234.始祖と魔王の共同作業
工房に入った僕は、まず最初に大きく口を開けて、呆然と立ち尽くす。
「うわぁ……。すごい大きくなってる……」
拡張され、あらゆる面で進化した工房に驚愕する。あれだけ狭かった作業場の通路が一度に三人は通れるようになっていて、あれだけ雑然としてた小道具が整然と片付いている。煤や埃のほうは完璧と言い難いが、以前と比べたら遥かにマシだ。広さは単純に十倍以上はあり、炉や台の数も同様に増えてる。さらに、工房の中を駆け回る鍛冶師の数も十倍以上だ。
鍛冶の熱でなく、人の熱気が凄い。
沢山の鍛冶師が声を上げて、多くの武具を生産していた。
「おっ、マスターじゃないか」
その沢山の鍛冶師たちを中央で指示していた長髪の男が、こちらに振り向く。
顔の傷を髪で隠している元探索者の鍛冶師――アリバーズ・リヴァースさんだ。
彼は僕とは反対で、特に驚いた様子もなく自分の仕事を中断して、こちらへ歩み寄ってくる。現場リーダーの指示が止まったことで、忙しなく働いていた鍛冶師たちの動きに澱みが生まれた。
「……あれ、誰だ?」
「アリバーズさんがマスターって言った?」
「でも、マスターじゃないよね?」
こちらも玄関の人たちと同じで新人さんのようだ。
僕は彼らに向かって愛想笑いを浮かべながら自己紹介するしかなかった。
「どうも。アイカワ・カナミです」
玄関の一件で、こそこそと隠しても仕方がないともう僕は悟っていた。
そして、アリバーズさんが補足するように詳しく紹介してくれる。
「この方はうちのギルドマスターだぜ。あの噂のな。すげえレアだ、レア」
一瞬の静寂のあと、どよめきが走った。
「――だが、おまえらは手を止めるな。ちゃんと自分のことに集中しろ」
浮き足立つ鍛冶場をアリバーズさんの一声が抑える。テイリさんと違って面白がって囃し立てることはなかった。すごく助かる。
「「「う、うっす」」」
言葉通り、全員が声を揃えて返事をして、仕事を再開させた。素晴らしい統率力であると感嘆せざるを得ない。
僕は拍手をしたいくらいの気持ちで、アリバーズさんに近づいていく。
「お久しぶりです。それで今日は――」
「いや、わかってるさ。マスターがここにくる用事は一つだけだ」
すぐにアリバーズさんは僕を工房の奥にある倉庫へ案内した。工房と同じく拡張された倉庫内には、多くの完成品が保管されていた。その中に、まるで飾るように特別扱いされた武具類があった。
「いつ来ても大丈夫なように用意してたぜ。もっていってくれ。さらに、俺の趣味でマスター専用のものもある。マスターが取りにくるのが遅いのが悪いんだ。全部、使って貰うぜ」
ずらりと並んだ作品の中から、まずマリアとディア専用であろう装備を眺めていく。
【白石糸の衣】
防御力3 対魔力3
【水羽衣シンクドシェル】
防御力4 対魔力8
水中での行動に+33%の補正がかかる
【レッド・スティングダガー】
攻撃力3
装備者の火魔法+0.10
装備者の火属性魔法の効果に+10%の補正
【アリバーズ・ローブ】
防御力5 対魔力2
装備者の木魔法+0.05
注文していた内に着れる服から始まり、スカートやローブが並んでいる。
そして、その隣には僕が使える手袋や靴が揃っていた。僕の髪色に合わせてくれたのか、メインの色は黒で、そこに綺麗な銀のラインが彩られている。
【クロームグローブ】
防御力1
装備者の技量+0.10
【メギストゥスブーツ】
防御力2
装備者の速さ+0.10
それを手に取りながら、僕は目を輝かせる。いつだって、新しい物を買ったり貰ったりするのはわくわくするものだ。それがゲームのような世界での装備新調ならなおさらである。
「い、いいですね、これ……! とても助かります。丁度、自分用のが欲しかったんです」
「そうか。なら遠慮なく、使ってくれ。マスターに使ってもらえることが、俺にとっての一番の報酬だからな。他にも欲しいのがあったら、持っていっていいぜ?」
