241.旧い友人

 船団を救った僕たちは、すぐにその場を去ろうとしたものの、『リヴィングレジェンド号』の帆が破けたことを思い出して断念する。

 そのとき、クロエさんから帆の修繕を提案され、それを受け入れることになった。これだけの船団となれば、予備の帆もいくつかあるらしい。サイズが合うかどうかわからないが、最悪でも縫製することで船を動かせられるようになるらしい。


 ただ、その修繕の提案は建前で、船団側からすると恩人に何もお返ししないのを防ぎたいのが本音がだろう。それも、その恩人が噂の『アイカワカナミ・キリスト・ユーラシア・ヴァルトフーズヤーズ・フォン・ウォーカー』ならば、向こうとしてはここで縁の一つでも作っておきたかったのかもしれない。

 

 こうして、モンスター襲撃を乗り越えた船団は、航海を再開しながら僕たちを歓待する準備も進める。ついでに、ティティーの『始祖と魔王の魔剣ブレイブフローライト』もちゃんと回収してもらった。


 船団の中には一つだけ豪華な客船が交じっていて、そこに僕たちは移動する。


 その客船を軍船が囲み、甲板に貴族の館ばりの椅子とテーブルが用意されていき、そこで歓迎のお茶会が始まる。同席するのは、まず船団の最高責任者であろうクロエさん――


「ま、まさか、本当にたった二人だけであの船を操っていたとは……」


 クロエさんに二人旅であることを説明すると、驚きを通り越して呆れられてしまった。

 しかし、すぐにそれを持ち直し、自らの船団について説明してくれる。


「えっと……、こちらは、千を超える船員たちで構成されています。我々の任務は要人の護送だったため、ここまでの人数が割かれていたのですが……」


 その千人体制でモンスターに遅れを取ってしまったことをクロエさんは不甲斐なく感じているようだ。顔を俯けはしないが、少し顔が歪んでいた。

 ただ、すぐにそれを労わる声が響く。


「クロエさん。先ほどのモンスターは、わたくしたちの予想を遥かに上回るものでした。決して貴女の落ち度ではありませんよ」


 柔らかい声だ。

 その声の持ち主は、同席している二人目の女性――おそらく、その佇まいと装いから、彼女こそクロエさんの言う要人だろう。

 年は僕よりも少し上で、背の高さは少し下。長い栗色の髪は綺麗に整えられ、品のある佇まいだ。その後ろには侍女が二人付き従っている。


「初めまして、カナミ様。わたくしはセスティア国のフローラ・セスティアと申します。この度は命を助けていただき、心から感謝しております」


 自己紹介がなされ、その補足をクロエさんがすぐに行う。


「フローラ様はセスティア国王の次女様で、第四継承権をお持ちです。ずっと海の向こうで暮らしていたのですが、最近は開拓地のほうも危険になってきたので、本土にある王都へ移ることになったのです」


 お姫様であると伝えられ、僕は言葉短く返す。


「僕の名前は相川渦波です。よろしくお願いします」

「童はティティーじゃ」


 隣のティティーも軽く答えた。

 それにお姫様はたおやかな微笑みで応える。


 少し感動だ。

 一応、そこにいるティティーは元女王で、ラスティアラもお姫様に当たる。しかし、どちらもろくな人間でなかったので、目の前の正統派なお姫様が珍しいのだ。


「この船には、あと一人王族がいるのですが……」


 クロエさんが要人は二人いることを呟く。できれば、もう一人も紹介したいようだ。きょろきょろと周囲を見回す。


 そのとき、船の甲板にある樽の一つが、ごとごとと独りでに動いた。

 そして、その樽の蓋がぱかりと開いて、中から小さな少女が出てきたのだ。


「そ、そろそろ戦闘終わったかな……? ふいー、危ない危ない。というか襲われたのは、あてのせいなのかな? いや、この船団には他にも要人は多いし、そうじゃないと信じたい……」


 そのぶつぶつと呟きながら樽から出てくる少女は、目の前の正統派お姫様以上の感動を僕に与えた。

 それを表現するならば、余りに懐かしく、余りに異次元的だった。


 まず、何よりも目に付くのは、少女の腰まで伸びた黒髪に栄える『和服』。


 上は着物で下は袴だろうか……。この異世界に合わせてアレンジされ、日常生活用に柄は大人しめだが、それは間違いなく僕の世界で言うところの和服と呼べるものだった。

 一瞬、同じ日本人でないかと錯覚する。

 しかし、その少女の病的に白すぎる肌と赤い目が、その期待を否定する。口元から覗く犬歯は妙に長く、魔力が異常に大きい。純粋な人間でなく、何らかの『獣人』であるとわかった。


 その奇妙な少女の登場に合わせて、お姫様は笑う。


「ふふ。丁度ですね、クロエさん。……あちらは私のお友達で、カナミ様にも負けないほど有名な方ですよ。あの伝説の『レギア国名誉欠番姫』にてイングリッド大商会の長、クウネルちゃんです」

