45.24層まで


「――こういうこと。身の丈に合わない魔法だと、すぐMPが足りなくなるんだよね。要は継戦能力が足りないんだよ、マリアちゃん」


 息を切らせて女の子座りしているマリアに、今回の反省点をラスティアラは説明していく。

 ちなみに、場所は20層の魔法《コネクション》の前だ。


「はぁっ、はぁっ……。そ、そうみたいです……。駄目みたいですね……」


 マリアは項垂れながら、同意する。


 身をもってラスティアラの言っていることを痛感しているのだ。反論なんてあるはずもない。


 そして、マリアはゆっくりと立ち上がり、笑いながら言葉を続ける。


まだ・・駄目みたいなので、今日は帰りますね。手間を取らせてしまいました……。すみません」


 表情は笑顔だ。

 けれど、蒼白の上に張り付いた笑顔は不気味で仕方がない。どういった感情をもってマリアが笑っているのか、僕にはわからない……。


 僕が返す言葉に迷っていると、ラスティアラが代わりに応える。


「うん、また・・ね。……マリアちゃん、今日は肉料理が食べたいな。こう、庶民的な、大味で、がっつりと食べられるようなやつでお願いっ」

「ふふっ。はい、わかりました。美味しい料理を作って待ってますね」


 ラスティアラとマリアは笑い合いながら、今晩の料理を決めていく。


 その会話を最後に、マリアは魔法《コネクション》を通って家に帰っていった。


 20層に僕とラスティアラだけが残される。

 ラスティアラは軽く身体を伸ばして、ストレッチをしながら僕に聞いてくる。


「ふー。なかなか面白かったねー」

「……僕は冷や汗ものだったけどね」

「あの剣みたいな火炎魔法があれば、マリアちゃんは21層のモンスターに近づかれても大丈夫だから、前よりは安心できたんじゃない?」

「中途半端に攻撃手段があったほうが怖い。何もできないときの方が安心して見れたよ……」


 強力な魔法を手に入れたとはいえ、マリアのステータスは21層には適していない。

 マリアはフューリーの速さについていけず、攻撃は受けきれず、当然ながら一度のミスで死に繋がる。それを安心して見られるわけがない。


 僕は息をつきながら、21層への階段に向けて足を進める。

 それにラスティアラはついてきながら、今後の目標を確かめてくる。


「で、今日も24層を目指すのかな?」

「いや……できれば、21層で延々とモンスター狩りたいんだけど」

「え、レベル上げが必要なほど、敵強い?」

「そうでもないけど……」


 確かに、敵の強さに問題は感じない。

 なんだかんだで、ずっとまともな攻撃クリーンヒットは受けていないのだ。


「レベル上げするなら、もう少し進んでからにしようよ。次の目標となる敵のレベルの目安を確認してからのほうが、レベル上げもしやすいでしょ?」

「そうだけど……。モノは言いようだな……」


 ラスティアラは奥に進みたいだけだろう。

 どうにか理由をつけて、深層に進もうとしているのが丸分かりだ。


 だが、僕はラスティアラの熱意に負け、首を縦に振る。まだ危険を感じる敵がいないのは確かなのだ。


「……わかった。少しだけ進んでみようか」

「そうこなくちゃね」


 僕とラスティアラは21層に降り、迷宮の奥へと進んでいく。



◆◆◆◆◆



 20から23層までの道中に、異変はなかった。

 モンスターの種類が少ない層なので、新手のモンスターと出くわすこともなく、問題なく『正道』を進むことができたのだ。


 敵は極力避けて進んだ。

 例の23層を探索するための余力を残すためだ。


 そして、かなりの余力をもって23層を探索し始めた僕たちだったが、24層に繋がる階段を見つけられないでいた。


「――な、ないな……」

「ない……。あぁー、いらいらする……」


 二度目の探索なので、すぐに24層への階段は見つかると思っていたが、思ったよりも上手くいかないものだった。

 歩き回り始めて2時間経ったが、一向に階段が見つかる気配はない。


 そんな現状にラスティアラのフラストレーションは溜まる一方だった。

 痺れを切らしたラスティアラは叫ぶ。


「キリストっ! 感知魔法をもっと広範囲に飛ばそう!」

「んー……」


 できれば避けたい手段なので、唸る。

 いま僕の魔法《ディメンション》は周囲数メートルまでしか展開していない。場合によっては、切ってさえいる。広範囲の感知は、一定時間ごとに周囲のモンスターの確認のためぐらいにしか使っていない。