アリバーズさんは太っ腹なところを見せる。その様子からギルドの景気の良さが窺える。ただ、それを倉庫の入り口からのぞいていた鍛冶師さんが咎める。どうやら、休憩中の鍛冶師さんたちが、こっそり様子を見ていたようだ。
「え、親方、無料ですか!? いつも無料は駄目だって、物に見合った値段を付けろって、口を酸っぱくして言ってますよね!?」
「それが鍛冶師としての矜持とまで言ってたのに!」
「それ、親方の傑作たちじゃないですか!」
とても真っ当な教育をされた新人さんたちの意見が飛ぶ。
「いいんだよ。あのマスターだぞ? マスターだけは特別なんだ。というかマスターに武器を捧げるため、俺は鍛冶師やってんだ。妙なこと言ってると、クビにするぞ?」
しかし、それをエピックシーカー初期面子特有の滅茶苦茶な理論で返される。冗談交じりの新人さんたちの言葉に対して、アリバーズさんは本気の顔だった。本気で僕のために鍛冶師やってることがわかり、新人さんたちは絶句する。
これからエピックシーカーに夢と希望を持って入る新人さんたちは、こういう人たちを上層部にもつことになるのだから、とても可哀想な話である。ちなみに最上層部は僕であるが、助けてあげることはできない。
その少し固まった空気を和ませるため、僕はお礼とお金の話を持ちかける。
「このギルドであなたと知り合えて、本当によかったです。これで心配していた装備の大部分がクリアできました。これらはアリバーズさんの言い値で買い取ります」
「こっちの台詞だ。俺はあんたに会えて、運命に感謝してる。……だから、本当に金はいらないんだが。そもそも使った上質の魔石も、ほとんどがマスターから貰ったものだしな」
「けど、鍛冶費がありますよ」
このまま無料で貰っては角が立つ。テイリさんの換金が終われば、こちらの財布は一杯になるのだから無料にこだわる必要はない。アリバーズさんと交渉して、なんとか格安で買取という話に落ち着いた。
こうして、僕は短い時間で最大の成果を手に入れた。
そして、ほくほく顔で工房をあとにしようとする……が、それを制止させる震え声が僕の足を止めた。
「わ、童の分はないのかあ……? かなみんよーい」
ひきずって持ってきたティティーが工房の端っこで起き上がろうとしていた。
できれば、エピックシーカーを出るまで気絶していて欲しかったが、流石は
「いや、ないって。これを頼んだとき、ティティーいなかったんだから」
なんとか穏便に説得して、ここから出ようとする。
しかし、ティティーは唇をとがらせながら、スライムのようにぬるりぬるりとこちらに忍び寄ってくる。その嫌な動きに、嫌な予感がする。
「ずるいのう。かなみんだけ、ずっこいのう。童もおニューの装備が欲しいのじゃ」
「おまえは風で剣を作れるんだからいらないだろ。装備不要だろうが」
「それでも欲しいのじゃ。今日の午前中は装備に集中すると言っておったろー。これで終わりならば、まだ時間は余るじゃろー。なら童の分ー、童の分ー。童のオリジナル装備ー。童もその腰の『ローウェン』みたいなのが欲しいのじゃー」
「子供みたいな駄々のこねかたするな! 裾引っ張るな! 我慢しろ!」
「ふふふっ、いまの童は泣いて駄々をこねる準備があるぞ! いますぐ地べたでじたばたするまであるぞ! そして、存分に泣いたあと、かなみんが折れるまでチラチラし続ける所存なのじゃ!」
「こいつ――!!」
嫌な予感が的中した。
こいつはやる。恥や外聞など、あの地下に置いてきたティティーはやるといったらやる。
それを放置すれば、ただでさえボロボロな僕の外聞が致命傷を得てしまうだろう。何より、説得する時間が無駄でしょうがない。
仕方なく僕はティティーの望みを叶えることにする。
「あー、そのー。ちょっと工房を借りてもいいですか……?」
「ああ、それはもちろん構わないが……。なんなら俺がやろうか?」
「いえ、こいつのは適当でいいんで」
「ふむ。フォローだけはしよう。せっかくのマスターと一緒の作業だからな」
他にも休憩中の新人さんたちも名乗りを上げてくれたので、手早くことは済みそうだった。