「へ、へえ……」


 僕に比類されると言われても、全く心当たりはなかった。

 僕が少女の和服に見蕩れていると、クウネルちゃんは見知った顔を見つけてこちらへ寄ってきた。


「いやー、凄かったですね。さっきの最後の魔法って、例の『魔人返り』に至った人の魔法じゃないでしょうか? もしかして、船員の誰か、限界超えちゃいました?」

「いいえ、クウネルちゃん。あれはこちらのお二人の力ですよ。お二人とも『詠唱』を使うことなく、その身の魔力だけでわたくしたちを助けてくれました。こちらはあの噂のカナミ様。そして、そのご友人のティティー様です」


 そして、お姫様は僕たちを紹介してくれる。

 それに合わせて、クウネルちゃんの目線は動く。


 彼女の視界に僕とティティーの姿が入る。

 その瞬間――彼女は女の子にあるまじき声を出す。

 

「――げ、げぇっ!?」


 それはまるで『化け物』に出遭ったかのような声だった。


「げえ?」


 しかし、いま僕もティティーも、先の失態を教訓にして完全に魔力を抑えている。そんな反応をされる理由がわからなかった。

 

 しかし、当のクウネルちゃんは首をかしげた僕とティティーの顔を何度も繰り返し見ては、冷や汗を流し続けている。いや、冷や汗どころではない。少し涙目になっている。

 尋常ではない。


 それに友人であろうお姫様も疑問に思ったようだ。


「……? もしかして、カナミ様ティティー様とお知り合いなのですか?」

「え? 知り合い……? 知り合いというか何というか……。い、いえっ、お会いしたことなんて一度もありませんよ? まじで一度もありませんわー!」


 震えに震えたあと、クウネルちゃんは棒読みで首を振る。

 もう遠慮はできない。

 すぐに僕は『注視』する。



【ステータス】

 名前:クウネル・クロニクル・シュルス・レギア・イングリッド

 HP25/25 MP112/112 クラス:吸血種

 レベル43

 筋力0.67 体力0.89 技量2.12 速さ0.99 賢さ2.56 魔力7.12 素質0.19

 先天スキル:

 後天スキル:裁縫1.33 菓子作り1.02 取引1.58 音楽1.01 琴1.12


      

「――っ!?」


 その異常な数値に、今度は僕が驚きの声をあげかける。

 まずレベルが高すぎる。

 そして、そのレベルの割りにステータスが低すぎる。

 スキルは豊富だが、ろくな戦闘用スキルがない。


 あとは職業欄が……吸血種?


 相手は女性だが、僕は迷わず《ディメンション》で身体的特徴のスキャンをかけにいく。彼女から人間と違う点を見つけるのはすぐだった。

 とてもわかりやすく、着物の下の背中に、蝙蝠に似た黒い羽根が生えていた。


「え、ヴァ、吸血鬼ヴァンパイア……?」


 それらの情報から導き出される答えを口に出す。

 するとクウネルちゃんは慌て出す。


「ちょっ、こんなところで――! かい――カナミさん!」


 ファンタジーでは頻出する種族だが、この異世界では初めて見る存在だ。その未知数の力に警戒して、僕は臨戦態勢を取ろうとする。しかし、ティティーが立ち上がって、彼女との間に割り込んで遮る。


「んんー? そなた、どっかで見たことあるような……」


 ずいっと無防備に顔を寄せて、クウネルちゃんの顔を覗き込んだ。


「ひぃっ!? ま、ま――ティティーさん、驚かせないでください」


 クウネルちゃんは大量の冷や汗を垂らしながら、すぐに五歩ほど後退した。

 先ほどから動揺しまくりだ。


 そして、いま彼女は、間違いなくティティーのことを『魔王』と呼びかけた。

 しかし、僕のほうは何と呼びかけたのかわからない。始祖の「し」ではなく「かい」と呼びかけたが、彼女は僕が何に見えたのだろうか。


 僕とティティーは疑わしげに、あたふたする和服少女を見続ける。

 その視線に耐え切れなくなったのか、すぐにクウネルちゃんは一礼して、さらに後退する。


「え、えーっと、あてもお二人には大変大変感謝しています。カナミさんにティティーさん、この度は助けて頂き、真にありがとうございました。ただ、あては船の揺れのせいか、すごく気分が悪いので……ちょっと失礼させて頂きますね。いやぁ、本当にすいません。あははは」


