138.33、34層


「ラスティアラさん、レベルアップお願いしますね」

「あ、はい」


 言われるがままにラスティアラはマリアとディアのレベルアップを行う。

 格上のモンスターたちを殲滅したため、経験値は十分すぎるほど溜まっていた。



【ステータス】

 名前:ディアブロ・シス HP220/244 MP629/1030 クラス:剣士

 レベル16

 筋力8.81 体力7.19 技量4.01 速さ4.21 賢さ14.11 魔力58.16 素質5.00 

 状態:加護1.00

 先天スキル:神聖魔法3.81 神の加護3.08 断罪2.00 集中収束2.06

       属性魔法2.10 過捕護2.20 延命2.24 狙い目2.03  

 後天スキル:剣術0.11

 ???:???

【ステータス】

 名前:マリア HP159/233  MP601/1005 クラス:

 レベル15

 筋力8.87 体力8.73 技量7.40 速さ4.81 賢さ9.89 魔力53.22 素質4.13

 状態:

 先天スキル: 

 後天スキル:狩り0.69 料理1.08 火炎魔法3.54



 恐ろしいのは適正レベルの半分以下で、うちの魔法使いたちは敵を蹂躙していたということだ。

 

「これでさらに魔力が上がりました。もっと炎の数を増やせそうです」

「こっちも、もっともっと出力を上げれそうだ」


 更に強くなった二人は、モンスターが可哀想になるような恐ろしいことを言う。

 試行錯誤を繰り返した末に完成してしまった共鳴魔法は、二人の力を磐石のものへと変えてしまった。


「ディア、この共鳴魔法の名前はどうしますか?」

「名前? そうだな、あったほうが便利だな。んー、カナミに決めてもらおうか? なんか、色んな魔法作ってるみたいだし」

「そうですね。カナミさん、決めてもらえますか?」


 声をかけられ、未だに呆然としていた僕は我に返る。

 ちなみに、まだラスティアラは返ってきていない。


「名前……、えっと、『イージス』なんて名前でいいんじゃないか? 僕の世界では、誰かを守る防具という意味がある」

「いいですね。この魔法はカナミさんを守るための魔法です。――共鳴魔法《フレイム・守護炎イージス》と呼びましょうか」


 反則的な火炎魔法の名前も決まり、僕たちは探索を再開する。

 33層は川や浅瀬といった水気みずけの多い構造となっており、その変化に合わせて敵の種類も変わってきていた。


 鉱物系の硬いモンスターが減り、水棲系のモンスターが多くなっている。

 僕は顔を明るくする。


 水棲のモンスターならば、火炎魔法への耐性が高いはずだ。

 僕とラスティアラの出番が戻ってくると思いつつ、道を進むが――


「――共鳴魔法《フレイム・守護炎イージス》」

「――共鳴魔法《フレイム・守護炎イージス》」


――そんなことはなかった。


 川の中に潜んでいたモンスターをも、ディアの光線は容易く貫く。

 