「ふははっ、やったのじゃー! ではかなみん、かっこいい剣を頼むぞ!」
「はいはい」
「えーとな、そのなっ、こんな感じじゃ! こんな両手剣がよい!」
「はいはいはい」
ティティーは近くにあった設計図を勝手に使い、ぱぱっと器用に完成図を描いて見せた。とはいえ、お世辞にも絵心があるとは言えなかったので、本当に大体のところしかわからない。
その完成図を頭に収め、すぐに僕はそれを完成させるための最適手順を組み立てていく。幸い、地下生活でレイナンドさんの手伝いをしたおかげで、スキル『鍛冶』の知識と経験は両方急増している。
「アリバーズさん。炉を最大火力で使わせてもらいます。少しでも早く終わらせたいので」
「最大で? 危なくないか? 駆け出しにはきついぞ」
「いえ、あれから僕も練習したのでいけると思います。それに、そういう細かな加減は元々得意なんです」
「……前は一発でマジックアイテムを作って見せたマスターだ。信じよう」
失敗してもティティーのだからいいなんて思いながら、全力で取り掛かり始める。
もう素性はばれているので、堂々と『持ち物』から迷宮深部で手に入れた魔石を取り出していく。それをずらりと机の上に並べると、アリバーズさんを始めたとした鍛冶師たちは息を呑んだ。
「ティティー。おまえのなんだからおまえも手伝え。僕の指示通りにやれよ」
「ほいっ。いえっさー」
色々と諦めた僕はティティーの力も隠さないことにする。
「まず、その魔石を粉々にしろ。砂みたいにな」
「ほいほい。――えいっ」
疑問もなく、ティティーは僕を信じて行動に移っていく。
道具も使わずティティーは素手で、槌があってもヒビを入れるのが難しそうな上位魔石を磨り潰す。それを見た鍛冶師たちは、もう一度息を呑んだ。今度は畏怖の感情でだ。
「次、これも。あとこれとこれは、八分割だ」
「ほいほいほい」
阿吽の呼吸で本来ならば何時間もかかるであろう作業を終わらせていく。
「ティティー、風で冷却ってできるか?」
「んー、冷却とは違うけど【自由の風】で熱だけを
「たぶん、それでいけるか。温度調節は僕が指示するから、風を頼む。何パーセントくらいの力でやればいいかを細かく注文するから、おまえは一切のミスなくやれ」
「ほいほいほいほい」
すぐに魔力で動く炉に、僕の全力の魔力を注ぎ込む。
当然だが最大火力まで一瞬だ。もう周囲の目は気にはしない。
その炉に、まず粉々にした魔石を入れて、溶解と不純物除去を行う。装飾や補強に使う溶鋼を強引に完成させて、一時別の場所に移し、次はメインとなるレア魔石を焼いては打ち焼いては打ち――鍛えていく。
「ほら、次はこれを冷やせ」
「童が剣を成す為っ、ゆけい! 【自由の風】よ! ――《ワインド》!」
「いい感じだ。ただ、あと四パーセントくらい抑えろ。わかるか? 百分の四くらいってことだ」
「パーセントで伝わるから大丈夫じゃよー」
水で冷やす作業を『風の理を盗むもの』の力で省く。正直、ティティーの風のほうが完成度の高い冷却ができそうである。
僕の《ディメンション》が鉄の全箇所の熱をコンマゼロ以下の単位で把握し、それをティティーの正確無比な風が冷却していく。
僕とティティーの二人にしかできない冷却方法だ。初の試みだったが、一度は『繋がり』で心を通わせた間柄のおかげか、呼吸がずれることはなかった。
鍛えては冷やし、鍛えては冷やしていく。
思った以上に時間短縮ができそうなので、さらに手を加えていく。人離れした筋力で槌を振るっては、さらなるレア魔石を加え、伸ばしては畳みこんでを繰り返し、強度をあげていく。ティティーが振るうことになる以上、とにかく頑丈さが優先だ。
速さと精密さにおいて僕以上の鍛冶師はいない。そして、力技においてティティー以上の助手はいない。
とんとん拍子で鍛冶は進んでいく。その人外の体力に、手伝ってくれている新人さんたちの息が先にあがっていくほどだった。
そして、全力の鍛冶を行うこと数時間――彫りと魔術式書き込みの段階まで至る。
