第54話 消火魔道具

 アイデアが固まったので、報告をしに社長室へ。


「社長」


「おお、ハダル君か。どうした?」


「新事業のアイデアが出たので、その報告に来ました」


「……もう? は、早いな……」


 社長室の訪問理由を伝えると、ヒセロ社長は期待と困惑が混じったような表情を浮かべた。


「どんなアイデアだ?」


「消防設備です。ゼット・エム消防に家屋の損傷を小さくできる装置を導入すれば、保険金を下げられるかと」


「なるほどな……そこに目をつけたか。確かに、ゼット・エムは軌道に乗っているとは言い難いし……解決の糸口が見つかっていないんだよな」


 アイデアの内容を聞かれ、簡潔に答えると……社長は難しそうな顔をする。


「あの子会社の軌道修正は、相当難しいと思うが……勝算があるんだな?」


「はい。一つ、状況を打開できる魔道具に心当たりがありまして」


「そうか。まあハダル君がそう言うのであれば、是非とも取り組んでいただきたい」


 が、立案者が俺というだけで、なぜか企画はすんなりと通った。

 ありがたい限りではあるのだが。


「我々はどう協力すればいい?」


「とりあえず、装置の現物を作って持参します。ですので、そのあと実証実験に使っていただければと」


「……作る段階で必要なものとかは?」


「作るのは簡単なので、何もしていただかなくて大丈夫です。出来上がったものに対し、使用感に応じて成果報酬を支払っていただければと」


「それでいいのか……。まあ、弊社としては助かるが」


 話はまとまったので、俺は社長室を後にし、貸し切ってもらった部屋に帰ることにした。

 それじゃ、魔道具の制作開始だ。


 まず俺は、収納魔法からギガントフェニックス級の魔石を5つほど取り出した。

 これらは今までに、潜水魔道具やフランソワにつけた浮遊魔道具越しに回収したものだ。


 そのうち一つを用い、まずは見覚えのある魔道具を一個作成する。

 浮遊魔道具だ。

 これは街全体を監視し、出火をいち早く察知するためのものだ。


 そして……残りの四つの魔石で作るのが、消火用の魔道具。

 魔法陣を刻み、錬金魔法で作ったいくつかのパーツを取り付けると、ものの数十分で四基の魔道具が完成した。


 この魔道具は、砲台か取り付けられたヘリのような外見をしている。

 しかし、砲台から発射されるのは、もちろん弾丸ではない。

 ――大出力の液体窒素だ。


 この魔道具の名前は、N2ブラスト。

 古代文明でメジャーだった、全自動消火装置だ。


 最大出力は、四基併用すれば最低限の威力の竜の息吹を相殺できるほど。

 よほどの自然災害を除けば、これで消火できない炎は無いと言っても過言ではないだろう。


 もっとも、普段はそんな出力で運用はしないが。

 たとえ一瞬で火を消せても、噴射する液体窒素の勢いが凄すぎて家屋が吹っ飛んだら本末転倒だからな。

 普段はリミッターをつけて、家屋が耐えきれる程度の威力で液体窒素を噴射し、消火する運用方法になるだろう。


 移動速度もそこそこあって、この王都くらいなら、五分もあれば端から端まで横断することができる。

 それを四基も作ったので……バラバラに配置しておけば、浮遊魔道具が出火を検知してからN2ブラストが到着して鎮火するまで、数分もかからないはずだ。


 そんなスピード感で消火すれば、火事による家屋の損害は、一部屋が焦げ付くくらいに収まることだろう。

 となると、支払う保険金も従来の数分の一、下手すれば十数分の一で済むって算段だ。


 完成したし、早速社長に見せに行くとしよう。

 一度でも実際の火災現場で使ってもらえば、効果の大きさに満足してもらえるはずだ。


 などと思いつつ、再び社長室まで歩いていく。

 ノックすると「どうぞ」と言われたので、ドアを開けると、


「おお……ハダルか。今度はどうした?」


「完成したので、見せにきました」


「魔道具作成の計画がか? 見せてみろ」


 用件を聞かれて答えると、思ってもみない勘違いをされてしまった。


「いえ……魔道具そのものがです」


 慌てて俺は、そう訂正する。

 すると……社長の目の色が変わった。


「……な!? もうできた……だと!?」

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