 ちょっとやそっとの水なんて、圧倒的な熱量の前には無意味だ。触れた瞬間に蒸発していくのだから、水棲だろうが鉱物だろうが関係ない。


 僕とラスティアラは水棲のモンスターを警戒して、剣を抜いたままだ。

 しかし、その剣が振るわれることはない。

 剣を構え、立ち尽くしているうちに戦いは終わる。


「モ、モンスターが近づく前に蒸発していく……」

「やることないね、カナミ……。いや、いざとなったとき、二人を護衛するのは大事なことなんだけど……、その、ね?」


 ラスティアラの「ね?」の意味が、僕にはよくわかった。


 これ、僕たちのいる意味がない。モンスターが《フレイム・守護炎イージス》をかいくぐってここまで辿りつける気がしない。

 正直、ディアとマリアの二人だけで十分だ。


 これでは、二人に寄生していると言われても仕方がないだろう。

 だが、それを言葉にすることが僕とラスティアラにはできなかった。それを認めてしまえば、今まで積み上げてきた誇りや自負が崩れるような気がした。


 穏やかな表情で後衛二人組は微笑む。


「ラスティアラさんたちがいるから、私たちは安心して魔法が撃てるんですよ」


 その言葉は優しい。優しいが――


「そうだぞ。ラスティアラもカナミも、後ろで踏ん反り返ってくれてたらいい」

「ええ。私たちが好きでやっていることです。私たちに任せて、カナミさんはゆっくりしていてください」


 ……まるでヒモをしている駄目男を甘やかすかのような言葉に聞こえてしまう。


 焦りを隠せない僕とラスティアラ。

 しかし、現実は厳しい。二人の共鳴魔法《フレイム・守護炎イージス》を上回る戦法を提案できない限り、僕たちに出番はやってこない。

 抜いた剣を、静かに鞘へと戻す。それを繰り返すのがとても悲しい。余裕が生まれ、ゲーム的な思考の割合が増えた僕にとって、何も活躍できないのは本当に本当に悲しい。


 僕たちは後衛二人に頼りきりで、33層を進む。


「――共鳴魔法《フレイム・守護炎イージス》!」

「――共鳴魔法《フレイム・守護炎イージス》!」


 回廊の至るところに炎のビットが飛び交い、領域内へ入った瞬間にモンスターたちは蒸発していく。

 もはや、これは戦闘でも何でもない。ただの虐殺――作業と化している。

 僕は落ちている魔石を拾い集めながら、ゲームのダンジョン攻略を思い出す。

 プレイヤーが強くなりすぎると、どんな敵が相手でも決定ボタンを押し続けるだけで圧勝できてしまう状態――それが今の状態そのものだ。


 マリアとディアを引き連れて歩く。それだけで、モンスターとの戦闘は全てスキップされる。

 結局、敵の影を一度も見ることなく、僕たちは安全に34層へと辿りついてしまう。


 その間、僕とラスティアラがやったことといえば魔石拾いだけだ。


 僕もラスティアラほどではないが、冒険というものに憧れている思春期の男子だ。初めての四人パーティーを組み、これからは多彩で楽しい戦いになるだろうと、心の隅で期待していた。


 しかし、現実は厳しい。僕たちに残った役割はモノ拾いだけ……。

 暗い表情で目線を落とす僕とラスティアラ。


 そして、34層から35層へ向かう途中、そんな傷心中の僕たちにマリアは話しかける。


「そろそろMPが切れそうです。《コネクション》お願いしますね、カナミさん」

「あ、はい」


 僕は言われるがままに、《コネクション》を作り出す。もう全てマリアの言うとおりにしていれば間違いない。間違いない……。


 とぼとぼとした足取りで《コネクション》をくぐる。自分の存在意義を見失いかけているラスティアラもそれに続く。


 そして、扉の先に広がる青い空。

 僕たちは『リヴィングレジェンド号』へと帰ってきた。

 

 最初の迷宮探索を終えて、甲板で成果を確認する。



【ステータス】

 名前:相川渦波 HP303/331 MP366/849-400 クラス:探索者

 レベル19

 筋力10.65 体力12.02 技量15.62 速さ18.84 賢さ16.13 魔力42.52 素質7.00

【ステータス】

 名前:ラスティアラ・フーズヤーズ HP735/783 MP338/353 クラス:騎士

 レベル19

 筋力14.99 体力14.12 技量8.59 速さ10.44 賢さ14.21 魔力10.57 素質4.00

【ステータス】

 名前:ディアブロ・シス HP220/269 MP182/1107 クラス:剣士

 レベル18

 筋力9.19 体力7.54 技量4.41 速さ4.62 賢さ15.80 魔力65.26 素質5.00 

【ステータス】

 名前:マリア HP159/264  MP23/1065 クラス:

 レベル17

 筋力9.50 体力9.31 技量8.00 速さ4.98 賢さ10.23 魔力58.12 素質4.13



 たった数時間で目標の半分近くまで進み、さらには大量の経験値を取得もした。レベルの平均化にも見事成功し、その上誰も傷一つ負うこともなかった。

 まさしく完璧な探索と言っていいだろう。


 今日の探索は昔僕が望んでいた『稲を刈るかのような探索』だ。何の文句もない。


 何の文句もないが――!


