141.鍛冶師としての始まり


 換金の契約が決まり、書類整理からも解放された僕はエピックシーカー本拠の中を歩いていた。

 せっかく帰ってきたのだから、ここでしかできないことをやっておこうと思う。


 目下の目標は強くなること。

 強くなれば迷宮探索が楽になり、多くの危険に対応できるようになる。いずれ訪れるであろうパリンクロンとの戦いでも必要なことだ。


 もっと強くなるために、ゲーム的な思考を張り巡らせる。

 そして、僕は武具を集めるという手段を選択した。いわゆる装備集めだ。


 王道にて基本だ。これがゲームならば、装備を整えなければクリアできないなんてことはよくあることだ。

 今までは金欠だったり、伝手がなかったり、時間がなかったりしていたため、ろくなものを装備していなかった。あと、回避重視スタイルである僕は、粗悪なものを身につけるくらいなら何もないほうがいいというのもあった。


 しかし、ローウェンの鉱石によって大金が手に入る当てができた。船旅で時間も余っている。装備が必要であろう仲間がたくさんいる。

 今こそ、後回しにしてきた装備に手をつけるべきときのはずだ。


 エピックシーカーの工房へと歩きながら、僕は鼻息を荒くする。

 心のゆとりが増えたことで、ゲーム好きの自分が出てきているのがわかる。いま僕は装備集めという行為を楽しんでいる。


 意気揚々と工房へ訪れ、ドアを開く。

 以前と変わらず、散らかりに散らかった空間だった。


 その奥で、長髪の男が金槌を振るっていた。アリバーズさんだ。

 ただ、なぜかその隣の机にお尻を乗せている小柄な女の子もいた。

 小柄な女の子――セリちゃんは来訪者に気づき、僕の顔を見て大声をあげる。


「マ、マスターァア!? マスターじゃないですか! やっぱり、『エピックシーカー』に戻ってくるんですか!? くるんですよね!?」

「いや、『エピックシーカー』には戻らないよ。ただ、時々は様子を見に来ようとは思ってるんだ。今日はこっそり来てるから静かにね……」

「はい! 静かにします!!」


 机から降りて、びしっと直立する。

 僕はセリちゃんを放置して、アリバーズさんへ挨拶する。


「ははっ、マスターじゃないか。これはまたお早いお帰りで」

「またよろしくお願いしますね、アリバーズさん」


 アリバーズさんは大して驚いた様子もなく歓待してくれる。

 元々、職人気質の彼は特殊な感性を持っている。このくらいの唐突さでは驚いてくれないようだ。


「今日は装備を新調したくてここへやってきました。仲間たちのも含むので、かなりの数になると思います」


 工房に飾ってある鎧などへ目を通しながら、僕は話を切り出す。


「なるほど。武具の調達を真剣に考え出したのか。いいことだ、マスター。俺はその薄汚い服で戦うマスターを見て、いつも思っていたんだ。俺ならば、もっと素晴らしい装備を用意してあげられるのに、ってね」