 それに対面のお姫様は残念そうな顔をする。


「え、せっかく、あのカナミ様がいらっしゃってるんですよ? そんなに気分が優れないのですか?」

「ごめんっ。いや、まじで吐きそうなんで。まじでっ。――じゃっ」


 そう言って、クウネルちゃんは足早に船の中へと引っ込んでいった。


 本当に気分が悪そうだったので、それを僕は止めなかった。ただ、その気分の悪さは船酔いじゃなくて、僕とティティーと出会ったからのように見えた。


「カナミ様、ティティー様、すみません。クウネルちゃんはちょっとマイペースなところがあるんです……」


 すぐにお姫様は友人のフォローを行う。

 本当に慎ましくお淑やかで王族然とした高貴さを備えた少女だ。

 だが、いま僕たちの頭の中は正統派お姫様ではなく、先ほどの色物お姫様で一杯だ。


「いえ、特に気にしてはいません……。いませんが……」

「うむ……。そうじゃのう……」


 僕とティティーは目配せを行い、この場で彼女について追求するのをぐっとこらえて、お姫様と他愛もない話を続けることを決める。もし、彼女が千年前に関わる人間ならば、慎重に慎重を重ねなければならない。


 そして、お姫様は楽しそうに僕たちとの会話を楽しんでいく。


 ただ、そのほとんどが僕の話だ。まず、連合国で僕の噂を何度も聞いたことを話し、一年前に連合国で同じ舞踏会に出席したけれど、僕が途中で帰って残念だったという懐かしい話もされた。

 他には、お姫様の故郷であるセスティア国がフーズヤーズ国の近くにあることなど、現代の地理について教えて貰ったりした。

 その話の最後に、僕たちの目的地の話となる。


「――まあ。ではカナミ様も、わたくしたちと同じ『コルク』に向かっているのですね。……それではこの船団の旅に、もう少しお付き合いしてくださいませんか? お礼と言えるほどのものではありませんが、この船で用意できる最高の食事とお部屋を用意させて頂きます。一晩ほど休憩されたら、きっと明日の朝には到着していることでしょう。もちろん、そのときには船の修繕も完璧に終わるはずです」


 悪くない提案だった。

 本当は食事だけ頂いて、夜には船を走らせようと思っていたのだが……。


「かなみん、どうするのじゃ? 正直、帆が一つくらいなくとも、船は進められるぞ」

「この船団からは早めに離れようと思ってたけど……。さっきの『あれ』が気になる。ティティーはどう思う?」

「確かにの。『あれ』が気になるのは童もじゃ。間違いなく、童とかなみんのことを知っておったぞ。それも千年前の童たちのことをじゃ」


 正直、この正統派お姫様はどうでもいい。


 それよりもあの吸血鬼かもしれない和服の少女だ。彼女の情報をもう少し収集したい。できれば、もう一度話をしたい。それが本音だ。


 僕たちはお姫様の提案に頷いて返すことにする。


「それでは、お言葉に甘えて客室を二つお借りしますね。もう何日も二人だけで船を動かしてきたので、ここで休憩できるのは非常に助かります」

「ああ、よかったっ。それではディナーもご一緒できますね。今度はカナミ様でなく、ティティー様のお話も聞きたいです」


 お姫様はにっこりと笑って喜んでくれた。

 その隣にいたクロエさんも僕たちの同行を悪くは思っていないようだ。


「もう何日もお二人だけで、あの巨大な魔力船をですか……? その上、あれだけの戦闘を行ったのならば、体力だけでなく魔力も限界近いことでしょう。すぐに、お二人のお部屋のご用意を致します」


 すぐに近くの船員に声をかけて、準備を始める。

 その指示を合図に、忙しなく周囲の船員たちは動き出す。


 そして、甲板でのお茶会は終了し、大した間もなく僕たちの部屋は用意され、案内される。僕たちが休んでいる間、『リヴィングレジェンド号』のほうは船団の精鋭たちの手によって修復と牽引がされるらしいので安心だ。


 こうして僕たちは、この数日間の航海で溜まった疲れを豪華な客室で癒すことになった。

 今日の夜に予定していることを考えて、可能な限り睡眠をふかふかのベッドで取っていく。


 その後、日が暮れた頃に豪華なディナーが、また客船の甲板で振舞われ、そのお礼にお姫様とクロエさんに他愛もないお話を提供した。向こうも余り突っ込んだ話はしてこないので、とても話しやすいものだ。ティティーとの迷宮探索や一年前の『舞闘会』の話をしている内に、あっという間に夜となる。


 夜になってしまっては、楽しい談笑も終わりだ。

 最後に、互いに良い縁があったと笑い合って、お姫様たちと僕たちは自室に戻っていく。


 ――さあ、ここからが本番だ。


 夜の間も航海は続いていくが、それでも起きている者は格段に少ない。

 闇の中、さざなみの音だけが聞こえる時間帯となった。

 

