのでしょうか。
なんで助けてくれなかったの。
わたしの中の誰かが、わたしを責めてきます。
なんで助けてくれなかったの。
わたしには、魔法少女になる資格なんてなかったんです。
どうして、助けて、くれなかったの。
誰か、わたしを助けてください。
退院後、わたしは中学校をやめました。
魔法少女とバレてしまったので、通う事ができなくなりました。
住んでいた場所を引っ越しました。
わたしという魔法少女は、役立たずとして知られてしまったからです。
毎日、何もやる気が起きませんでした。
魔法少女委員会の人たちがよく訪ねてきましたが、わたしのような役立たずに構って欲しくありませんでした。
大人達の憐れむような視線が向けられるたびに、惨めな気持ちにさせられました。
魔法少女になったのに、なにもできないなんて。
新聞で、毎日魔法少女達の活躍をみていました。
わたしも、あんな風に活躍して、みんなに褒められたい。
毎日毎日、新聞を見ました。
理由が、きっかけが欲しかったんです。
前に進めなくなってしまったわたしの脚を動かしてくれる何かがきっとあると信じて。
お母さんとお父さんがどちらもいない日がありました。
いつも新聞は、近くのコンビニで買ってきてくれる特別なものでした。
外に出るのは怖かったけど、新聞が見たかったから、勇気をだしてコンビニへ向かいました。
今日の魔法少女は初めて見る魔法少女でしたが、とても綺麗で、そして、いままで見たどんな魔法少女よりも、かっこいい子でした。
顔もわからず、後ろ姿しか映ってないその写真は、それでも自信に満ち溢れた姿のように見えました。
他の新聞と同じように、わたしの勇気になってくれることを願って、新聞を買うためにカウンターに向かいました。
そのとき、カウンターの奥から楽しそうな声が聞こえました。
いままで気が付きませんでしたが、そのコンビニの店員さんは小学生くらいのちっちゃな子がしていたのです。
こんな小さい子にもお仕事ができるのに、それに比べてわたしは・・・。
自分より年下の子と比較してしまい、自己嫌悪に陥りそうでした。
でも、その子が魔法少女特集をみていたことに気づいて、つい、声をかけてしまいました。
魔法少女、好きなの?特集見てたよね?
友達に話しかけるときのように、声をかけてしまいました。
失敗でした。
不快にさせるつもりはなかったんです。
ただ、この子なら、わたしが魔法少女になった意味を教えてくれると思ったんです。
前に進めなくなってしまって、魔法少女として失格なわたしを、肯定してくれると思ったんです。
自己嫌悪から吐いてしまった言葉を、その子は聞いてくれました。
そして、その子は、教えてくれました。
失敗した子には応援をしてあげてって。
例えその時にヒーロー失格といわれても、いつかはきっとヒーローになれるんだって。
だから、応援し続けてあげてって。
わたしは、魔法少女でいいんでしょうか。
まだ、この道を歩んでいいんでしょうか。
こんなわたしでも、まだ、ヒーローと言ってくれるなら、誰か、わたしに、魔法少女『クォーツ』に、応援をください・・・!
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