「う、薄汚いですか……?」

「少なくとも一つの組織の長がしていい格好じゃないよ。外套はボロボロ、靴なんて原型を留めてないじゃないか」

「使えればいいんです。あと、それなりに愛着があるものなんですよこれ」

「ふふっ、そういうところがマスターの美点でもあるけどね。……しかし、そうも言ってられなくなったわけだね?」

「ええ、迷宮に潜りなおしたんですが、少し力不足を感じたんです。そこで、まずは基本である装備を見直そうと来ました」

「よろしい。すぐに必要なら、飾ってあるものを持っていっても構わないよ。マスターに使われるのなら、どの武具もうれしいだろう。まあ、代金は頂くけどね」

「ありがとうございます」


 金槌を振って仕事を再開するアリバーズさんの横で、僕は工房内の作品たちへ目を通す。歩き回り、奥にある倉庫の装備全ても『注視』していく。


 しかし、僕の目に適う装備はなかなか見つからない。

 欲を言えば、『舞闘大会』のときにペルシオナさんが着ていた黒鎧ランクのものが欲しい。


 なにより、サイズの合うものが少ない。まだ僕はマシだが、ディア・マリア・リーパー用の子供サイズなんて極僅かだ。


「よくよく考えれば、僕の仲間って半分は子供サイズだ……」

「そういえば、『ヴアルフウラ』で君を応援していた子の中には、セリくらいの子がいたね」

「はい。できれば、セリちゃんくらいのサイズの装備が欲しいんです」


 今日の目的は僕自身の強化だ。しかし、優先すべきは後衛であるディアやマリアの装備であることを、僕は冷静に理解している。

 そして、ちらっとセリちゃんへ目を向けると、興奮した彼女は上着を脱ごうとしていた。


「マスター、この服が必要なんですか!? もちろん、差し上げますよ! 脱ぎましょうか!?」

「まて! 確かに今君が着ているものは欲しいけど、脱がないでいい! だから脱ぐな!」


 『注視』してみると、セリちゃんの服はなかなかの一品だった。



【白石糸の衣】

 防御力3 対魔力3



「欲しいのでしたら、是非! 私の脱ぎたての服をどうぞ! どうぞ、マスター!!」

「別に君の脱ぎたてが欲しいわけじゃない! いいから、脱ぐな! 止まって! もう一度静かに!」


 しばらく会っていなかったので油断していた。

 彼女は『エピックシーカー』でも上位の話の通じない子だ。これでトップじゃなくて、上位なのだから『エピックシーカー』は恐ろしいところだ。


「は、はいっ。わかりました……。残念ですが、今回は諦めます……」


 制止を受け、叱られた子犬のように静かになるセリちゃん。

 冷や汗を流しながら、アリバーズさんと話を再開する。


「仲間のサイズはわかっているので、今すぐ注文してもいいですか? 下から上まで、それなりに防御力があるものをお願いします」

「構わないよ。サイズがわかっているのなら、いくらでも作れる」


 ちなみに彼女たちのスリーサイズは《ディメンション》で把握してしまっている。

 そのつもりはなかったのだが、付き合いが長くなると自然とわかってしまう。過剰反応しそうなセラさんあたりには絶対秘密の話だ。


「それで、これが新しい層での魔石です。できれば、この魔石を使ってお願いします」

「むむ……。まあた、レアな魔石を持ってきたね。本当に俺がやっていいのかい?」

「僕にはアリバーズさんしか鍛冶師の知り合いがいませんので……」

「しかし、ここから先、マスターがもっと希少な魔石を持ってきたとしても、俺の腕では素材を活かしきれなくなるときが必ず来るぜ? それなりに腕は立つつもりだが、所詮は一ギルドの一鍛冶師だ。もっと、大きなところで有名な鍛冶師に頼んだほうがいいと思うが……」

「けど、連合国では、ほぼお尋ね者状態ですから僕……。目立ったところへ行って、ウォーカー家とかに見つかったら面倒ですし」

「ふーむ、ままならないものだな。行きたくても行けないのか……」


 そう。

 行きたくても行けない……。

 

 その言葉を反芻しながら、自分のステータスを見て悩んでいると、名案が浮かんでくる。

 昨日、戦闘の専門家プロフェッショナルであるラスティアラとの訓練でスキル『魔法戦闘』を得たことを思い出す。つまり、それと同じことを繰り返せばいい。


 別に行く必要はない。

 今から・・・ここから・・・・、鍛冶の専門家プロフェッショナルである人たちと技を競い合い、スキル『鍛冶』を得ればいい。


 『編み物』『詐術』を手に入れ、かつてのローウェンの助言が真実だとわかった以上、試す価値はある。


「……アリバーズさん、何か手伝えることはありますか?」

「て、手伝うって、マスター素人だろう? 単純な力仕事くらいなら任せられるが……」


 アリバーズさんは顔を渋く歪める。

 性急過ぎたようだ。僕自身は『並列思考』でスキル修得の目処は立っているが、そんなことはアリバーズさんにわからない。


 実践訓練するためには、まずは最低限の技術を得る必要がある。


「――《ディメンション・多重展開マルチプル》」


 ラウラヴィア内の全工房の位置も、どこに優秀な鍛冶師がいるのかもわかっている。『エピックシーカー』のマスターとしてラウラヴィアを守護してきた僕にとって、この国は庭のようなものだ。