専用の道具を取り出そうとして、僕は手を止める。
『ローウェン』でやるか……と思って腰から剣を抜く。というか、頑丈になりすぎた鉄を削るには『アレイス家の宝剣ローウェン』レベルのものが必要なのだ。
少し魔術式書き込みにはでかい刃物だが、いまの僕ならできるだろう。
自信がある。それだけのスキルとステータスに至っている。
ためしにかりかりと軽く削ったところ、『アレイス家の宝剣ローウェン』に刃こぼれは全くなかった。もはや別次元に至っている剣であることを再確認しつつ、テーブルの上に置いた新しい剣に『アレイス家の宝剣ローウェン』で攻撃を開始する。
勢いよく振るわなければ、この新しい剣を深く綺麗に削ることができなかったので、どこかの漫画のワンシーンみたいに、剣先で文字を書いていくことになる。
その大道芸にティティーが喜び、鍛冶師たちがドン引きする。
最後に、研ぎのほうもローウェンでささっとこなし、締めの部分だけを専用の研ぎ石を使ってフィニッシュだ。どうせ、切れ味なんかなくともティティーが振るえば、攻撃力は十分あるのだからこれでいい。
そして、ティティーのデザイン注文どおりの豪華な
あとは
研いでさえいなければ、ティティーの頑丈な手のひらで剣の柄は握れる。ティティーの下手くそな絵だと、布でぐるぐる巻きになってるのでこれでいいはずだ。
――よし!
これで、とりあえず素材はいいだけの剣らしき何かは完成だ!
重い。硬い。壊れない――の三拍子揃った魔剣。
ティティーが持つに相応しい手抜き剣型鈍器!!
「ふうっ。これで工程完了だな」
「おー、完成じゃー! すっごい豪華じゃー! きらきらしておるのー!」
完成を宣言し、待機してたティティーがぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ。
「そりゃ、おまえが迷宮で手に入れた魔石をふんだんに使ったからな。しかし、思ったよりいいのができたなあ」
「ふははっ、童が手伝ってあげたおかげなのじゃー!」
「ああ、それは間違いない。ありがとうな、ティティー」
手伝いの礼を言いつつ、完成品を『注視』する。
【始祖と魔王の魔剣】
攻撃力7
装備者のレベルと同値の耐久度となる
始祖と魔王の加護により、あらゆる物質に干渉する
装備者の全属性魔法+0.10
僕の『注視』能力はこれを【始祖と魔王の魔剣】と名づけた。
妙な名前だが、その性能は凄まじい。つけた覚えのない妙な加護まである。
「名前っ! 名前は童がつけてよいか!?」
「……おまえの剣だから、仕方ないか」
正直、一番楽しみにしていた作業だが、きらきらと目を輝かせるティティーに負けてしまう。ここで命名作業を奪えば、それは子供から玩具を奪うようなものだ。
「やったのじゃ! んー、それじゃーのー、この童の剣はのー……」
うんうんとティティーは唸り、その途中で使用した魔石の残骸たちを見つける。
使った魔石たちの名は『アレクロスライト』『ワインドフローライト』『ヴァルクントエメラルド』などなど……――
「ならば、この剣の名は『フローライト』――いや、『ブレイブフローライト』! 湧き出す勇気の光っ、『聖剣ブレイブフローライト』じゃ!!」
ティティーは「ばああん」と効果音がついてそうなポーズで命名を終えた。
【始祖と魔王の魔剣ブレイブフローライト】
攻撃力7
装備者のレベルと同値を耐久度に加える
始祖と魔王の加護により、あらゆる物質に干渉する
装備者の全属性魔法+0.10
ただ、僕の『注視』は聖剣でなく、魔剣扱いだ。そりゃ、魔王が製作協力すればそう判断せざるを得ないだろう。湧き出すのは勇気の光でなく、始祖と魔王の呪い的な何かだ。
こうして、『始祖と魔王の魔剣ブレイブフローライト』は完成した。ただ、魔剣であることをティティーに伝えるほど僕は鬼じゃないので、素直に祝福する。
「よかったな。おまえのオリジナル武器だ。大事に使えよ」
「わーい! うんっ、大事にするよー!」
