第22話やったねヒエちゃん!

 海を眺めていた、大女神様は黙って俺の話や悩みを聞いてくれていた。夕暮れが近づくと……

「帰りましょうかね……ありがとうございました大女神様」

「いえいえ八神さんも大変でしょうが、決めるのは貴方次第ですよ」

「そう言われると本気で二人共俺のお嫁さんにしますよ?」

「結構です、立ち会いますよ私が……楽しみにしてますね」

 にっこりと笑顔で言われるとなぁ、やっちゃうよ本当に……

「じゃあ楽しみにしてて下さい!」

「それでは私はここで失礼しますね、人目も少ないので……」

「じゃあまた」

 ふっと風に消える様に大女神様の姿が消えて行った、帰るか……バスに乗り込み新潟駅まで向かうと、忘れてた! お土産ちゃんと買わないと、やっぱりデザートかな……暑くなってきたし別に、新潟で買わなくても五泉のキムラでアイス買って帰ろうかな、うんそうしよう!


 五泉に着くとさっそくキムラへと向かうと、アラモード焼きとアイスを買ってアパートに向かうと、階段でヒエがしゃがみこんでいた。

「何やってんだヒエ?」

「ひっ!」

「ひっ! じゃないよ。邪魔だぞ、そんな所でしゃがんでると」

「あっうん! 先に行ってなよ部屋! 疲れたでしょ!」

「まぁ別に良いけど、さっさと来ないと蚊に刺されるぞ」

「いっいいから!」

「にゃ〜」

 ん!?

「あっ! こっこら!」

 聞こえては行けない鳴き声が聞こえて来た。急いでアパートに入りアイスを冷凍庫に投げ込みヒエの元に戻ると、後ろ手に隠した。

「ヒエ? 怒らないから今隠したブツを出しなよ」

「えっえっと……」

「みゃう」

「もう聞こえてるんだよ……取り上げられたくなかったら大人しく出しなさい」

 ゴソゴソと隠していた小さなダンボールを俺に向けて差し出した。中を確認すると……まっ鳴き声で分かっちゃいたけど。

「元の場所に返して来な」

「いや! 可哀想じゃない!」

「可哀想な気持ちは分かるけどさ……このアパートさペット禁止なの!」

 じっと俺の目を縋る様に見つめてくるヒエを、無視してダンボールを取り上げようとすると抵抗してくる。

「何してるのよ二人共?」

「「ヤエ!!」」

「助けてヤエ! 健が命を捨てて来いって!」

「何言ってるのよ……さっさと部屋に入って夕飯にしましょ?」

「にゃん!」

 いかん! この獣をヤエに見られたら……ダンボールの隙間から愛らしい姿をした白黒の仔猫が顔を出した。

「やっぱね……ヒエ、駄目なんだよ」

「にゃ」

「ちょっと駄目よヒエ! このアパートは……」

「もうさっき言ったよ俺が」

「だって……だって……」

 ヒエ様いい歳で駄々っ子にならないで欲しい……だが外で話してると他の住人の迷惑になるので仕方なく。

「分かった、ヤエは夕飯の準備しておいてくれ」

 仔猫と戯れたがりそうなヤエを静止させるように頼むと

「うん……分かったけど、どうするの?」

「まっ、ちょっと出かけてくるよ」

「今から?」

「しょうがないからな、ヒエ? 俺が帰るまで絶対にアパートに入るなよ」

「えっ?」

「約束出来ないなら、今すぐそのダンボールごと俺が捨ててくる」

「健……うん……分かった、待ってる」

「すぐ戻るから」

 一言だけ伝えると、急いでホームセンターへと向かう。本当にあの元女神は……何か今日は余計な出費が多いな! 買い物を済ませてアパートに戻ると、帰ってきた茉希ちゃんとヒエがしゃがみこんで仔猫を愛でていた。茉希ちゃんも既に魅了されている……