 MPの節約という理由もあるが、この迷っている状態が悪いとも思っていないのだ。


 迷っているとはいえ『マップ』はちゃんと埋まっていき、手ごろなモンスターと適度に戦い続けている。時間は食っているものの、経験値と資金の調達ができているのだから僕に文句はない。


 けれど、ラスティアラはそうでない。

 23層の蒸し暑さに、苛立ちが頂点に達しかけている。


「時間がもったいないじゃん!!」

「こっちはMPがもったいないんだよ。いいじゃないか、歩き回っていれば。地図は埋まっているんだから、いつかは辿りつく」

「というか、そもそもっ! 本当にキリストは、いままでの道を暗記できてるの!?」

「ああ、それは間違いない」


 ラスティアラには『マップ』システムを詳細には教えていない。「一度歩いた道は忘れない」としか言っていないので、僕のマッピング能力に対してラスティアラは疑いを持っているようだ。


 途中、何度か激しい戦闘もあった。それでいて正確に覚えていると言われても信じられないのかもしれない。


 『マップ』システムについて詳しく教えれば納得してもらえるだろうが、何でもかんでも教えようとは思っていない。

 いまここでは信じてもらえなくても、何日か繰り返せば、いつかは僕のマッピング能力の正確さは納得してもらえるのだから。


「間違いない? ほんとのほんとに?」

「ああ」


 ただ、ラスティアラは疑い深く、何度も僕に確認を取ってくる。

 できれば、僕の魔法《ディメンション》で、さっさと次の階層に行きたいという願望が見え隠れしている。


「ほんとのほんとのほんっとーに、いつかは階段に辿りつけるのは間違いない?」

「本当に間違いないよ」


 僕は断言する。

 うたぐるラスティアラの目を真っ向から見返す。


「はあ……。そこまで言うなら信じようか。……水ちょーだい」

「はいはい」


 ラスティアラは魔法の催促を諦め、水の催促に切り替える。

 僕は『持ち物』から水を取り出して、ラスティアラに手渡す。


 23層の温度は高いものの、『持ち物』に入っている水は冷たい。といっても現代基準の冷蔵庫ほどの冷たさではない。だが、気温の高い23層では助かる冷たさではある。『持ち物』内が、外の温度の影響を受けないことに僕は感謝する。


 そこで、ふと『持ち物』について考察する。

 いままで、何気なく使ってきたシステムだが、戦闘にも応用し始めた以上、もっと理解する必要性がある。


 まず、この『持ち物』内は、外の温度の影響を受けない。

 このことから、隔絶された空間であることがわかる。


 そして、『持ち物』から取り出すときに手探りの必要はない。僕の考えに反映したものを自然と掴ませてくれるのだ。

 その感覚は、広い空間にある特定のものへ手を伸ばすとは違う。全ての道具に、それぞれの空間が用意してあり、特定のものを考えるとその特定の空間に繋げてくれるといった感じだ。


 そのことから、『持ち物』は大部屋ではなく、無数の小部屋で構成されていることがわかる。


 『持ち物』空間内の法則も色々とわかってきた。

 異空間であることから物理法則を無視しているかと思ったが、そうでもない。空間内も時間が流れており――例えば、血のついた剣を放置すれば錆びていく。同様に、水だって腐っていく。


 万能ではないが有能。

 というのが、いまのところの感想だ。

 利用の仕方によっては、ただの倉庫だけでない使い方もできる。


 僕は23層を歩きながら、『持ち物』の出し入れの検証を進める。


 そうしていると、モンスターの群れを感知した。

 23層に出てくる不定形のモンスター、レッドエレメントが一箇所に多く集まっている。レッドエレメントは5層に出てきたシャドウハングの炎属性のようなもので、物理攻撃に耐性のあるモンスターだ。