「それじゃあ、お疲れ様です。私は家事に戻りますね」

「俺は部屋で休む……。マリアがこき使うから、かなり疲れた」


 一仕事終えたマリアとディアは、共に船の中へと消えていく。

 その後姿はシューティングゲームを一つクリアしたあとのような達成感に溢れている。


 そして、甲板へ取り残される僕とラスティアラ。

 不完全燃焼で有り余っている力のせいか、身体が震える。


「わ、わわわたしはレベルアップとか回復役として要るし……?」


 開口一番に自分の居場所を確認しだすラスティアラ。


「ぼ、僕だって索敵役として役に立ってるし……!」


 言葉にしないと、自分たちが役立たずだったことを認めてしまいそうだった。


「でも、マリアちゃんも索敵できるようになってたじゃん!」

「それを言うなら、神聖魔法もディアができるじゃん!」


 なぜか、お互いの立っている場所を削りだす二人だった。


 そのくらい、僕たちは動揺していた。

 自惚れでなければ、僕はリーダーとしてみんなを引っ張っていこうとしていた。ラスティアラもサブリーダーくらいの自覚はあったはずだ。


 しかし、このままではリーダー・サブリーダーとしての立つ瀬がない。

 自分よりも小さな女の子たちに、おんぶに抱っこのパーティーとなってしまう。

 それだけは避けたい。


 マリアやディアが強いことに文句はない。文句はないが、このままではいけない。

 ゆえに、僕たちは決断する。


「――よ、よし、特訓しよう!」


 体力とMPは十分に残っている。僕は剣を抜いて、ラスティアラを誘う。


「そうだね! 特訓っ、特訓しよう! これも王道英雄譚!!」


 ラスティアラも剣を抜いて応える。

 こうして、青ざめた二人による特訓が始まった。



◆◆◆◆◆



「魔法が苦手とか言って、格好つけてる場合じゃないね。剣とかもう時代遅れだよ。所詮、剣で戦う英雄譚なんておとぎ話だったんだよ……!」


 ラスティアラは拳を握り、涙を流して力説する。


「ああ、やっぱり魔法だ。よく考えれば、僕の世界のゲームでも、ダンジョンの雑魚敵とか全体魔法頼りが一番効率的だった。単体攻撃とか、まじナンセンスだ」

「魔法……! 私たちも、そこそこの範囲魔法を使えるように……!」

「ああ、特訓するぞ! ラスティアラ!」


 僕たちは手のひらを打ちつけ合い、お互いの意思を確認しあう。


「それで、どんな特訓するつもりなの? 私、何も考えてないんだけど」

「うーん。とりあえず、新しい魔法を覚えることが重要だと思う」


 急激に強くなる方法といえば、これしかない。

 僕の複合魔法《次元の冬ディ・ウィンター》やマリアたちの共鳴魔法《フレイム・守護炎イージス》のように、アイディアさえあれば基本魔法が何十倍もの力を発揮することがある。


「でも私は新たに魔法を覚える空きがないから、応用魔法がメインになるかな」

「もしくは僕とラスティアラで共鳴魔法を覚える」

「お、それいいね。やってみる?」

「けど、ラスティアラは次元魔法が使えないからなぁ」

「次元魔法はマイナーすぎて、私の血に登録されてないしね。氷結魔法はたくさんあるけど……」

「逆に氷結魔法は僕が少ない。《フリーズ》と《アイス》しかない」


 二人とも共鳴魔法に乗り気だが、合わせる魔法が余りない。


「ほんとカナミの使える魔法って尖ってるよね……」

「修得できなかったんだから仕方ないだろ……」


 かつて、氷結魔法《リトルスノウ》の魔石を飲んだが、何も変わらなかった。おそらく、僕が増やせる魔法は次元魔法だけなのだろう。


「それじゃあ、色々と試してみる?」

「とりあえず、簡単な氷結魔法をかけあわせよう。最初はマリアたちの真似をしてみるのも悪くない」


 氷結魔法《アイス》《フリーズ》から始め、様々な魔法を展開する。お互いの魔法と混ぜ合わすために試行錯誤してみるが、成功したのは前例のある《フレイム・守護炎イージス》の模倣だけだった。