 そして、用意された自室で、その音に耳を傾けながら僕は待つ。

 ティティーと例の少女を――


「――と、言うわけでー、上手に拉致ってきたのじゃー」

「むむー! むむむむーーー!!」


 海のさざなみの音だけが聞こえる深夜。

 僕の部屋へティティーに口を押さえられたクウネルちゃんが連行された。

 それを僕は三白眼になって見つめる。


「ねえ、ティティー。僕は穏便に連れてきてって言ったよね……」

「何度言っても扉を開けてくれなくてな。つい、やったのじゃ」

「つい、で王族を誘拐するなよ……」


 僕も人のことを言えない気はするが、いまは置いていく。

 しかし、こうなるのなら僕が行けばよかった。相手は女の子だから、男の僕よりティティーのほうがいいなんて考えるんじゃなかった。


 僕が後悔する間も、ティティーは動く。

 強制的に部屋の椅子にクウネルちゃんを座らせて、どこからか取り出したロープで彼女を拘束していく。

 そして、その口に当てられた手が開け放たれる。


 同時に絶叫が部屋に響く。


「は、離せぇええええ! 死にたくないぃ! まだあては生きていたいぃいいいい――!!」

「――《ワインド》。うむ、叫ぶだけ叫ぶとよい。しかし、童の風で部屋から音が漏れることはないじゃろうな」

「なにそれ!? 怖すぎ!?」


 怯えに怯えたクウネルちゃんは涙目になり、小動物のように震えだす。

 まるで、処刑を待つ人質のようなテンションだ。


「おらっ、吐くのじゃ! そなたの知っておることを、きりきりと教えるのじゃ!」


 彼女のテンションに釣られたのか、ティティーも楽しそうにクウネルちゃんの横腹を突き出す。その攻撃に悶えながら、クウネルちゃんはしくしくと涙を滴らせる。


「あ、あかん。これあかんやつや。なんでこんな目にばっかり遭うんだろ、あて。やっぱり、敵のいない自宅に引きこもっとけばよかったんや……。『大災厄』とか、あてには関係なかったのにぃい!」


 このまま、放っておくと大惨事になる。

 そう思った僕は、すぐにそのおかしな空気を打ち消しに行く。酷く真剣な声で、それでいて優しい声を心がけてクウネルちゃんに話しかける。


「お、落ち着いて。僕たちは君に何もしない。ただ、君の話を聞きたかっただけなんだ。そこの馬鹿が面倒くさがって、こうなっちゃったけど……」

「うぅ、流石の『会長』の優しさ……。でもこれ、よう尋問に使われる飴と鞭な気がする……」

「……そこは否定しない」


 できれば、僕に恩義を感じて話が早く済めばいいとは思っていた。その頭の隅で薄らと考えていたことを看破され、僕はクウネルちゃんの認識を改める。


 その妙な言葉遣いと発言はともかく、この少女は賢い。

 正直に話をしたほうが信頼を得られるかもしれない。


「余り長話できる時間はないから、本題に入るよ。――まず、僕は君のことを知らない。始祖カナミは使徒レガシィのせいで、千年前の計画に失敗したんだ。そのせいで、記憶も力もなくしてる。だから、君が僕を『会長』って呼ぶ理由を、まず教えて欲しい」

「え、え……、使徒レガシィ? あのー、まずその千年前の計画ってなんすか……? つーか、そもそも千年も経ってんのに、なんで二人とも生きとるのん? そこらへんから説明して欲しいんですけど……」

「使徒レガシィを知らない? もしかして、千年前の顛末とか、迷宮とかの計画とかも全く知らないの?」


 疑問符ばかりが間に飛ぶ。

 そのことから大きく意識が食い違っているとわかり、どこから話をしていいものかと僕は悩む。それは向こうも同じようで、うむむと唸る。

 先に思考を終わらせたのはクウネルちゃんだった。


「……えっと、聞いてください。あては千年前に『始祖』と呼ばれる前の『相川渦波』と協力して、金儲けしてただけの小物です。二人で商会を作って、お互いの趣味だった裁縫を活かして、めっちゃお金を稼ぎました。でも、その商会の『会長』だった相川渦波は、すぐに全てをあてに任して消えました。それで関係は終わりです。そこの魔王様のことを知ってるのは単純に、あてが生まれたときから超有名人で、遠目に見たことあるからです……」


 とてもわかりやすく千年前の友人であったことがわかる。

 さらに、僕の戦いとは全く関係のない友人であったこともわかる。


 千年前の僕は『理を盗むもの』や『使徒』たちだけでなく、こういった普通の人たちとの交流もあったようだ。いや、それは当然と言えば当然だが……。


 得た情報を黙って吟味する。

 その間、クウネルちゃんは涙を流しながら、真実であることを訴えてくる。


「う、嘘やないでー。ほんとやでー」


 この袋小路の状況で嘘をつくような人間でないとは思う。

 ただ、それ以外のところが気になって、先ほどから僕は思考に集中できていない。


「いや、疑ってはないよ。それよりも、その君の変な喋り方がちょっと気になって……」

「それは会長の翻訳魔法次第でしょーがー! こっちは地元の喋り方を普通にしてるだけで、それを会長が面倒だからって、自分の世界の方言を適当にリミックスしたんでしょーがー! というかこの話、千年振りにやった気がする! あー、懐かしいー!!」