 心の中で「お邪魔します」と言って、鍛冶をしている人たち全員の動きを追いかける。そして、その全動作を把握し、記憶していく。

 やることは剣筋を追いかけるのと同じことだ。ローウェンと比べれば、随分と遅いから楽なほうだと思う。


 並列して工房内を歩き、目当てのものを取り出す。


「これが資料ですね……。読んでもいいですか?」

「あ、ああ、構わないぜ」


 元魔法使いだったアリバーズさんは、僕が異常な魔力を放っていることに気づく。

 動揺しながらも頷いてくれた。


 僕は鍛冶に関する書物を全て取り出し、工房の隅に重ねていく。

 その中の数冊を手持ちぶさたのセリちゃんに渡してお願いする。


「セリちゃん、本をめくってくれないかな」

「え、めくる……?」

「魔法で僕も一緒に読むから。駄目かな?」

「……? しょ、承知しました! めくりますね! 頑張ります!」


 意味はよくわかっていないようだが、セリちゃんは気合を入れて本を手に取る。ぺらぺらとかなり速くめくっていくが、今の僕なら大丈夫だ。


 三回目の守護者ガーディアン戦を超えて、レベルとステータスが上がり、僕の処理能力は更に上昇している。まるで自分が何人もいるかのように、複数の書物を読んでいく。


 僕も両手で本をめくっていく。次々と鍛冶の知識を詰め込みながら、平行してラウラヴィア中の鍛冶師の技術も盗み見る。


 莫大な情報の処理によって、身体から高熱を発する。

 剣一つ作るのに凄い工程の数が存在することに驚く。

 鋳造と鍛造の違いもわかっていなかった僕にとっては、全てが未知の世界だ。聞いた事のない単語の羅列に頭がくらくらする。そして、鍛冶師の独特な動きは、剣術を真似するのとは別物だ。軽い気持ちで始めたスキル修得だが、一切の手抜きはできない。


 《ディメンション》と『並列思考』を全開にしているため、MPと体力が恐ろしい勢いで削れていく。

 けれど、そのおかげで少しずつ理解が進んでいった。

 『鍛冶』という生業の根本、考え方。工房内の器具道具の使い方、炉の扱い方。槌の打ち方、火の育て方。工程と技、その全てを――



【ステータス】

 先天スキル:剣術4.89 氷結魔法2.58+1.10

 後天スキル:体術1.56 次元魔法5.25+0.10 感応3.56 並列思考1.47

       編み物1.07 詐術1.34 魔法戦闘0.72 鍛冶・・0.69

 ???:???

 ???:???



 ――数時間ほど過ぎたとき、僕はふらついていた。

 しかし、自分のステータスを確認したとき、スキル『鍛冶』が確かに浮かんでいたのを見つける。


 僕は口もとを歪ませながら、アリバーズさんにお願いする。


「……ふざけているのはわかっています。アリバーズさん、少し手伝わせてください」

「『舞闘大会』決勝戦と同じくらいの魔力を放っておいて、その台詞を言われると断れねえな。というか、マスター命令だから、元から断る気はないぜ?」

「助かります……。あ、セリちゃん、ページめくるのは続けてて。まだ読んでるから」


 おろおろとしているセリちゃんにページめくりを続行させる。

 そして、長年使ってきた工房を歩くかのように、鍛冶の道具を手にとっていき、アリバーズさんの仕事を手伝い始める。


 もちろん、すぐ上手くはいかない。見るのとやるのでは、全く別の話だ。別次元と言ってもいい。

 だが、修得できる経験量も別次元だ。すぐに誤差を調整していく。幸い、次元魔法《ディメンション》はミリ単位以下の動きを調整することに向いている。


 アリバーズさんの目線と筋肉の使い方を隣で感じ取り、彼の望むものを予測する。得た知識を全て動員させ、最高効率の動きを身体に指示する。平行して知識の吸収も行っていく。書物だけでなく、窯の温度や、鉄と鉄が打ち合わされるタイミングをも覚えていく。そして、自分の肌で熱を感じ、自分の腕で鉄を打つ――ラウラヴィアにいる熟練の鍛冶師と全く同じ動きで。