「ただいま!」

「おかえり師……汗だくじゃん! あとその荷物なに!?」

 有無を言わせずダンボールひったくり大きなゴミ袋に入れてから。

「ほら! さっさと部屋に入って! ごめん茉希ちゃんこれ持って! ヒエ玄関開けて!」

「うっうん!」

 狭いアパートに雪崩れ込むように入ると、部屋の隅に荷物を置いて。

「取り敢えず俺達の夕飯が先だ、絶対にダンボールを袋から出すなよ!」

「はいっ!」

 慌ただしく夕飯を食べて行く、ダンボールの中から弱々しい鳴き声が時折聞こえて来るが無視すると。

「ねぇ健……ちょっと可哀想じゃないかしら」

「ヤエ、物事には順序ってのがあるでしょ……食べ終わったらね」

「師匠……」

「茉希ちゃんもそんな目で見ないで! ほら食べて! ヒエも!」

 食べ終わると、テーブルと食器を片付けてからダンボールが入った袋を覗き込むと予想はしていたが……臭う、明日はゴミの日だ中身だけ取り出すと……女性達の目が釘付けだ。

「茉希ちゃんごめん! ルール違反だけど、このダンボール入った袋を丸ごと捨ててきて」

「明日は……そっか! 行ってくるね!」

 さて……この仔猫雌か、取り敢えず全身を見るとダンボールの中で粗相をしたのだろう、臭うし汚れている。ぱっと見外傷はなし……病気は……ヒエは気付かないかもだけど、ヤエには勘付かれたくないが仕方ない。仔猫に神気を通すと衰弱しているだけの様だ。

「ねぇねぇ健! 何でつまんで何時までも持ち上げてるのよ!」

「おっといかん! 袋の中から動物用のシャンプー出してくれるかヒエ?」

「私だってお世話したいのに……」

「良いから早くして!」

 シャンプーを受け取ると、仔猫の汚れを洗い落としていると茉希ちゃんが帰ってきた。3人に見つめられながら優しく洗うと、軽くタオルで拭き取りドライヤーで乾かす。

「ほらヒエ! これで良いよ、袋に餌もミルクも入ってただろ? 食べさせて上げて」

「ありがとう健!」

 さて……仔猫の相手は3人に任せて、こっちも用意しないとな袋から箱を取り出して組み立てていると。

「健、それは?」

「ペット用のトイレだよ」

「ってヤエは、お世話しなくて良いの?」

「あそこまで熱心にしてるヒエを見てると、ちょっと……ね」

「それよりも健……さっき何かした?」

「洗っただけだよ?」

「そうじゃなくて……本当に?」

 やっぱり勘付かれそうになってる! 女の感かそれとも元々の力の残滓か、だが知らっばくれよう。

「ヤエは気にしすぎだよ、それよりも出来たよほら!」

「ちょっとまって健! それがあるって事は……まさか」

 トイレに砂をならすと答えた。

「ヒエには責任を取ってもらおうじゃないか」

「飼うのね?」

「これホームセンターのレシートこの金額を……」

「わかってる、ヒエの小遣いから引いておくわ」

 餌を食べたのか仔猫が床を鼻で匂いを嗅ぎ始めた、ほら来た……

「トイレはこっちですよ〜」

「ちょっと!」

「良いから良いから、よく見とけよ特にヒエ!」

 つまみ上げるとトイレBOXに放り込む、出ようとするが用を足すまで出さない……少しすると用を足したのだろう、脚で砂をかけているのを見てトイレから出るように促すと出て来た。

「床を鼻で嗅ぎ始めたらトイレの合図だからな、覚えるまでちゃんと誘導するんだぞ」

「そうなの? この子飼ってもいいの?」

「絶対に内緒だぞ! あとコイツの飼育費用はヒエが責任持って養え、それが条件だ」

「あっありがとう!」

 そういうとヒエが猫を抱っこして、茉希ちゃんと楽しそうに眺めていた。こっそりとヤエに

「取り敢えず、ヒエが稼いでる生活費は俺の小遣いを減らしてくれて良い」

「そんなに甘やかせなくていいわよ」

「ヤエも見ておいでよ、見たいんでしょ本当は?」

「うっ……ごめん健! ちょっと見てくる!」

「はいよ」


 こうして家族? が増えた。


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