 とても関係ない話を出したせいか、クウネルちゃんは自棄になってしまった。

 おそらく、いまは彼女は素を出して、心から僕の勝手を怒っている。


「た、確かにその通りだね。ごめん」


 なので、素直に謝る他なかった。


「はっ、つい本音が……! あの会長にとんでもないことを……!」


 すぐにクウネルちゃんは我に返り、またがくがくと震えだす。

 これが演技でなければ、本当にただの昔の知り合いという感じがする。


 使徒とも迷宮とも関係ないのであれば、これ以上拘束の必要はない。

 そう思ったが、ティティーは違ったようだ。


「しかし、童たちに怯えすぎじゃないかのう? なんかあるのではないか?」

「いや、これが普通ですって! 魔王様は自分が回りからどういう風に見られていたか、ちゃんと理解してください!」

「あ、ああ……。そうじゃの。ああ、そうじゃ。千年前の周りからは、そういう風に見られておったのう……」


 だがトラウマを的確に突かれ、すぐに静かになってしまった。部屋の隅でうじうじとし出したティティーを置いて、僕は話を進める。


「ティティーはそれで納得できるよ。けど、僕のことまで怯えすぎじゃない?」

「会わなくなってから、すっごい噂聞いたからです! 魔王様に負けないくらいの悪評ばっかだったから、あての知ってる会長はいなくなったと思って、再会がめっちゃ怖かったんですよ!!」


 そういえば、妹が死んだと勘違いしてからの僕は荒れに荒れていたはずだ。ティティーと組んでいたときは、悪評が自分に集まるようにもしていた。そのときの噂を聞いたならば、いまの彼女の反応もわかる。


 そう自分の中で情報を整理していると、クウネルちゃんは必死な弁明に疲れたのか、とうとう項垂れてしまう。


「もう会長の得意の魔法で脳みそ見てもらってもええですよ……。本当に裏とかないんで……。というか隠し事しても無駄だって思い知ってるんで……。そもそも、あての魅了の魔眼の上から、会長の魅了の魔法がかかってるんで、反逆とかできないんで……」


 早い全面降伏だった。

 本人からの許可が出たので、僕も会話の手段に《ディスタンスミュート》が増える。


「んー、じゃあ失礼して……」


 少し考えてから、魔法を発動させる。

 クウネルちゃんの会話の端々から妙な計算高さを感じてしまうため、どうしても確認が必要だと思ったのだ。絶対に嘘をついていない保障をここで得なければ、いつまでも話が前に進まない。


「――魔法《ディスタンスミュート・繋心アクセス》」


 そっとクウネルちゃんの胸に腕を入れて、『繋がり』を作る。

 もちろん、数日前の大聖堂で『魔石人間ジュエルクルス』相手にやりすぎたことを教訓として、感情の交信でなく、記憶の交信だけを最低限行う。相手が女の子なので、プライベートにも配慮するつもりだ。


「んっ……」


 少しだけ呻き声があがったものの、クウネルちゃんの抵抗が全くないため、あっさりと魔法《ディスタンスミュート・繋心アクセス》は成功する。


 そして、互いに目指すのは、同じ『二人の出会いから別れ』までの記憶。とてもスムーズに、その記憶が発掘されていく。

 それは古いアルバムを、ぱらぱらとめくっていくかのような感覚だった。

 

 ――最初の写真は、『とある館の地下深くで両手両足を杭で打たれていたクウネルちゃん』。


 そこに僕が現れたところから、物語は始まっていく。


 ……千年前。

 その時代、吸血種の『魔人』たちが色々な場所で非人道な真似を繰り返していた。

 人をさらい、食らい、操り、国をも滅ぼそうとしていた存在――それを人々は『吸血鬼』と呼んだ。


 その『魔人吸血鬼』の悪行を見過ごせなかった当時の僕の戦いの記録が――『相川渦波』と『クウネル・クロニクル・シュルス・レギア・イングリッド』の物語となる。


 彼女の記憶で見たところ、その時代の僕の姿は始祖カナミと呼ぶより、いまの僕に近かった。服は異世界に合わせたものだが、髪や顔つきはそのままだ。

 その僕がティアラと思われる少女と協力して、二人で吸血鬼の一族と戦っていた。しかし、相手は不死の存在。物語の最後は『吸血鬼の異端児』だったクウネルちゃんの手を借りることで、なんとか殲滅を成功させる。


 ぶっちゃけると、不死の吸血鬼たちを殺す方法は同じ吸血鬼に血を吸わせることだったので、全ての吸血鬼の血をクウネルちゃんに吸わせたのだ。それは一種の魂の吸引のようなものだったためか、彼女のレベルは急上昇。こうして、出来損ないでありながら、妙にレベルの高い吸血鬼が誕生した。