 小一時間ほど手伝ったところで、アリバーズさんの仕事が一段落着き、休憩に入る。


「……なるほど、少しわかってきました。奥が深いですね、鍛冶仕事って」


 正直な感想を呟く。


「うちのマスターが、ものの数十分で鍛冶師中堅クラスの手つきになってるんだが……」

「ええ、手の器用さには自信があるので」


 おののくアリバーズさんの横で、僕はいつもの言い訳を嘯く。


「流石、マスターです! 私と違って、すごい器用なんですね!」


 セリちゃんは馬鹿正直に信じてくれた。そろそろ、この子の将来が心配になってきた。


「いやあ、器用とかいうレベルじゃないよこれ。もっと恐ろしい何かだよ。いや、まあマスターだから仕方がないか……。テイリのやつも似たようなこと言ってたしな……。ふふっ、ふふふ……」


 呆れながらも、アリバーズさんは頬を上気させる。

 やはり、彼らの英雄好きは異常だ。


 今まで積み重ねた技術を堂々と盗まれながらも、アリバーズさんは僕の姿を輝いた目で見る。我らがマスターは『英雄』なのだから、このくらいは当然だと思っているように見える。


 アリバーズさんの鍛冶師としてのプライドを傷つけないで済んだことを確認し、僕は厚かましくもお願いを重ねる。


「……ちょっと何か簡単なものを作ってみたくなりますね」

「ああ、もうマスターなら作れるんだろうな。――恐ろしいことにな。別に遠慮せず、いまからここで何か作ってもいいぜ?」


 アリバーズさんは面白がっている顔で「恐ろしいことに」と言う。


「やはり、手軽に即戦力となるのは小物のマジックアイテムですか?」

「いや、マジックアイテムも手間はかかるぜ。魔法術式を刻むのに、すごい時間がかかる……――はずだけど、マスターなら簡単なのかねぇ?」

「細かい作業ほど、僕は得意です」


 ステータスが技術と速さに特化しているおかげだ。それに、異世界へ来る前からそういうのは得意だったというのもあるかもしれない。


「俺はマジックアイテムが専門だから、それが一番教えやすいかもな……。よし、やってみるか? 形状はどうする? 腕輪とかアクセサリ系なら何でもいいぜ。ネックレスや髪留めとかもオッケーだ」

「手軽に早く済むものからいきましょう。一番簡単なものは何ですか?」

「うーん、指輪が一番小さいから早いかな。ものが小さいから、細かい作業が多くて大変なんだが、マスターなら大丈夫そうだ」


 指輪。

 その言葉を聞いて、僕はハインさんを思い出す。弟のライナー君も好んで使っていた。


「指輪は便利そうですね。やらせてください」

「ああ、いいよ。やってみよう。詰め込むのはマスターの氷結魔法かい?」

「いえ、違う魔法を詰め込もうと思っています」


 こうして、僕の初めての魔法道具生成が始まる。

 まずは核となる魔石を作らないといけない。


「それで、マスターに魔術式の知識はあるかい?」


 魔術式。俗に言われる『術式』。

 それは人が使う魔法の仕組みを、文字によって再現したものだ。それに魔力を通すことで、スムーズな魔法発動が可能となる。無論、ただ魔力を通せばいいものではない。使用者の魔術式への理解や相性も重要だ。

 この魔術式を刻み込んだ魔石の最高級品が、かつてマリアの飲んだ《フライファイア》や《インパルス》の魔石にあたる。


 魔法と魔術式は異なる分野だ。

 魔法が得意だからといって、魔術式が得意になるわけではない。運動が得意だからといって、運動科学や保健体育に詳しくなるわけではないのと同じだ。

 だが、運が良いことに僕は根っからの研究者気質だ。


「ええ、それなりにあります」


 魔法を理解することにおいて、次元魔法使いの右に出るものはいない。

 例えば、僕が編み出した魔法《次元の冬ディ・ウィンター》などは、一から考案したようなものだ。その魔法構築の全て、魔術式の元を余すことなく僕は理解している。


 それを文字に変換するのは手間だが、いまの僕は《ディメンション》のおかげで辞書が常に頭の中にある状態だ。時間をかければ魔術式にして変換して、魔石に刻むことは可能だ。