 斬り刻んで核を潰すか、魔法攻撃を使わないといけないので、僕たち二人にとっては面倒な相手だ。


 僕は群れを避けようと思い、レッドエレメントたちの動きを観察していると、その中心に一際大きなレッドエレメントがいるのを見つける。


「あ、ボスがいる」


 一応ラスティアラに、その報告をする。

 僕としては深層に進むより、ボス狩りのほうが望ましいのだ。

 リスクは高まるものの、深層に進むほどのリスクではない。それでいて、確かなリターンがある。


「え、ボス!? ほんとに?」


 すると、ラスティアラは下がりきったテンションを一瞬で持ち直して、目を輝かせる。


「あのゆらゆらした炎のモンスター、レッドエレメントのボス格がいるね。いつの間にか、レッドエレメントのエリアに入っていたみたいだ。どうりで暑さが増してたわけだ」


 あてもなく迷宮を歩いていたせいで、ボスの支配するエリアに迷い込んだようだ。

 『正道』のない23層からは、こういった事態は増えていくだろう。


「よーし。そいつ、倒そう倒そう」

「近づくと、もっと暑くなると思うけどいい?」

「倒せば涼しくなるんじゃない?」


 ラスティアラは暑さよりも楽しさを取るようだ。


 僕たちはボスを倒すことに決め、ボス戦の作戦を決め始める。

 ただ、作戦といっても簡単なものだ。僕たちは連携して爆発力が生まれるわけでもないので、単純に散開して同時に強襲するだけだ。一応、敵の特徴から、魔法攻撃主体で戦うと決めてはある。


 僕はラスティアラにボスの方角を教え、「一分後に突撃して。僕は違う方向から突撃するから」と言い残し、ラスティアラとは違う突撃ポジションを探しに行く。


 突撃するためのポジションを見つけ、すぐに魔法を構築する。


「――魔法《ディメンション・決戦演算グラディエイト》」


 次元魔法を戦闘用のそれへと変えていき、魔法攻撃の準備を行う。


「――魔法《アイス》、魔法《フォーム》。――魔法《氷結剣アイスフランベルジュ》」


 道中の間に新しく開発した複合魔法を剣に使用する。

 僕の持つ宝剣に冷気が込められ、氷によるコーティングがされていく。


 マリアの新魔法《フレイムフランベルジュ》を真似したものだ。あそこまでの魔法剣を魔力だけで創造するのは難しいが、元ある剣を利用することで、似た魔法の創造に成功したのだ。