 その後、彼女は僕と趣味が合ったので一緒に行動するようになり、イングリッド商会を立ち上げる。無論、全て趣味というわけではなく、商会という後ろ盾を作ることで希少種である自身を守るという目的もあった。ただ、僕のほうは別件で忙しくなったので、すぐに商会を離脱。そして、その『会長』の僕がいなくってからもクウネルちゃんは一人で商会を維持し、世のため人のため働き続けた。


 そのサクセスストーリーは壮大だ。

 僕から仕入れた異世界の知識を武器に世界を牛耳っていき、ついにはイングリッド商会を世界最高の大商会にまで育て上げる。そして、千年前の『世界奉還陣』には巻き込まれず、それどころかそのどさくさに、金に物を言わせて西の辺境に中立国を作ってる。

 それが彼女の国――『レギア国』。

 そこで彼女は『名誉欠番姫』という一生自堕落生活ニート出来る完璧なポジションを自分で作って、自分で座って、悠々と余生を服を縫いながら生きてきたようだ。

 ただ、一応、国が危なくなれば出張りはするらしい。王族でありながら相談役。姫でありながら、基本は相互無干渉。本当に国が危なくなったら国を夜逃げする気満々。そんな自由なポジションで千年間生きて、いまの彼女に至る。

 しかし、ここ最近は『大災厄』のせいで姫としての仕事が多かったようだ。こうして外交やら何やら頑張っているとき、船団を僕に助けられたというわけだ――


 ……うーむ。

 なにこの人生の勝利者。

 羨ましすぎて、胃から血が出そうだ。

 この娘、本当に僕と同じ世界に生きてるのか?

 

 この娘の人生こそ、僕が欲しくて欲しくて堪らなかった異世界生活だろう。

 そう本気で思うほど、彼女の人生は素晴らしかった。


「はい、終了ですね。最低限の記憶は見ましたね? そろそろ抜きますよー」


 記憶の検索の終了を彼女は察し、自ら《ディスタンスミュート》を引き抜く。


「うん、もういいよ。君が吸血種の生き残りだって、ちゃんとわかった。それで、凄い寿命が長いんだね。僕の世界の吸血鬼と同じだ」


 本当に最低限だったが、それでも疑問のほとんどが解消されたので、《ディスタンスミュート》を解除する。


「ふう。これで全部、わかってくれたっぽいすね。しかし、記憶喪失なんて大変なことになってますねー。会長」


 そして、『繋がり』のおかげか、色々と溝が埋まったのを感じる。


「もう気軽にクウネルって呼ぶよ? ……しかし、吸血鬼の割りに、すごく弱いよね。クウネルって」

「だ、だから今日まで生き残ってるんやで?」


 率直な感想を僕が言うと、クウネルは震えながら虚勢を張った。


 その異常なステータスが真実であるとわかり、もう僕は安心しきっている。

 先の記憶が確かならば、この世界に吸血鬼らしい吸血鬼はもう一人もいないだろう。


 純血の吸血種はクウネルだけで、その彼女の魔眼は封印されている。霧にはなれるけれど、その時間は数秒までで、服がもったいないだけだから滅多にしない。蝙蝠化なんて弱体化でしかなく、もちろん怪力なんてものはない。再生能力は残念過ぎる上、眷属を作る能力もない。繁殖能力もなければ、野心もない。その代わりに、よくある弱点もないとはいえ、仲間たちに『出来損ないの劣等』と蔑まれ、村八分で苛められていたのも無理がないレベルの弱さなのだ。


「えっと、その体質でほぼ不老不死って色々と困ってない……? いまの僕なら君を確実に殺せると思うけど、どうする?」

「やーめーてーーーー!! さらっとこういうこと言うから、会長には会いたくなかったんや! いま、あてはこの世界のトップブルジョアとしてニート生活できてるんだから、もう関わらんといて!」


 ティティーという前例を見たばっかりだったので、善意で介錯を申し出た。けれど、それは悲鳴と共に拒否される。


「も、もちろん嫌ならしない。そこは安心して。……しかし、これで千年前のティティーや僕を知ってたわけがわかったけど、使徒や迷宮のことを何も聞けないのは残念だね。あの時期の君は、ずっと地方で商会を育ててたみたいだし」


 誤解は解けたものの、それと同時に全くの無関係であることもわかった。

 彼女から得られる情報は、本当に平和的なものばかりだろう。


「あー、そこは申し訳ないです。使徒様とか『理を盗むもの』とかの問題は、私にはどうしようもないので徹底して避けてました。でも、他に千年前から生きてるやつらなら当時の会長のことを知ってるかもしれないですよ?」

「え、まだ他に生きてる人いるの?」

「はい。長命種族は、あてだけじゃありませんからね。会長と知り合いかどうかは知りませんが……確か世界樹のとこに『最後の純血樹人種』の『スクナ・ユグドラシル』が、連合国開拓地のほうに『最後の純血竜種』の『トゥルブ・トゥールケ』がいるはずです」