 やはり、魔法はイメージに頼っているところが多い。僕の魔法も模倣しているものばかりだ。


「――魔法《アイスアロー》」

「――魔法《次元の冬ディ・ウィンター》、《次元雪ディ・スノウ》」

「共鳴魔法《アイス・守護氷イージス》」

「共鳴魔法《アイス・守護氷イージス》」


 氷の結界が甲板に張られ、《次元雪ディ・スノウ》が舞う。

 そして、ラスティアラの放った氷の矢が、僕の精製した雪の道に導かれながら空を貫く。


 模倣は成功だ。

 しかし、精度も威力も低過ぎる。試しに動いているものを対象にしてみたが、飛ぶ鳥一羽も落とすことができなかった。


「……駄目だ。根本的なところが足りてない」

「魔力操作の精度においてカナミはマリアちゃんに劣っていて、魔法の威力において私はディアに劣っている……。うーん、上手くいかないもんだね……」


 消費魔力を足して数を増やしたところで意味はない。

 仮に鳥に命中させることはできても、迷宮30層以降のモンスターに通用するような代物ではなかった。


「仕方ない。まずは、もっと自分の魔力を細かく操作できるようになるのを目指そう」

「私も魔法構築から見直すべきみたいだね……。ディアみたいに収束ができていないから、威力が低い……」


 僕たちは自分の魔力をこねながら、うんうんと唸り続ける。

 同じ魔法を使ったことで、はっきりと差がわかった。魔法の練習をしながら、それを解決する方法を考える。


 手遊びに二人で魔法の雪だるまを作り、雪合戦をして、身体を雪まみれにしながら悩み続ける。

 目一杯遊んで、頬を上気させ白い息を吐いていると、ラスティアラは顔を明るくする。


「あっ」

「何か思いついたのか?」

「いや、思い出したんだよ。魔法使い同士が決闘するときに使うルールなんだけど……、こうやって、陣地を作って……――」


 ラスティアラは氷結魔法の練習のし過ぎで積もった雪の地面に、足を使って線を引く。


「――この線の中に入って、魔法を撃ち合うわけ。魔法以外使ったら負け。動いても負け」

「へぇ、面白そうだね。いい訓練になるかもしれない」


 僕も真似をして、線を引く。

 その中に入り、僕たちは見つめ合う。


「それじゃあ、軽くやってみよっか。――《アイスアロー》!」

「――《次元の冬ディ・ウィンター》」


 魔法の冬を展開して、ラスティアラの魔法構築をずらし・・・、霧散させる。


「むうっ、相変わらず『魔法相殺カウンターマジック』が好きだね」

「そっちの魔法構築が甘いのが悪い。このルールで『魔法相殺カウンターマジック』を狙わないわけにもいかないでしょ」

「つまり、構築さえしっかりとしていたら『魔法相殺カウンターマジック』はされないの?」

「ああ、隙がなかったらできない。そこを意識してやってみたらいい」

「なるほどねー」


 助言し合いながら、僕たちは魔法を次々と構築していく。

 魔法を扱う力量がほぼ同等だったため、戦いは思いのほか長引く。


 魔力量は僕のほうが上だ。しかし、ラスティアラの血には多種多様の魔法と経験が記されている。

 その経験を活かして魔法構築を固め、時には手を変え品を変え、『魔法相殺カウンターマジック』をすり抜けようとする。


 やはり、ラスティアラの戦闘センスは並外れている。

 この短い時間で、自分の魔法構築を根本から覆していく。無詠唱を超えて、魔法構築の短縮まで至る。魔法発生箇所を手から足に変更して、魔法の出所を上手く隠すという小技も使ってくるのだから油断ならない。