 元となるイメージがあったので、創造に時間はかからなかった。

 これで、冷気による攻撃ができる。


 《氷結剣アイスフランベルジュ》の完成と同時に、待機していたラスティアラが走り出したのを魔法で感知し、僕もボスに向かって走り出す。


 近づけば近づくほど、気温は上がっていき、回廊も焦げついた岩石に姿を変えていく。


 僕とラスティアラの突撃は目にも止まらぬ速さだ。

 少なくとも、23層までのモンスターに追いつけるやつはいない。


 その突然の急襲にレッドエレメントたちは対応しきれず、僕とラスティアラが横を通り過ぎるのを許してしまう。


 僕たちはボスと対峙する。


 敵の大きさはレッドエレメントの五倍。

 その身に宿る熱も同じ倍率くらいだろう。

 外見の特徴は変わらず、ただただでかい。



【モンスター】フレイムスコール:ランク26



 名前はフレイムスコール。


 僕とラスティアラは眷属たちを放置して、一目散にボスへ斬りかかる。


 それぞれの剣がフレイムスコールを捉え、そのゆらめく炎を切り裂く。切り裂く――が、手応えはない。


 僕とラスティアラは全くの手応えのなさに体勢を崩す。


 僕もラスティアラも、持っている剣に自分なりの魔法を付加している。敵を斬ったとき、少しはひっかかりがあると思っていたのだが、その期待は裏切られてしまったようだ。


 このくらいの冷気の剣では、ボス格のモンスターには通用しないということだろう。


 そして、体勢を崩している僕とラスティアラに、フレイムスコールの反撃が襲う。

 フレイムスコールは突然の敵襲に対して、炎の両腕を形成し、周囲をなぎ払った。


 僕とラスティアラは大きく跳ね退くことで、それの直撃を避ける。

 だが、直撃はしなかったものの、その余熱によって服が焦げつき、大気が焼ける。その大気を吸引すると、喉に鋭い痛みが走る。


 僕はレッドエレメントとは勝手が違うことを理解し、焼けつく喉に鞭を打って叫ぶ。


「ラスティアラ! 一旦、下がるか!?」


 撤退を提案する。

 僕とラスティアラの二人の強みは、何においても機動性だ。その気になれば、いつでも撤退戦に移れることが最大の長所なのだ。


 しかし、ラスティアラはそれを拒否する。


「いや、私に手がある! ちょっとフォローして!」


 そう言って、ラスティアラは何かの魔法を構築しながら、距離を取り始める。


 僕は仕方がなく、フレイムスコールに対して剣を構え、気を引きつけることにする。


「こっちだ! ――魔法《フリーズ》!」


 僕は周囲の気温が下がる魔法を唱え、声をあげて存在をアピールする。炎のモンスターならば、気温を下げられるのは不快だろうという稚拙な嫌がらせだ。


 それを見たフレイムスコールは、両腕を合わせ、巨大な炎の槌を僕に振り下ろしてくる。


 僕は大きく横に跳ねて、かわしきる。

 目に見える炎であれば、僕の俊敏さがある限り直撃を受けることはない。


 眷属モンスターであるレッドエレメントたちも僕に火を飛ばすが、ボスでもないモンスターの炎は脅威にならない。


 このまま、モンスターたちの炎をかわし続けようと思った矢先、フレイムスコールが形状を大きく変化させた。


 周囲の空気を吸い込み、体を膨張させる。

 嫌な予感がした僕は距離をとる。

 そして、元の世界の経験から、次は広範囲の炎がくるのではないかと思い、『持ち物』から水と布を取り出し、ずぶぬれの衣を作る。


 予想通り、フレイムスコールの巨体から炎が噴出される。炎の津波のように、回廊一帯を飲み込む広範囲攻撃だ。僕は予想が的中して良かったと思いながら、ずぶぬれの衣を前面に広げる。


 どれだけ僕が速かろうが、こういった攻撃をされると避けようがない。僕は魔法《フリーズ》を周囲数センチメートルに集中させ、さらにずぶぬれの衣を盾にして、炎をしのぐ。


 広範囲にしたことで火力が下がっていたため、なんとか僕は炎をしのぎきる。僕は一息つき、魔法を詠唱しているであろうラスティアラを心配して目を向ける。


 そこには、光り輝く魔法の壁を展開し、無傷のラスティアラがいた。

 ラスティアラは滅多に魔法を使わないが、神聖魔法の引き出しは多い。いま程度の炎を防ぐ魔法は、いくらでもあるのだろう。問題なく詠唱を続けている。


 安全度に不公平なものを感じ、僕はラスティアラを置いて逃げようかと思う。

 そんな僕の目線を感じたラスティアラは、こちらに親指を立てて「流石、キリスト! もう少しがんばって!」と言わんばかりの笑顔を見せた。


 僕は嘆息しながら、フレイムスコールに向き直る。


 広範囲攻撃では決定打にならないと判断したフレイムスコールが、炎の両腕を僕に伸ばしてきていた。


 僕は避け続ける。

 反撃を考えなくてもいいので、かわすのは容易だ。


 しかし、辛いのは攻撃の余波。

 余熱だ。


 余熱によって肌が焦げ、吸い込む空気が凶器と化している。

 徐々に息が苦しくなり、そろそろ後退しようかと思ったとき、やっと助けが入る。


「――神聖魔法《シオン》!」


 炎の満ちた回廊に、魔法の光が侵略する。

 ラスティアラの神聖魔法だ。


 そして、いつかのディアの魔法と同じということを、僕は理解する。


 あのときと同じように魔法の球体が迷宮に溢れ、フレイムスコールの魔力を固めていく。


 ――これで、攻撃が通るか?