 面白い情報が手に入った。

 これだけで彼女と話し合った価値はある。


「へえ。長命仲間がいるんだ。ああ、その人たちという仲間がいるから、君は今日まで楽しく生きてこられたんだね」

「いや、あてはそこらへんと関わりあうと、一方的にいじめられるので会わないようにしてます……。あいつら、ほんと性格最悪なんで……」


 その長命種族たちと仲間であることを、本気で嫌そうにしていた。

 ティティーと違って、理解者はいなくとも幸せになれるタイプらしい。いや、もしかしたら長命種族以外の理解者がいるのかもしれない。


 こうして話が大体終わり、相互理解できたところで端で唸っていたティティーが復活する。


「――よーし。それではクウネルのやつは童たちの旅に連れていこうかの。仲間が増えたぞい。ラッキーな拾い物じゃ」

「え、え? 仲間!? なんで!?」

「年の近いやつはレアじゃからなー。絶対に逃がさぬぞおー」


 どうやら、ティティーはクウネルを同行させたいようだ。


「年が近いって、おまえな……」

「えーっと、たぶん童は1111歳くらいで――」

「クウネルは1050歳くらいか。んー、こう言うと近く聞こえるけど、五十以上も離れてたら、それは近いって普通は言わないからな」

「しかし、これ以上近いやつは本当におらんぞ……」


 珍しくティティーは真剣だった。


 確かに、同じ千年を味わったものはレアだろう。僕や他の守護者ガーディアンたちも年齢だけ見れば千を越えるかもしれないが、実際の経験がともなっていない。なので、真にティティーと同年代と言えるのは、目の前の少女だけだ。


 そして、意外にもクウネルは乗り気な様子で答える。


「ん、んー……。久しぶりに会長と旅行も悪くないかな? この一年、働きづめだったし……。また異世界の話とか聞けると面白いし、ちゃんと商会に利益出るし……。会長は美味しいもの一杯作って食べさせてくれるし……」


 過去に僕と世界を回ったことがあるようだ。その経験から、少しわくわくした様子で検討し始める。


「あ、重要なこと聞いてませんでした。何の旅なんすかこれ?」

「うむ。童が弟である『アイド』のやつが『相川陽滝』を代わりの『統べる王ロード』に立てて、やりたい放題しておるので会いに行くところじゃ。ついでに『使徒シス』とやらも悪いことしておるらしいので懲らしめる」

「あ、あー……。すっごい懐かしい名前が出てるー。……それ、例の『理を盗むもの』たちでは?」


 会ったことはなくとも、世界を揺るがした人物の名前は知っているようだ。大商会のトップとなれば情報通にならざるを得なかったのだろう。その情報に彼女は顔を青くする。

 すぐに僕はティティーの話に補足を入れる。


「ティティーでアイドを説得できたらいいとは思ってるけど、彼とも戦闘になる可能性はある。正直、危険な旅になると思う」

「同行は勘弁してください。そのレベルのガチバトルだけはやばいです。あてなんて一瞬で両手足をもがれて、戦闘終了まで面白いオブジェになっちゃうだけです」


 そして、クウネルは迷わず土下座した。

 んー、本当に迷いのない子だ。


「そなたはかなみんよりレベル高いんじゃろう? いけるいける。魔王からの命令じゃ。ついてくるがよい」


 ティティーは膝を抱えて、彼女と視線の高さを合わせ、つんつんとその頬の突きまくる。


「勘弁してください! ほんと、他なら何でもしますんで! それだけはなにとぞぉ!!」


 このままでは強引に連れて行かれると思ったのだろう。また泣きながら、ティティーの服に縋りついて首を振る。


 こうして、二人は「連れて行く」「行きたくない」を交互に主張し続けることになる。

 その言い争いが数分続いたあたりで、ティティーがクウネルの身体を抱きかかえる。


「――あ、もうかなみんの聞きたい話は終わりじゃな?」

「え、もう聞きたいことは大体終わったかな……?」

「それでは童はこやつの部屋へ行くことにするぞ! このままでは埒があかぬ! 一晩かけて説得してみせるゆえ、楽しみにしておくがよい!」


 そのまま、部屋から出ていこうとする。


「会長――! 助けてぇえええ――!!」


 クウネルの断末魔の叫びが聞こえる。だが、僕も彼女には同行して欲しいと思い、ティティーに説得を頼むことを決める。

 僕が笑顔でクウネルを見送ると、彼女は呪いの言葉を残す。


「ち、畜生ぉ――! 会長のバーカ、バーカ! 会長なんて呪われろ! いままで落としてきた女の子たちに囲まれて、滅多刺しの末に死んでしまえええーーーー!!」

「ぐっ……」


 それは余りに子供じみた呪詛だったが、なぜか僕は笑って受け流せなかった。

 流石、かつては友人だっただけはある。


 そんな彼女の的確すぎる呪詛を最後に、『コルク』到着前日の夜は過ぎていくのだった――



◆◆◆◆◆



 ――そして、次の日の朝。

 朝日の眩しい客船の甲板で、僕とクウネルは顔を合わせる。


「おはよーです、会長! あっ、肩でもお揉みしましょうか!?」


 昨夜は呪いを残して別れたものの、一晩過ぎればあっさりとしたものである。こうも後を引かない女の子は初めてだ。ただ、その表情から僕に要求したいことがあるのはわかった。

