第239話 後輩ちゃんと私の秋の一日
「先輩のクリちゃん食べたいッス……♪」
とかなんとか言いだした後輩ちゃんの口にお望みのものをねじ込んで黙らせてあげる。
「おいし?」
「あまいッス~♪」
「それはよかった」
そうしたら後輩ちゃんも同じくモンブランの上の栗を差し出してくるから、もちろん受け入れる。
甘くてほろほろした栗を食べる私を、彼女は鼻を膨らませて見つめていた。
「ん、ほんとだ。すごいおいしいね。ありがと」
「えへへッス~♡」
同じケーキ持ってきてお互いに交換するとかいうイチャイチャムーブ。傍から見たらとんでもないバカップルに見えるんだろうなぁ……でも幸せなので良しとする。
後輩ちゃんとのんびりデートinスイパラ。
寝落ちするまでケーキが食べたいだなんて、よくよく考えるととても物騒なことを言って彼女に誘われた。
ほんのりとイライラすることがあったらしい。
まあ具体的なことは聞いてないけど、彼女がお望みならいくらでも付き合っちゃう。
後輩ちゃんはモンブランのクリーム部分をもむもむと食べて、はふぅと吐息した。
「クリちゃんおいしッスけど、なんッスかねー。秋を感じちゃうッス」
「いつになくセンチメンタルだね」
「シッケーなッス! みうもカンショーにひたるときくらいあるッスよ!」
「これは失礼しました」
はいあーん、とイチゴクリームのケーキを食べさせてあげると、後輩ちゃんはむふーと鼻息を漏らす。どうやら許してくれたらしい。ちょろかわ。
「みうちゃん寒いの嫌い? スープのむ?」
「サムいからじゃないッスー!」
といいつつスープは飲む。
かわいい。
「えー。じゃあなんでなんで?」
「センパイはドンカンッスね~」
「ふぅん?」
その口ぶりは……なるほどね。
「まだ私二年生だよ?」
「みうはいちねんせーッス」
「もう。かわいいなぁ」
すねたように口をとがらせる後輩ちゃんをぎゅっと抱き寄せる。
おでこの横のほうにちゅっと口付けたら、背中に腕を回されて、そのままキスをくれた。
「センパイのほうが背が高いッス」
「それはあんまり……関係ないんじゃない?」
「おっぱいはぎりぎりみうのほうがおっきッスけど」
「えー。そうかな」
「くらべてみるッス?」
「今度ね」
「あとはあとはー」
後輩ちゃんと一緒に、時間がくれそうなものを出し合ってみる。
私と彼女の一年の差がどんなものによってできているのかを、考えるみたいに。もしそれを埋められたところで、結局変わりはないんだけれど。
それからまたふたりでケーキのお代わりを取りに行く。次はこれにしよう、さっきこれがおいしかった、でもおんなじの食べるのはもったいないかなぁ、それなら半分こにしようか、なんて。
テーブルに戻って、ケーキに舌鼓を打ちながら。
さっきまでの会話を引っ張り出して、私は遠くを見る。
「食欲の秋だねぇ」
「ッス。あったかいのが食べたくなるッス。みうサムいのスキくないんッスよねー」
「あ。ほらやっぱり」
「それはそれッス」
パクパクもぐもぐ。
ケーキを食べて、スープを飲む。
そういえば後輩ちゃんは、スープをあふれるくらい注いでいる。なるほどなぁ。
「いつから冬なんだろ」
「サムくなったらッス」
「なるほど賢い。じゃあ冬も嫌い?」
「秋も冬もキライじゃないッスよ」
「どうして?」
尋ねたら、むぎゅっと腕に抱きつかれる。
「去年まではキライだったッス」
「かわいいこと言っちゃって……」
「センパイはあったかいからスキッス~♪」
「かわいいこと言っちゃって!」
まったくもう、と抱きしめたら後輩ちゃんは楽しそうに笑った。
もう半年ずっとこうしていたいくらいだ、なんて思ってたら暖房が暑いのか普通に離れていった。無常。
「はぁー、おなかいっぱいッス!」
「どうする? ぱーっとカラオケでもいこっか」
「やー、消費しちゃうのはもったいないッス」
「貯蓄感覚なんだ……」
「センパイといっしょにお昼寝したいッスー!」
「ん。ならうちにおいでおいで」
「んふふ~」
なんとも嬉しそうだ。
すっかり機嫌はよくなったらしい。
けっきょくなんでイライラしてたのかはあんまり分からなかったけれど……私が理由で上機嫌になっているのなら、まあそれでいいや。
スイパラを出たら、後輩ちゃんはぶるりと身体を震わせて、私に後ろからぎゅーと抱っこされるのを求めてきた。
「れっつごーッス!」
「このまま歩くの?」
「秋ッスから!」
「秋だからかぁ」
それなら仕方ないなと笑って、私は彼女の防寒具に甘んじるのだった。
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