最終話 ノスタルジア
樹と俺は目的の場所に着いた。目的の場所というのは山室悠斗が経営する店だ。樹ははっとした表情で質問する。
「来たいとこはここだったのか?」
樹は驚きを隠せないでいた。まぁ当たり前か。俺は彼の質問に小さく頷き店に入る。
「来たか、湊。」
カウンターにいた悠斗が話しかける。席には木村も座っている。
「どうしたんだ?俺と志帆に聞きたいことがあるってわざわざわ呼び出して何の話だ?」
悠斗は聞いてくる。
「まぁ、そうだな。どこから話そうか…」
俺は他の人が入る隙間を与えず話し始める。
「単刀直入に聞こう。俺の彼女の渡辺由紀はお前が殺したんだろ?木村」
彼女はぎょっとして答える。
「私がそんなことするわけないだろ?そもそもあんたの彼女は芽衣だったでしょ。適当なこと言わないでよ」
「そうだぞ。何言ってるんだ湊」
悠斗もつづけて彼女に合わせるように答える。その時、入口から扉が開く音がなる。
「ごめんなさい。待たせたわね」
「大丈夫、待ってないよ」
長谷川が入ってきた。そう彼女も俺が呼んだのだ。
「長谷川。俺の代わりに説明してくれるか」
「えぇ」
すると彼女は複雑な表情で話し始める。
「木村志帆さん。あなたには大切な恋人がいましたよね」
「まぁ、いたけどそれがなんなの?」
当たりが強い返答をする。
「あなたが事件当時付き合ってた男はかなりの大金持ちで財産目当てであったあなたは男の幼なじみである渡辺由紀を殺した。間違いないですか?」
かなり焦った顔で木村が言う
「一体な、何の話?」
続けて長谷川が話す。
「大学で関わりのある人の話では、あなたは酷く渡辺由紀を嫌っており、目障りだから消えてくれないかと話しいていたそうですね」
「事件現場から3キロメートル離れた公園のゴミ箱に事件で使われたであろう凶器が見つかりました。そこにはあなたの指紋が付着していました」
「そんな…」
彼女は驚きの空いた口が塞がっていない。俺はここで気になることを質問する。
「お前、なんでこんなことしたんだ?お前の口から説明してくれるか?」
「分かったわ。さっき美桜がほとんど言ったとおりよ、でも殺すつもりなんてなかったの。ほんとにただ遊び半分だったというか…ほぼ事故みたいなものなの」
ここで長谷川が飛び出して彼女の頬をビンタする。
「何よ遊び半分って!!彼女は、由紀は死んだのよ!ふざけないで」
ここで悠斗が口を挟む。
「湊、すまない俺はこのこと前から知ってたんだ。でもどうして志帆が犯人だって分かったんだ?」
「この芽衣の部屋にあった暗号さ」
「なるほど、確かに少し考えれば分かる暗号だな」
樹はどういうことだよと言わんばかりな表情でこちらを見てくる。まぁ待て待て。俺は説明を続ける。
「今朝この暗号といて、ここに来る途中長谷川に連絡してたんだ。そしたら物的証拠が簡単に出てきたわけだ。」
「お前が事件当日のSNSで証拠が見つかった公園の近くで写真を撮ったのがあがってたんだ。そこから調べたんだと思う」
長谷川が頷く。店の周りがうるさい。警察が包囲して待っているのだろう。悟った志帆が一言。
「ごめん」
と言い残し警察に連れてかれた。事件が無事解決されたが何故か俺の心は何かすっぽりと抜けたように、何も感じられずにいた。
◇◇◇
木村が逮捕された日から2ヶ月が経った。あんなこともあったので今はシェアハウスをやめて各々一人暮らしを始めた。たまに長谷川、俺、樹で悠斗のお店に行き、みんなで何気ない会話を楽しむ日もある。芽衣は事件解決に貢献したということで、執行猶予で釈放された。俺への異常な愛と執着心からあんな事件を起こしたことを聞いた。彼女の愛には答えることが俺にはできなった。彼女も彼女で幸せになってほしいと心から願う。
先日おれは記憶が完全に戻ったのと同時に色もはっきりと認識できるようになった。久しぶりにみた色付いた世界は新鮮なものだった。色が戻ったということで俺はみんなで昔行った京都の伏見稲荷大社に行くことした。 連なる鳥居は何度見ても綺麗だなぁと思う。そのとき突然見えてた視界がぼやけて涙が零れる..
やっぱりダメだ。家にいてもどこにいても彼女を思い出してしまう。すらっとした腕や足、小さな手。行きつけのお店での会話。旅行の思い出。くだらないことでの喧嘩。全ての思い出が愛しい。溢れる感情から俺はこの場で膝から崩れ落ちる。
「ううあああぁぁあああああ!」
涙が止まらない。君と見ていた世界は美しいのに、世界で一番綺麗な君はもういない。
モノクロのままで良かった。だって君を思い出してしまうから。こんなに辛いなら君を忘れて新しい世界でやり直したい。
色も記憶も戻った俺は君のいない世界で生きていく。
プリズム 千葉 雛 @tiba-hina
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