 ラスティアラは四方八方で、他属性の魔法を同時に展開する。

 初見の魔法を《次元の冬ディ・ウィンター》で霧散させるのは難しい。さらにラスティアラは徐々に『魔法相殺カウンターマジック』されることに慣れてきて、魔法構築の隙も減ってきている。


 劣勢と言わざるを得ない。

 足を止めての魔法の競い合いでは、僕の長所が全く働かない。

 仕方なく、僕は魔力にものを言わせた戦法に切り替える。


「――《ミドガルズ・フリーズ》!!」

「――待ってましたっ、《アイスバトリングラム》!!」


 しかし、その大振りを狙われていた。

 『魔法相殺カウンターマジック』を止める瞬間を見計らわれ、ラスティアラも大技へと移行する。


 ラスティアラの巨大氷槌によって、僕の精製した巨大氷蛇は粉々に破壊される。

 そして、《アイスバトリングラム》は、その勢いのまま僕を陣地から追い出した。


 魔法使いの決闘はラスティアラの勝ちだった。


「参った……。なかなか面白いなこれ。なかなか論理的で好みだ」


 身体に付着した氷を払いながら、ラスティアラに近寄る。

 ピースサインを見せつけながらラスティアラは、ポーズとは裏腹に真面目な表情で語る。


「いい練習になるね。少しでも隙を作るとカナミに相殺カウンターされるから、とてもわかりやすかったよ。今まで、いかに自分の魔法の構築が雑で無駄だったかもよくわかった」

「僕も『魔法相殺カウンターマジック』を繰り返して、色々な魔法を見れて勉強になった」


 一度相殺カウンターしたことがあるのとないのでは大違いだ。

 今後、多くの敵の魔法を相殺カウンターすることになると思う。その前に、ラスティアラの魔法で予習しておくのもいいかもしれない。


 僕たちは空っぽになったMPに、ある種の清々しさを感じていた。


「っふうー。そういえば、強くなる努力したのなんて初めてだよ」

「僕もだ。最初から次元魔法があったし、レベルアップのせいでトレーニングする必要がなかったからね」

「私なんて、最初から剣術体術に魔法全部マスターだよ。努力する気なんて起きるはずないよ」


 僅かに滴る汗を拭きながら、笑い合う。


「新鮮な感覚だな……」


 異世界へ来てから一度も味わったことのない感情だ。


「うん、汗を流すって気持ち良いね」

「ディアとマリアのおかげだ。まさか、僕たちが力不足で焦ることになるなんてな」

「いいね、青春だね。冒険譚だね!」


 訓練結果を見るために、僕はステータスを確認する。



【ステータス】

 先天スキル:剣術4.89 氷結魔法2.58+1.10

 後天スキル:体術1.56 次元魔法5.25+0.10 感応3.56 並列思考1.47

       編み物1.07 詐術1.34 魔法戦闘・・・・0.72

 ???:???

 ???:???

【ステータス】

 先天スキル:武器戦闘2.20 剣術2.12 擬神の目1.00

       魔法戦闘2.27 血術5.00 神聖魔法1.03

 後天スキル:読書0.52 素体1.00 集中収束・・・・0.21



 ラスティアラも僕も、新しいスキルを一個ずつ修得していた。とはいえ、まだ数値は低い。取っ掛かりを得たといったところだろう。


 確かな前進を確認して、頬がほころぶ。

 ラスティアラもスキルの増加が見えているのだろう。新しい洋服をプレゼントされた女の子のように嬉しそうな笑顔を浮かべる。


 当然、僕は感情をコントロールする。彼女だけを特別としないようにする。

 そして、いつも通りの対応で僕はラスティアラとハイタッチをした。


 まだまだ元気なラスティアラは僕に問う。


「ねえ、カナミ。他に特訓すべきものって何かあるかな?」


 今まで自分の努力で何かを得たことなどなかったのだろう。

 興奮した様子で擦り寄ってくる。感情のコントロールが難しくなるから止めて欲しい。


「そうだな、あとは……」


 『並列思考』で考えた結果、『持ち物』から『アレイス家の宝剣ローウェン』を取り出した。

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