 僕は剣を持ち直し、逃げから攻めに転じる。


 僕の剣は易々と巨大な炎の腕を斬り飛ばした。

 フレイムスコールは何が起きたのかわからず、声なき声をあげ、身を震わせる。


 さらに背後からラスティアラの剣が突き刺さり、その震えさえも許されなくなる。


 炎の身体という利点を失ったフレイムスコールに勝機はなくなった。

 僕とラスティアラの高速の剣に対応できることなく、バラバラにされていく。


 少しして、フレイムスコールは完全に解体され、光となって消え去った。



【称号『揺らめく炎』を獲得しました】

 火炎魔法に+0.01の補正がつきます



 称号を得る。しかし、僕に火炎魔法のスキルはないのでステータスを表示させても変化はなかった。おそらくはラスティアラも同様だろう。


 僕はフレイムスコールの落とした魔石を拾い、周囲の眷属モンスターに注意を移す。


 もうラスティアラは残りを掃討するために、神聖魔法を付加した剣を振るっていた。僕も参加していいが、そうなると慣れない氷結魔法を使わないといけないので、MP節約のために自重する。


 数分もしないうちに掃討戦は終わった。

 それなりに疲弊したラスティアラが拾い集めた魔石を僕に手渡す。笑顔で。


 ボス戦のおかげか、機嫌が良さそうだ。


「ふう。それなりに面白かったね」

「僕は丸焦げになるところだったけどな」


 僕は焼けた上着と外套を脱いで捨てる。

 今日は元の世界の服を下に着ていたため、それが露わになった。それを隠すため、すぐに『持ち物』から新たな外套を取り出す。


 僕の服を見たラスティアラは、それを興味深そうに眺める。


「へえ、それが異世界の服? エキゾチックでいいね。私も着てみたいな」

「何言ってるんだ。数少ない僕の故郷の品だぞ。絶対に嫌だ」

「たぶん、私なら似合うと思うよ。ほら、私って素材がいいし」

「これは男物の服だ。諦めろ」


 僕は外套を羽織って、ラスティアラの視線から故郷の服を隠す。

 そして、話題を変えようと、先ほどの戦闘の話を振る。 


「それよりも、さっきの神聖魔法……魔法《シオン》だっけ? あんなのが使えるなら先に言ってくれ。最初からあれを計算に入れていたら、もっと楽だった」


 僕はラスティアラに色々と手札を隠しているが……おそらく、ラスティアラのほうが隠している枚数は多いだろう。


「んー。さっきの魔法はMPをかなり食うから、本当は使いたくなかったんだ」


 ラスティアラはそう言って、自分のステータスを確認するように促してくる。

 僕はラスティアラを『注視』して、MPを確認する。



【ステータス】

  HP621/709 MP121/325



「うわっ……。すごい減ってる……」

「神聖魔法の中でも上位の魔法だからね。ただでさえ魔法は苦手だから、消耗も激しいことこの上ないよ」


 ラスティアラは説明しながら少し乱れている息を整えている。彼女の息が乱れているのを見るのは、初めてかもしれない。


「その魔法を当てにしては欲しくないってこと?」

「そういうこと。これに頼ってちゃ、深層には行けないよ」


 ラスティアラはもっともらしい理由をつけるのが上手い。単に剣で戦いたいだけなのを誤魔化している気がする。けど、筋の通った話なのも確かなので、僕は頷くしかなかった。


「わかったよ」

「うん。私の魔法は最終手段ってことで」


 話も一段落つき、僕たちは24層を目指して歩き出す。


 『マップ』の埋まり具合を見る限りは、そろそろ24層への階段が出てきてもいい頃だ。

 そのことを僕はラスティアラに伝える。それを知った彼女は、テンションを上げて歩みを速める。


 僕たちが階段を見つけたのは、フレイムスコールを倒した数分後のことだった。




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