 

「僕に何か頼みごと……?」


 クウネルは本当に僕の肩を揉みながら、昨日と同じように項垂れながら告白する。


「すんません。ぶっちゃけ、魔王様をどうにかしてください……」

「ああ、そういうことか……。本当に行きたくないんだね……」


 まじで一晩かけて説得されたようだ。

 そして、ティティーでなく僕に頼み込んだほうが早いと判断したのだろう。


「へへへ、あては生きるためなら土下座でも何でもしますぜ?」


 妙に上手い肩揉みをしながら、三下じみた台詞を言う。けれど、その心配はないことを僕は伝える。


「大丈夫だよ。あいつは他人が本気で嫌がることをするようなやつじゃないから」

「……そうなんすか? あの会長が言うんなら、そうなんでしょうね。よし、本気で嫌がり続けるか。それしか生きる道なさそうだし」


 ただ、その嫌がる反応が面白いから、ティティーは限界まで絡み続けるんだろうなというのは口に出さないでおく。

 あれでティティーは不幸なやつだ。

 そして、この旅は彼女の『最期の時間』でもある。こちらとしては出会ったばかりのクウネルより、ティティーの願いを叶えてやりたくなるのは自然の流れだった。


「あ、あのー、クウネルちゃん……?」


 そのとき、クウネルが僕の肩を「へへへ」と笑いながら揉んでいるのを、他の人に見られしまう。

 例の正統派お姫様だ。その後ろには護衛のように、クロエさんもいた。


 すぐにクウネルは表情を繕って、その二人に向き直る。


「フローラさん、クロエさん。何もお気になさらず。ただ、あてがカナミ様に喜んで貰いたくてやっていることですので……。うふふ」

「え、えぇえ……?」


 本土ではやんごとなきお姫様となっているクウネルが侍女のように肩揉みをしているのだ。当然だが、困惑が返ってくる。

 クウネルは言葉に説得力を持たせるため、適当な言い訳を瞬時に作り出していく。


「昨夜、外へ涼みに出た時、たまたまカナミ様とお会いしまして、この一晩でとっても仲が良くなったんです。ですよね、カナミ様?」

「あ、ああ。そんなところかな」


 僕もそれに協力する。

 お姫様のほうは納得しそうだったが、軍属のクロエさんは違った。追求しようと一歩前へ出る。


「いや、そんな馬鹿なことが……。たった一晩で一体何が……?」

「ちょっとお話しただけです。ええ、それだけですよ。クロエさん」


 それをクウネルは、強めの口調で食い止める。


「それは……いえ、私が口を挟むことじゃありませんね」

「ええ、その通りです。流石はシッダルク家の娘。とても賢いですね」


 有無を言わさず黙らせた。そのときだけは、このお調子吸血鬼ものが王族であると信じられる威光があった。


 ただ、すぐにその威光は消えさり、また僕の肩を揉みながら「もしものときは、会長が魔王様をお願いします!」と頼み出す。

 その変わり身に正統派お姫様は苦笑いを浮かべながら、違う話を始める。


「カナミ様とクウネル様の間には、二人にしかわからないものがあるということにしておきましょう……。それより、そろそろです」


 目線を僕たちでなく海へ向けて、目的地が近づいてきたことを示した。

 話題を変えるべく、僕は目的地の状況をクロエさんに聞く。


「えっと、もう『コルク』に着く頃ですか……? しかし、いま本土は戦時中であると聞きました。大丈夫でしょうか……」

「確かに本土では戦争が起きていますが『コルク』は安全ですよ。絶対に戦火が届くことはありません。ご安心を、カナミ様、フローラ様」


 軍属であり大貴族シッダルク家の娘でもあるクロエさんは、静かに高貴溢れる物言いでお姫様の不安を取り除く。

 続いて『コルク』が安全である最大の理由を声を大にして宣言する。


「なにより! 私たちの『コルク』には総司令代理――あのスノウ・ウォーカー様がいます! 何が起きようとも、必ずスノウ様が解決してくれます!!」


 それはスノウ・ウォーカーという少女の存在。

 その懐かしい仲間の名前を聞きながら、僕たちは目にする。


 丁度、物見をしていた船員も、水平線にある大陸を見つけ「着いたぞ!」と叫んだ。

 やっと長い船旅の終わりがきたようだ。

 僕とクウネルは甲板の端まで歩いて、自らの目でその大陸を見る。


 地平線を埋め尽くす大陸。

 ――『本土』だ。

 《ディメンション》でなく肉眼で捉えられる。


 ああ、また僕はやってきたのだ。

 この戦場に――

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