ティティーは完成した剣に頬ずりする。これで満足だろう。
一息ついて、次の予定を頭の中から思い起こそうとする。せっかく短縮された時間が、ティティーのせいで逆に超過しかけている。
次は食糧を買いに行くか、それとも魔石を買いに行こうかと悩んでいると、アリバーズさんが声をかけてくる。
新人さんたち共々と固まっていたのだが、ようやく我に返ってくれたようだ。
「――ふ、ふふっ。やはり、凄いなうちのマスターは。前も思ったが、片手間で俺たちを超えていく。なにより、動きが速い。速過ぎる。あの決勝の剣戟をこなしたマスターだから当然なんだが、それ以上に……――マスター、先ほど鍛冶を練習したと言っていたが、一体どこで鍛冶を?」
アリバーズさんは僕の鍛冶の異常部分に気づいたようだ。その異常部分を僕もよく理解しているので説明する。
「流石、アリバーズさんですね。千年前の鍛冶技術が残っているところで、少し下働きさせてもらいました。そのおかげだと思います」
「ところどころ、俺でも知らない
「すみません。その技術を持っていた方は、つい最近亡くなりましたので……。ご紹介はできません……」
「そうか……。それは申し訳ないことを聞いた」
アリバーズさんは頭を下げながら、悔しそうな表情で唸る。
ただ、最初は「くっ」とか唸ってたけど、途中からは「いや、英雄であるマスターだけの
その様子を見ていたティティーは僕に問う。
「もしかしてヴォルスの爺さん、実は凄かったのじゃ?」
「ああ、そうだ。尊敬しろよ」
「うむ! しておる!!」
僕の即答に、ティティーも即答で応える。
自分専用の剣が手に入り、上機嫌のようだ。そして、その上機嫌のまま、彼女の追加注文が入る。
「あとは鎧じゃな! そこに飾ってあるやつが欲しいのじゃ!」
そこにはマリアもディアも使えないような女性用の軽鎧が飾ってあった。
鎧というよりは複数のプレートの集合体のような作品だ。どちらかと言えば防具一式と表現したほうがいいかもしれない。
「鎧は僕が作らなくてもいいのか?」
「剣は振るうときに折れると困るが、鎧は童が避ければ大丈夫じゃからな。――それにこの鎧はとても童の趣味と合う!」
どうやら、一目惚れのようだ。
その熱いコールに作者であろうアリバーズさんが反応する。
「むっ、なかなかいいセンスしてる。あれは俺の渾身の英雄的デザインだ」
「ふふふっ、童は勇者志望なのじゃ! ゆえに、こういう装備が欲しいと思っておったところなのじゃー!」
「勇者志望? ふふっ、道理で魂のあるデザインを描くわけだ。そして、実力のほうもマスタークラス。面白いっ。気に入った!」
なんか一瞬で意気投合してる二人だった。
「えっと、なら、あの鎧を買わせて貰います。代金のほうは――」
嫌な化学反応が起きる前に、鎧を買い取ろうとする。
そのとき、工房の入り口からテイリさんとヴォルザークさんが現れた。
「あっ、まだここにいたのね! きっちりお金の引き出し終わらせてきたわよー!」
ヴォルザークさんは大量の金貨袋と書類を抱えさせられていた。どうやら、お金のほうはもう悩む必要はなさそうだ。
「――問題なく払えそうですので、これも言い値でどうぞ」
「いや、マスターにはいいものを見せて貰ったからね。ちゃんとこちらも割引しよう。なにより俺は、勇者ティティーを気に入った」
「アリバーズ! ありがとうなのじゃ!」
こうして、ティティーは『始祖と魔王の魔剣ブレイブフローライト』と『飛翔翠石の軽鎧ルイフィンリィト』を手に入れる。
ただ、一つだけ突っ込みを入れるとすれば、協力してくれたアリバーズさんには申し訳ないのだが、その剣よりティティーの拳のほうが破壊力があって、その鎧よりティティーの肌のほうが頑丈ということだ。
それでも、ティティーは子供のように喜んでいた。
その表情を見れただけでお金を払う価値があると思えるほどのいい笑顔だったので、僕に後悔はなかった。
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