 《ディメンション》の指向性を変えて、鍛冶の知識から魔術式の知識への収集に移る。


「それに協力者もいますから」

「協力者……?」


 そう言って、『アレイス家の宝剣ローウェン』を取り出す。

 こと鉱石を弄ることに関して、『地の理を盗むもの』の右に出るものはない。そして、『火の理を盗むもの』と戦った経験が火の扱いを達者にさせる。

 火と鉄。鍛冶において大切な二つの要素に対し、僕は自信があった。


「その剣は、あの水晶の剣士ローウェンの残したやつか――?」

「ええ」

「わかった。それじゃあ、魔石の中に術式を刻み込む準備をしよう」


 作業机に魔石と工具が広げられる。


 僕は用意された魔石を削り、そこへ別の魔石を溶かして流し込み始める。 

 凄まじい集中力が必要とされる作業だ。《ディメンション》なしで行うと考えると、それだけで鳥肌が立つ。巷で売られている魔術式の入った魔石の高値の意味がわかった。

 熟練の職人が長い時間と気力を削った末、あの魔石は店に並んでいるのだ。


 一ミリ以下のずれも許されない作業を、一度も手を止めることなく続ける。

 大粒の汗を垂らし、《ディメンション》を酷使し、なんとか術式を刻み込んでいく。


「――良い感じだね。リングはこっちで用意しよう。魔力で引けるトリガーの術式を組み込んでいるから、これですぐに完成だ」

「ありがとうございます」


 魔術式は地属性の魔法を選択した。

 そして、《クォーツ》で鉱石に干渉しながら、《ディメンション》で一切のミスを許さず、魔石とリングを組み合わせ、渾身の魔法道具を完成させる。



【指輪『晶盾』】

 『クォーツシールド』の力を宿した指輪



「で、できた……!」

「素晴らしいよ、マスター。たった数時間で、国でもトップクラスの魔法道具を作るとは……、恐れ入る……! もう笑うしかないね……!」


 完成した指輪を見てアリバーズさんも興奮する。


「いえ、アリバーズさんが手伝ってくれたおかげです」

「なにより、見た目がいい! 水晶の無垢なるイメージをそのままだというのに、絢爛な装飾が施されている……!」

「豪華にしないと、アリバーズさんが悲しそうな顔するから嫌々ですよ……」


 本当は過剰な装飾なんてしたくなかった。しかし、横でじっと見つめるアリバーズさんのせいで、余計な手間がかかってしまった。

 指輪のデザインのセンスなんてないので、記憶にある両親のエンゲージリングをそのまま真似てみただけだ。だが、そのデザインがアリバーズさんにはストライクだったようだ。


「なんと表現すればいいのか……。清純でありながら、人の目を惹きつける指輪……、まさしく『英雄』の作りし伝説の指輪だ……」

「そりゃよかったです」


 二人で完成品の出来を確認していると、背後から声がかかる。


「遅いー!」


 リーパーだった。

 《コネクション》を通って、彼女もこちらへ来たようだ。

 よく考えると、もう朝から何時間も経っている。僕を心配して来てくれたのかもしれない。


「お兄ちゃんが帰ってこないと、お昼ごはん食べられないんだよー! だから、早く帰ってきてー!」


 お腹に手を当てて、リーパーは怒る。

 どうやら、心配しているのは自分の空腹具合のようだ。

 僕とアリバーズさんは顔を見合わせ、頷き合う。


「今日はここまでですね。今日はありがとうございました」

「結局、指輪一つしか作れなかったな。何か欲しいものがあれば、また来るといい。今日は工房内の武具を適当に持って行ってくれ。注文したやつは、次来るまでにやっておくよ」


 完成した指輪を受け取り、使えそうなものを適当に貰っていく。もちろん、代金は払っている。

 そして、セリちゃんにもお礼を言ったあと、工房から出て行く。最後までセリちゃんは元気だった。

 だが、できれば次訪れるときはいないほうが助かると思いながら、《コネクション》の執務室へ向かっていった。

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